第9話 部屋の鍵は意外なところに

「で、おばさん。その司書って誰のことだ? まさかおばさんのことか?」

「……認めたくはありませんが、私ではないでしょうね」


 まあ、私だって決して誇れない容姿ではないと思うのですが……図書館の美少女司書といえば、やはりお師匠さまでしょう。


「お師匠さま……何してるんです?」


 お師匠さまは、柱の影に隠れてなるべく王子様の目に入らないようにしていました。

 思えば、彼がここに入ってきたときから、なんとなく嫌そうな表情をしていましたが……ま、こんな性格の方では、いくら王子様とは言え嫌なもんですよね。

 お師匠さまは声を潜めて言いました。


「……用が済んだら追い出して……って言おうとしたけど、そう言えば閉じ込められてるんだよね、わたしたち。しかもあいつのせいで」

「……私が言うのもなんですが、あまり王族のことをアイツ呼ばわりしないほうがいいですよ」

「……王子様なんて呼びたくないよわたしは。はぁ……リリス、『鍵』の取り出し方は……わからないよね」

「鍵?」


 お師匠さまは柱の影から王子様を指差して、


「ここの出口を開ける『鍵』。ようやく全部思い出したんだけど、『鍵』は……侵入者の、体内に形成されるようになってるの」

「……体内?」

「そう。脱走者、あるいは侵入者は原則生かすべからず……これを作ったときに、そういう仕組みにするように指示されたんだけど。刑務官が『鍵』を取り出す過程で、必ず脱走者が死ぬようになっているというわけね」


 ……お師匠さまは、見た目によらずえげつない魔術を使います。いや、この場合は脱走者や侵入者の処刑を前提としたシステムのほうに問題があるのかもしれませんが。


 一難去ってまた一難。ああ、どうしてこんなことに……。

 あれ?


「これ、悪いのは全部あの面食い王子ですよね」

「そうだね」

「……じゃあまあ、多少の痛い思いくらいはしてもいいんじゃないでしょうか」

「えぇ……」


 ドン引きされてしまいました。いえいえ、私は何も殺すとは言っていないのです。


「体内にあるんでしたら、腹をかっさばいたあとに強力な回復魔術をかけ続けつつ探せばいいのではないでしょうか?」

「……リリスって、たまにそういう事言うよね。前世は猟奇殺人犯かなにかだったの?」


 失礼な。そんなことはないはずです。前世の記憶はありませんが。


「……しょうがない。わたしがやるよ。ほんとはんだけど……」

 

 お師匠さまは意味ありげなため息をついて、十字を切って唱えました。


「《召喚》――わが愛しの《スワンプマン》」


 お師匠さまの魔術の一つ。《召喚》の魔術です。

 べちゃり、べちゃりと、湿っぽい音とともに、床の大理石がみるみるうちに盛り上がっていきます。それはやがて人のかたちを取り、肌色に染まり、お師匠さまの着ている簡素な服のフリルの先まで、完璧に再現され。

 現れたのは、でした。

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