貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

第1話 記憶

「お母さん……いつかお腹いっぱい食べたいね……」


「お母さん! お金がなくても山や海や川に行けば食材がいっぱいだね!」


「お父さん!? お父さんのせいなんだからちゃんと食料を採ってきて!」


「ほら! コレは食べられる草だよ!」


────────


 んん……。なんだろう……すごく懐かしい夢を見たわ。お人好しで連帯保証人になっては借金ばかりするお父さんとそれを笑って許すお母さん。お金はなくても私の家は笑顔で溢れ逆境に負けずに生きていたわ……。でも何かしら……?すごく遠い思い出のような……。


「…………! ……! ……レン! カレン!」


 枕元がうるさいわ……。あぁ……眠りから覚めてしまう……。


「カレン!」

「目を覚ましたぞ!」

「カレーン! うわぁぁぁん!」


 目を開けると一気に捲し立てられる。お父さん? お母さん? ……いえ、目の前にいるのは心配し過ぎて怒ったような顔のお父様、言葉も出せないほど泣いているお母様、号泣している双子の弟のスイレン、そして弟に負けないくらい泣いているじいや。


「……あれ? ……夢?」


 掠れた声を発すれば、一気に話しかけられ誰が何を言っているのか分からない。


「えぇと……私は一体……」


 そしてまた掠れた声を発すると急激な眠気に襲われ、周りの声が遠くなっていったと感じた途端に一気に眠りの世界へと落ちた。


────────


「あんたの誕生日明日じゃん!? すっかり忘れてた!何が欲しい?」


「いや、うちに金はないだろ」


 さっきの夢には出てこなかった二つ歳下の弟が呆れ果てた顔で口答えをする。……そうだ。うちは貧乏すぎてほとんど自給自足のような生活をしていたんだった。私は中学卒業後に近くのファミレスで働き始め、弟だけは高校に行かせようと必死に働いたんだった。もちろん働けど働けどうちにはお金なんてなくて、弟の誕生日プレゼントも買ってあげることが出来なかったんだ。

 だけど季節は夏。山に行けば食材は豊富にある!  私はせめて食卓だけは華やかにしようと山に山菜を取りに意気揚々と出かけたんだ。けれど猛暑と雨不足のせいでお目当ての山菜は見つからず、いつもなら行かない山の奥に行ってしまった。そしてようやく山菜を見つけ採取していると、後ろから聞こえる荒い鼻息。ゆっくりと振り向けば肩越しに見えるイノシシ。ご機嫌ナナメのイノシシは「オレの縄張りで何しとんじゃ!?」と言わんばかりに鼻を鳴らしている。

 今までイノシシに出くわしたことのない私は盛大にやらかしてしまったんだ。ビックリして「ギャー!」という大声を出して立ち上がり、そして持っていた山菜を投げつけ、さらには逃げるために走ってしまった。イノシシは完全に私を敵認定し追いかけて来た。


「何もしないから! 食べたいとは思うけど食べないから!」


 時折後ろを振り向きながらイノシシに対して必死に叫ぶ。叫び声が気に食わないのか、はたまた食べたいと言ったことに怒ったのかイノシシはフゴフゴとさらに鼻息を荒くし、私に体当たりしてきた。その衝撃で薮で見えなかった崖から落ちた。そこまで高低差があった訳ではないけれど、イノシシは突然崖から落ちた私を見失いどこかへ行ったみたいだった。


「今のうち……痛っ!!」


崖の上ばかり気にしていたけど体中が痛い。そこで初めて自分の体を見てみると、右手首は明らかに折れていてとてもじゃないけど動かせない。そして左足首はあさっての方向を向いていた。


「ウソでしょ……痛っ……」


 痛みで涙がこぼれ体が動かせない。なんとか動く左手でズボンのポケットに入れていたスマホを出すと画面は割れ電源も点かない。


 ……そうだった。動けないまま何日もそこにいて、救助隊の声が遠くで聞こえた時にはもう声を出すことも出来なくなっててあたしは発見されないまま衰弱死したんだった……。体中痛くて、喉の渇きと極度の空腹……かなり悲惨な死に方だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る