第4話 じいやのうっかり

 みんながおとなしくなっている間に食べようと思ったものの十日も寝ていて胃が小さくなったのか、はたまたその甘さと食感のせいか五つも食べるとお腹がいっぱいになった。


「ごちそうさま」


 そう言って食べるのを止めると、アイコンタクトをとりまくっていた大人たちを代表してお父様が口を開いた。


「カレン。今まで黙っていたがお前たちが産まれたその日、占いババは『この子たちがある程度大きくなった時に私たちの救世主となるだろう。だがその時には女の子のほうはこの子であってこの子ではない』と言ったんだ。私たちは意味が分からなかった。何か関係があるのか!?」


 鬼気迫る表情で問い詰めるお父様が怖くて、思わず寝床を後退る。本当のことを言おうか……けど信じてもらえるだろうか?考えに考えて……信じてもらえなかったら頭を打ったせいで記憶が混濁しているとでも言おう。うん、言っちゃおう。


「えっと……まず、ここはどこ?日本……ではない……よね……?」


「何を!?ニホンとは何だ!?……ここは『ヒーズル王国』だ。やはりカレンであってカレンではないのか!?」


 お父様は今にも暴れ出しそうになっている。


「違うの!カレンには間違い無いの!じゃなきゃスイレンの名前なんて出て来ないでしょ?……えっと、何て言ったら良いのか……私は前世で日本という国で産まれた普通の女子で……頭を打った衝撃でそれを思い出したみたいなんだけど、今はカレンの記憶よりもそっちの記憶のほうが鮮明……かな」


 恐る恐る言ってみると、全員が「前世!?」とか「普段と言葉遣いが違う」とか「確かにスイレンを覚えている」とか議論が続いている。


「あの、占いおババさん?が何か言ったようだけど、私は本当に普通すぎる一般人だったから、その救世主ってのにはなれないと思います……」


 素直にそう言うと今度はじいやが話し始めた。


「この実が成った木ですが、私たち森の民は見たこともない木でありました。長年花も咲かせたことのない木でありましたが、姫様がお倒れになったその日に急に花が咲いたのでございます。そして考えられない速度で実を付け熟したのです。風のいたずらで一房が地面に落ち、飢えで苦しんでいた民が空腹に負け食べたのでございます。基本的に私共は知らない物を口にすることはございません。ですがあまりにも美味そうに食べるそれを見て口にしたところ、毒も無くあまりの甘美さに私たちは『神の恵み』と名付けたのでございます。……ですが姫様はそれを知っていた……」


「えっと……私の住んでいた国に生えている木ではないんだけど、乾燥した地域に生えるヤシって木があって……そのヤシの中のナツメヤシってやつで……あぁ上手く説明出来ない!……それよりも逆に聞いていい?民が飢えで苦しんでいるってどういうこと?」


 こちらが逆に質問をすると、じいやもお父様もお母様も「しまった!」という顔をした。ここ王国って言ったよね?なんで民が空腹で苦しんでるの?空腹って……辛いんだよ?私はそれを誰よりも知っている。

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