Ep.14 協力プレイで大捜査

 赤葉刑事の顔は非常に渋かった。こちらに申し訳なさそうな様子で、こちらに語り掛けてくる。

 今までにない彼女の表情に心穏やかではいられなかった。顔から肩から汗を大量に流している状態で彼女の言葉を聞く。


「達也くん……何でか分からないんだけど、そこには行ってないって否定したの……。まだ指紋についての話題が出ていないから、そこまで厳しく追及できなかったんだけど……氷河くんは何で否定したんだと思う?」

「えっ……」

「分からないよね……彼がやったということ以外……」


 衝撃的なとどめだった。事件前にダンベルを運べるのが彼しかいないという状況の上で指紋があると言うのに関与を否定した。

 彼はもう真っ黒だ。皆が皆疑っても仕方がない。しかし、今の部長はどうなのかが知りたい。指紋があると知って、主張を変えたのだろうか。


「今は部長はどうなんです? 何て……」


 その質問にまた赤葉刑事は頭を抱えていた。


「……実は達也くんが見当たらないの。探してるんだけど。連絡もできないし……」

「部長が行方不明?」

「この事件に関わる大抵の人が今、こう思ってる。彼は事件を起こし、逃げられないと思ったから失踪した、と。今、逃走経路を調査してる」

「そ、そんな……!」


 彼に話を聞けない。この事態がとても苦しかった。彼の無実を信じたいのだけれど、彼からその言葉も思いも聞き取ることができないのだ。

 僕を信じてくれているのではなかったのか。自分が無実なのであれば、僕に話してほしい。

 ……罪を犯すなら、僕に相談してほしかった。そうすれば、止められたのに……。って、いや、僕は部長を信じることに決めたのだ。

 危なかった。白百合探偵の、真犯人の思い通りに思考を操作されるところである。

 僕は自分の頬を自分で叩いて、考えを一新する。

 きっと、彼は誰にも話せないような秘密を知ってしまい、僕を巻き込まないために奔走しているのだ。それか、犯人の手によって捕まえられているのだ。

 その二つなら、部長が僕達の前に助けを求めて現れないのも納得できる。

 まだ白百合探偵も赤葉刑事も事件の全てを語ってはいないのだろう。白百合探偵の場合、隠していることがある。赤葉刑事は何かを見落としている。

 落ちてるものがこちらの希望となるのに気付かず、部長が犯人かもしれないと主張している。

 やることは一つ。捜査。

 と言えども、倉庫の中を調査することに対し、白百合探偵が僕の立ち入りを禁止している。他の誰かにお願いするしかない。


「……よし、知影探偵は……と」


 僕は近くのトイレに籠って、こっそり彼女に連絡を取らせてもらう。


『あっ、やっと繋がった。大変な時って言うのに、お寝坊ね』

「す、すみません。で、知影探偵、お願いしたいことがあるんですが。事件現場の中を映してもらえませんか? 今、倉庫の方にいけないので」

『ああ、いいわよ。ちょうど、こっちの方調査してたし。遺体はもう運び出されちゃったけどいい?』

「はいって……」


 今回は彼女が頼りに思えると感じたところで、スマートフォンに彼女の顔や胸ばかりが映る。はたまたは映っていないと思ったのか、服を少しずらしている。もう少しでふくよかな胸が見えそうだ。


『この中、暑いわね。熱が籠ってるみたい』

「の、前にちょっと待ってください! 逆じゃないですか! カメラ!」

『あっ、内側になってる……って、まさか、今の見た?』

「か、顔のところしか見えてませんよ!」

『何か、怪しいなぁ』


 そういう疑いは嘘を付いている犯人に対して持ってくれ。何故、毎度毎度犯人の嘘は見抜けないのに、僕の言葉ばかり矛盾を見つけるのだ。

 僕の嘘を誤魔化すように、外側を映し始めた彼女に命令をした。


「で、どうですか? 中を……」


 彼女に倉庫の隅々を映してもらった。梯子があり、高いスペースがある。白百合探偵や赤葉刑事が言った通りの内装で、彼等の説明が間違っていることはなさそうだった。

 では、梯子は上るのに重いものを持てるか、確かめてもらおう。


「知影探偵、ダンベルを持って運べそうですか? 上に」

『い、いや、達也くんじゃないからできないって。彼なら片手……は無理だとしても鞄か何かに入れて背負って、できると思うけど』

「そうですか。じゃあ、滑車とか使えそうですか?」

『滑車って、重いものを落とす代わりにもう一つのものが浮き上がってくるっていう奴よね?』

「ですよ。それなら、力があまり必要じゃないって物理の授業でやりましたよね」

『うん、でも残念ながら滑車を引っ掛けられそうな場所はないわね』


 彼女は一旦梯子を上って、高いスペースがどういう場所なのかを教えてくれた。奥には黒い血がこびり付いている。そこから血が下の方へと垂れた痕もあった。


「残念ながら、僕が考えられる重いものを運べる装置はなさそうですね」

『エレベーターがあってくれれば良かったのにね』

「倉庫にそんなの作れませんからね」


 そんな冗談を聞きながら、辺りの様子をじっと確認させてもらう。そうしたら、気になることを発見。早速知影探偵に命令した。


「血痕……ちょっと、丸くなってませんか? ちょっと気が付きにくいですが……何か置いてあったから、そこより奥には付かなかったって思えるような感じが」

『つまるところ、ここに丸くて大きいものがあったかもってこと?』

「そうですね。何か……」

『ここのスペースには特に何も置いてないのよね。あったとしても段ボールとか、そういう軽いもの……丸そうなものはないわ。あれ、何だろう?』

「何か落ちてたんですか?」

『うん、三つ』

「えっ……? 凄いです!」


 大発見ではないかと僕は彼女を讃えていた。彼女は力強い声で解説を始めてくれた。


『一つ目は壁に付いた妙なひっかき傷……と言っても、傷の中が辺りの壁の色とは全く違う』

「埃が入ったり、腐食してたりしないってことですから……最近できた傷ってことですか?」

『ええ。それと、何かの粒かしら? 固まったものが一つ。木の欠片にも見えるけど、よくよく確かめると違う気がする。指で転がした時の感触が違うわ』

「後で赤葉刑事か他の警察に渡して調べてください」

『分かってるわよ。そして、最後に……何……? この赤いのは……ううん? あれ、これは……?』

 




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