第2話
9月6日 はれ
昨日の具合の悪さが嘘のように、体は清々しく軽かった。大きな欠伸と共に天井に向かって伸びをすると、ベッドから起き上がってカーテンを勢い良く開いた。眩しい太陽の光が目に灼きつく。そのまま窓を開きベランダに出ると、どこからか干した布団を叩く音が聞こえ、近くの公園からは子供達が野球をする声が聞こえてきた。この建物から数十メートル先にある大きな公園からだ。防球ネットの中で、グランドを囲む小さな野球選手たちが白いユニフォームの尻や膝を泥色に染めていた。限りなく息を吸い込んで吐くと、太陽の匂いが体をすっと通りぬけて満たす。こんな気分のいい日は散歩でもしよう。土手にでも出かけてみるか。
そう思って真下を眺め続けていると、小学校低学年くらいの男の子が四人でいるのを見つけた。何気なく見ていたら、一人の子が一番背の小さい子の肩を思い切り突き飛ばした。突き飛ばされた子は尻もちをつくが何も言い返さない。突き飛ばした方の子は大声で言った。
「気持ち悪いんだよ!!死ね!」
それを見たらいても立ってもいられなくなった。胸の内が痛み、ベランダから部屋へ急いで、上着を羽織るだけ外へ飛び出した。階段を駆け下り、さっきは上から眺めていた男の子たちの元へと近づいて声をかけた。
「君たち何喧嘩してるの」
男の子達は、不審な顔を向けた。突き飛ばされていた子は既に立ち上がって、唯一何の感情もない顔を向けていた。何の感情もない、とは説明不足に思える。彼は一人、そのグループの中では大人びて見えた。何者にも屈しない強い瞳がそこにあった。
「何だよお前、つうほうするぞ」
覚えたての言葉を使ったように、そのグループの中ではボス的立ち位置であるような体のでかい子供は言った。
「いいよ、通報したら。そしたら君たちの親にも連絡が言って、僕は見たままのことを話す。それでもいいんなら早く通報してみろよ」
その言葉にひよったのか、他の子供がボスに言った。
「もう行こう。あっちで遊ぼうぜ」
ボスは納得がいかないように唇をこわばらせていたが何も言わず、三人は遠くへ行った。取り残された彼は顔を上げて言った。
「ありがとう」
「やり返さなくて偉かったよ」
と言うと、彼は大人びた口調で。
「あいつら精神がまだ猿と一緒なんだ。だから何とも思わなかった」
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