第7話 幸運はいつも偶然に

 不安で不安で仕方がない私と、のんきに二度寝の準備なんて始めているお師匠さま。どうにも落ち着きません。というか、お師匠さまは私より責任ある立場のくせにどうしてそんなに楽観的なんでしょう。「魔導書図書館司書」の重責を忘れてしまっているのでしょうかね。


「お師匠さま、本当にどうするんですか?」

「……仮に、外にいる侵入者が死んだとしたら。ここから出られるはずだよ。わたしは出なくても全然だいじょうぶなんだけど、リリスは出たいでしょう?」


 それはまあ、そうです。ですが、外にいるのが王族であるとわかった以上、それはできません。


「王族殺しなんて、司書権限の剥奪どころか、国家反逆罪の適用さえありえるんですよ?」

「わたしが逃げられないとでも? そのあたりは心配してないもの。わたしはリリスのほうが心配。……まさか、自分の魔術に裏切られることになるなんてねぇ」

 

 しみじみ言っていますが、私の不安は収まることはありませんでした。


 そんな時でした。

 神の救いとでも言うべきなんでしょうか。それとも、偶然なんでしょうか。


 コンコン、と。


 大聖堂の扉をノックする音が聞こえました。


「誰かー! 誰かいないのか!?」


 扉の向こうから、野太い声が聞こえます。男性のようです。

 私は息を呑みました。無事だったんですね!

 

「はーい! います、いますよ!」


 急いで扉に向かい、冷たい取っ手を勢いよく引っ張りました。

 樫の木の重い扉が開き、そこにいたのは流麗な茶髪の男の子でした。


 どこかで見たことのある顔つき。この国の貴族階級を象徴する襟章と、少し汚れた白銀の服は眩しいほどに目立ちます。はて、私は世間に疎いのですが、この方は……もしかして本当に王族なのでしょうか。

 その男の子は、私の顔をじっと見つめ、それからふうとため息をついて言います。


「……む、悪いな。おばさん、俺迷子になっちゃったみたいなんだけど」

「お、おば……!?」


 なんと!

 私はまだおばさんなんて歳ではないはずです。なんて生意気な子どもなんでしょうか!


「あの、お名前は……?」

「え? ああ、俺はジーク。……おばさん、この国の人じゃないのか?」

「そのおばさんっていうの、やめてもらっていいですか?」

「えぇ? おばさん、そういうの気にしないほうがいいって」


 ヘラヘラしやがってこのガキ――!

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