第5話 甘いお茶菓子、されど結論は?

 私の出身地ではまったくと言っていいほど、お茶会の習慣がありませんでした。お茶よりもコーヒーが飲みたい気分ですと言うと、お師匠さまは気前よくコーヒーを淹れてくれました。――あ、おいしい。


「甘いでしょ、そのお菓子」


 お師匠さまが指さしたのは、人型のクッキーでした。確かに、普段食べるクッキーよりも甘い気がします。


「なんでも、隣国のシェフが考案した新しい生地を使って焼いたんだって。わたし、料理に興味はないからわからないけど、きっとすごいんだよね」

「へぇ……」


 残念ながら、私も料理とかお菓子作りなんてものには興味を惹かれないタイプでした。


「あ、コーヒーに砂糖、いれる?」

「まさか。何も入れないのがおいしいんですよ」

「えー、変なの」


 紅茶を飲む人には、いつもこういわれます。こちらからすれば紅茶なんて、後味が悪くて飲んでいられないのですが、そういうとやけに怒られるので黙っておきます。


 お茶会が始まってからしばらく経って(私としたことがお茶菓子に夢中になってしまいました。)、急にお師匠さまは居住まいを正して話し始めました。


「さ、て、と。解決策と、犯人捜しってことだね。……あの生真面目で堅物の館長が、わたしの部屋に入ってくる理由があると思う?」


 ……正直に言いますと、これだけ問題児のお師匠さまをどうして叱らないのか、私はかねてより不思議に思っていましたし。理由も何も、「あなたが怠惰だからですよ」としか言いようがありません。

 ですが、館長さんは決してこのようなことをする人間ではないのもまた事実。館長さんについては、また後日詳しくお話しようと思います。


「館長さんではない、という線は……」


 自分で言っておきながら、外部の侵入者とは考えられないのです。ありえるはずもない。

 富豪の家や大きな商店のように、いくら警備が固くても泥棒に入られるところは多々ありますが……この図書館は、いくえにも張られた結界と秘匿魔術によって、一般の人には存在を知ることすらできなくなっています。


 認識できるのは結界に登録された魔術師、政府高官、そして王族の方々。

 中でも王族(と、何人かの特別な魔術師)は、結界の解除を待つことなく入館できる仕組みになっています。


「……となると、【皇朝十二聖】か、王族ということになるよね」


 お師匠さまは、レモネードをたっぷり入れた紅茶をすすりながら言いました。

【皇朝十二聖】という単語は、今はまだ覚えなくて大丈夫です。どうせ犯人ではないですし。


「十二聖の方々は違うと思います。……そも、お師匠さまに近づこうとすることすら嫌っている連中ですから」

「ま。そうだよね。わたしも嫌いだから、図書館には入れるけど、ここには来れないようになってるもの」


 ……ということは。最後に残ったのは、一つの選択肢しかありません。

 ああ、学生時代を思い出します。ありえそうもない選択肢を消していったら、ありえるはずもない選択肢が一つだけ残ってしまった経験を。


 そういう時はだいたい、とんでもない理由でそれが正解なんです。


「「……王族の仕業、ってことだよねということですね」」


 ああ……どうして、こんな面倒なことに。

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