第2話 目覚め
なんて悲しい最後だろう。あの時は痛みと空腹と喉の渇きで死にそうだった。って死んだんだけど。あぁ……思い出しただけでお腹が空く……。お腹がグーグーと鳴っているわ……。あぁ……お腹が空いた……お腹が空いた……。
「お腹……空い……た……」
「カレン!」
「カレーン!!」
枕元が騒々しくて目を開けると、そこにはお父様とお母様がいたわ。あれ? デジャヴかしら? 前にもこんなことがあったような……。
「目を覚ましたんだなカレン! じい! じいやー!」
「姫様ー! 今行きますぞー!」
お父様が取り乱し、遠くからじいやの声が聞こえる。……ん? さっきのは夢? 夢にしてはハッキリとしていて……あれ?カレンって?あたしは
「……魔法は!?」
「マホウとはなんだ!? 大丈夫かカレン!?」
お父様がそう言いながら私に抱き着き、重なるようにお母様も抱き着く。……あぁ、そうだ……私はこの二人の子として産まれたんだ。やっぱり転生をしたらしい。そして残念ながら魔法のない世界のようだ。ちっ。
「姫様ー! 水をお持ちしましたよ!」
「カーレーンー!」
じいやが木で出来たコップに水を入れて持って来てくれ、弟のスイレンが泣きじゃくりながらじいやの後を着いて来る。私はコップを受け取りその水を一口飲んだ。
「……ぬるっ……」
私が思ったことを考えなしに呟いたせいで場の空気が凍った。
「カレン。じいやに謝りなさい。いくら十日以上も目覚めなかったとはいえ、お前のために水を汲んできたじいやに対して失礼だ。お前は眠りながらも少量ながら水だけは飲んでいた。その水を汲んで来たのもじいやだ」
怒りの滲んだ表情でお父様は低い声でそう言った。十日!? 十日も寝てたの!? ってそこに食い付いたらダメだ……。確かに私のことを心配したじいやが持って来てくれたんだものね。
「ごめんなさい、じいや。せっかくお水を持って来てくれたのに……スイレンもありがとう」
素直に謝るとまた周囲の空気が変わる。
「カレンが……謝った……」
「姫様が……謝った……」
なんだろう?? クラ○が立ったみたいに、みんなが感動しているこの空気は?
「カレン! 寝ている間に謝れる子になったんだね!」
お父様とお母様が驚いて離れると、今度はスイレンが抱き着いてエグエグ泣いている。謝れる子って?? ……そういえば……この世界での私って……。記憶の大半は日本で美樹として生きていた時のものだけど、この世界で生きてきた記憶だってもちろんある。……うーんと……うーんと……姫、姫、とみんなに甘やかされて……調子に乗りまくって……高飛車で……自分が一番で……他人なんてどうでもよくて……いや、待って。心が痛いから。っていうか、とんでもないクソガキなんだけど!
あ、それでたまに無意識に「ですわ口調」が出るのか。記憶は美樹のままだけれど、口調は絶対に言うことのなかった「ですわ口調」のほうがなぜか言いやすい。そりゃ謝っただけでこんなに大騒ぎになるわよね……。美樹の記憶が蘇ったんだから、心を入れ替えてこれからは生活しよう……。
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