第3話 カレンの疑問とうっかり
じいやに謝っただけで大騒ぎの中、私のお腹が盛大に鳴る。こんなにうるさいのにその爆音は全員に聞こえたようでみんながこちらに注目する。
「姫様! 今すぐ食べ物をお持ち致しますのでしばしお待ちを!」
そう言ってじいやは駆け足で部屋から出て行く。残されたのは私とお父様、お母様、そして弟の四人。今の私の家族だけだ。
「それにしてもカレン。本当に目覚めて良かった。心配してたんだぞ」
「そうよカレン。生きた心地がしなかったのよ」
「もしカレンがいなくなったらって思ったら……」
お父様はようやく笑顔を見せ、お母様は涙ぐみ、スイレンはまた泣いている。すっごくクソ生意気な姫だったのに、家族にはちゃんと愛されていたんだな。嬉しさがこみ上げる。
「あの……そういえば十日も眠ってたって……」
聞きたかったことをおずおずと聞いてみた。
「あぁ。お前が頭を怪我してそのまま目を覚まさなくなった三日目に一度目を覚ましたのは覚えているか? すぐにまた眠りにつきそのまま目を覚まさず……そして今日だ。眠りながらでも少量ずつ水は飲んでいたから良かった。頭の怪我はもう治っている。怪我自体は軽いものだったぞ」
頭を怪我したってことは、頭を打ったり殴られたりしたってこと? やっぱり姫だから命を狙われて暗殺とか……?
「……怪我の原因は?」
何も思い出せない私はゴクリと喉を鳴らしながら勇気を出して聞いてみた。
「え? カレン覚えてないの? 僕とどっちが高く跳ねられるか競争をして、着地に失敗して足をひねって倒れて頭をぶつけたの」
スイレンに「跳ねる?」と聞くと何回かその場でジャンプをする。……どうやら私はクソ生意気なお姫様で、なおかつお転婆でもあったらしい。すっごく複雑な心境でついつい真顔になってしまった。
「大丈夫だよカレン! カレンは着地に失敗はしたけど僕より高く飛んでいたよ!」
いや、そこじゃないんだけどな、と思っていると、スイレンはエヘヘと笑いながら私の頭を撫でてくれた。その笑顔が可愛くて天使のようで……あ、スイレンと双子ってことは私の顔も天使のようなのかな? この世界での希望が持てたわ!
「姫様ー! お待たせ致しました! こちらをどうぞお食べください!」
じいやは木の皿に何かを乗せて戻ってきたので食べるために半身を起こす。そこで気付いたのは皿の中身ではなく、私に掛かっていた肌掛けのようなものだった。綿とか化繊とは違った肌触りの物が気になった。
「これは何で出来ているの?」
「何を言っているんだカレン? 我らは森の民。森の恵みを使った肌掛けだ」
お父様が本気で「どうしたんだ?」という心配顔をしている。
「森の民……の割にはここは森の空気を感じないわね」
「「「!?」」」
私がそう言うと、スイレン以外の三人が驚いた表情へと変わったけど、お腹が空いていた私は皿から赤い何かの果物のようなものを摘み口にした。
「何コレ!? 甘〜い! ……むぐむぐ……あれ? コレ、デーツじゃない? そうよナツメヤシ! 干せば干すほどもっと甘くなるのよね〜。そっかこの世界にも生えてるんだ……ん? でも森にヤシ??」
日本に住んでいた時は本当に貧乏だった。けれどご近所さんに本当に恵まれ、私たち一家は旅行土産やお裾分けをよくいただいていたんだ。近くの健康マニアのおばちゃまが桁を間違って注文したらしく、食べきれないからといただいたのがこのデーツ。日本で流通しているのは主に干された物で干し柿のようにねっとりとした食感で甘いけど、今食べているのは見た目ももう少しフレッシュなので熟したすぐ後のものなんだろう。
「……カレン? 『ヤシ』とはなんだ? 私たちも名前も知らない果物だぞ? ……それに『この世界』とはどういうことだ……?」
はっ!! あまりの美味しさにうっかりと口走ってしまったけど、 相当ヤバイことを言ったのか大人たちは怖い顔で私を見ている。っていうか名前も知らない果物?? どういうこと??
「お父様! お母様! じいや! カレンは目が覚めたばかりでお腹が空いているんだよ!? まずはこの『神の恵み』を食べてからゆっくり話を聞いたらいいじゃない!」
スイレンが援護射撃をしてくれたおかげで大人たちの勢いが無くなった。うん、今のうちに腹ごしらえするわ。
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