対峙する脅威




     1




「陸斗。格好つけたは良いですが、実際問題どうするつもりなのですか」


 意外にバッサリなメアリー=ミレディアーナ=クラウド=ブロックバスターの言葉だったが、もはや結城陸斗は言葉を詰まらせる事もない。


 覚悟を決めた男の強さを舐めるなという話だ。


 その決意を体現する時だった。


「条件を整理しようか。セレナ、オブスとやらが出てくる状況は?」


『ええボス。SNS上に上がっている動画は全て建設工事中、強化工事中、道路改装工事中など、いずれも地上の表面、それら一定以上の面積が削られた時にオブスが噴き出しているように見受けられます』


「つまり地面にある程度の大きさの穴を開ければ、オブスは『通過』の条件を満たす。その穴の浅さは関係ない。どうだセレナ」


『ええボス。確信を得る手段がありませんので推測の域を出ませんが、その域の中では最も事実に近いはずです』


「一度、体育館から地下に放り込まれた時もレアメタルが地面を破壊しただろ。あれも『地面にある一定の面積を削る』って条件を満たすためなのかもな」


 となると、やはりレアメタルとは何なのかが気になる所だが、フェリネアに問いかけるのは一度打ち止めだ。


 今は建物を押し潰すように襲い掛かってくるオブスが先決である。


「この建物がテレサなら、建物に傷をつけられるのはかなり厳しいダメージになるはずだ。勝負を決めるならさっさとしないとな」


「具体的にどうするのですか、陸斗」


「ここは国際科学研究所だ。セレナでも最大稼働時は五万世帯分なんて言われるほどなんだ。それを上回る設備となれば、自家発電機は一〇〇%搭載されていると見て良い」


「ああ、確かにある。だが結城陸斗クン、それをどうするつもりかね」


「フェリネア、一〇分で良い、リペアテレサにセレナからの信号を受け付けるように設定してくれ」


「チッ、あとで上からしこたま怒られそうだな」


 と言いつつ、金髪の小柄な少女は白衣のポケットから取り出した端末をいじくり始めた。協力関係はきちんと成立しているようで何よりだった。


 スマートフォンからポンとメッセージが浮かぶ。


『ボス。オーダーはいかがいたしましょうか』


「そうだなセレナ、少し派手にいこう」



     2



 オブスは低知能生物らしい。


 そもそもとして地下に生物らしい生物がいた事に驚きを禁じ得ないが、陸斗の受けているショックが少ないのは子どもの頃から『侵略説』が唱えられていたからだろう。


 嘘だ嘘だと思っていた事実が本当だった、というだけの話。


 ただ、それが世界を揺るがす身近な問題に変わったのは、セレナを使っても予測する事はできなかったが。


「よしセレナ。敷地内のライトを丸ごと落とせ」


『ええボス』


 今この時だけは、リペアテレサの設備は全てセレナが掌握している。

 陸斗のスマホ一つで全てを操作できる。


 少し肌寒い外に出ていた。


 闇を晴らすためのライトを全て一度落として、そしてそこからアクションを起こす。


『ボス。ポジションにつかれましたね』


「セレナ。ああ、いつでも良いぞ」


 ばづんっ‼ という舞台のステージを輝かせるような、強めの白いライトがあった。


 ただしそれは、研究所の敷地内を全て明るくするためのものではない。むしろ逆だ。たった約五平方メートル四方の場所を輝かせるスポットライトである。


 そのステージの中央には、結城陸斗が直立不動で立っていた。


 そう、知能低めなオブスからすれば、一度真っ暗闇になってから再びの明転。しかもそこにちっぽけな高校生が立っていれば、彼らの目標は建物の役割を果たすリペアテレサからどこに向かうのかは自明の理。



 そして、リペアテレサの中。


 建物の窓からスポットライトよろしくナイター設備のライトに照らされた少年を見て、白衣を纏うフェリネアは楽しそうにくすくす笑っていた。


「いやあ、つくづく変態だよなあ、科学者って生き物は」


 フェリネア=グラフィックがそう呟いた直後。


 三体のオブスが生肉に飛びつく猛獣のように、直立不動の少年に飛び掛かった。





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