第6話 犯人というより、被害者なのかもしれない。

 王族は、開館時間に関わらずこの図書館への入館権限を持っています。まあ、当然と言えば当然なのですが。為政者なのですし。


「ですが……なんの用事なんでしょうか?」

「そこだよね。王族なら、たしかに図書館にも、この空間にも入ってこられる。それは間違いないんだけど」


 動機がわからないのが困りものです。もしかしたら、お師匠さまに用事があるのかもしれませんし、緊急事態の可能性だってあります。それなのにこんなことになっているとなると、今度は私、王室に謝りに行く必要が出てきてしまうのではないでしょうか。そう考えるとにわかに恐ろしくなってきました。


「(ところで、侵入者っていうのは、今どこにいるんでしょうか?)」

 

 口の中で、つぶやいてみます。

 それは、私の素朴な疑問でした。あの入り口から入ってきたのだとすれば、今、私達が駄弁っている大聖堂の中にやってくるはずなのです。

 しかし、それらしい人影は見当たらず。可能性があるとすれば――私は大聖堂の扉のほうを見つめました。


「お師匠さま」

「んー?」

「この大聖堂、外側はどうなってるんですか?」

「……さぁね?」


 全くこの人は……その落ち着きぶりだけは、見習いたい気分です。

 がぜん心配になってきました。

 この外が、安全でないとしたら?


「私、王族殺しの罪なんて被りたくないです」

「? なんで?」


  ***


 リリスとその師匠は、外がどうなっているのか知るよしもありませんが、ここでは特別にお教えしましょう。

 外の世界は、はっきり言えば混沌に満ちていました。もともと脱走を防ぐための牢獄。外に出たとて、生かして帰す意思はこの空間にありません。

 例えば、溶岩で埋め尽くされた海であったり、雪嵐吹き荒れる永久凍土であったり、毒の沼であったりします。その中で、彼は比較的安全な――聖堂の周囲をさまよっていました。

 

 彼の名前はジーク=ヴェン=シュトルム。この王国の、第一王子です。


「寒すぎ! この前行った国の百倍寒い! 何ここ!?」


 少し前までは凍えて消耗し、息も絶え絶えだった彼ですが、偶然見つけた小屋で暖炉にあたっていると、少しずつ元気を取り戻してきたようです。


「もーほんと、俺ってば主人公体質すぎて困っちゃうわ! 図書館に超絶美少女がいるって話だからひと目見ようとやってきたってのに、なんだこの図書館は! 異世界か? 異世界なのかここはよぉ!」


 ……一人でテンションの高いことで。大変結構なのですが、彼はこれから、どうするつもりなのでしょう。


 すっかり、迷子になってしまっているはずなのですがね。

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