第4話 お茶会の始まり/他方、顔も知らない男

「つまり、出口がなくなった原因は私で、私が悪いということになりますね?」

「んにゃ、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」


 お師匠さまは、妙にふわふわしています。つかみどころがないというか、まじめに伝える気がないというか。


「はっきり言ってください。というか、ご自分の魔術なんですから、わからないなんてことがあるんですか?」

「だって、これ作ったのだいぶ前なんだもの。……うん、やっぱり、リリスが原因じゃないと思うな」

「はあ。……じゃあ、何が原因で、こういうことになってるんです?」

「リリスはフリーパスなの。だから、。……開館前のこの時間に、図書館にいても怪しくないような人物か……それとも、図書館そのものに侵入者がいたか。可能性としては、だいたいこの二つだと思う」


 私は、そのどちらもすぐには信じられませんでした。

 前者といえば、館長さんくらいでしょう。そして後者は、もっとありえないのです。

 魔術国家であるこの国において、魔導書図書館は何よりも護るべき機関。当然セキュリティは万全のはずですし(私はおろか、お師匠さまですら入館には一苦労です)、そもそもこの図書館の存在そのものが、外部には秘匿されています。


「……とにかく、大変なことになったのかもね」

「……本当に、お師匠さまのミスで出口が消えたわけではないんですね?」

「うん、自信を持ってそう言える。だいたい、わたしが自分で出口を設定しなきゃいけないような魔術を組み上げると思う?」


 ……納得せざるを得ませんでした。腕前(とそのだらしなさ)だけは、お師匠さまの信用できるところです。


 しかし、その結論に達したところで、問題は増えるばかりなわけで。


「ま、お茶でも飲みながら考えようよ」


 お師匠さまは、そう言って指をパチンと鳴らしました。

 チリン――と、執事を呼ぶ鈴のような音がして、まばたきをした瞬間に、そこにはお茶会のためのものが、一通り揃っておりました。

 アンティークなティーテーブル、紅茶の入ったポッド、お茶菓子まで。


「……どこから?」

「わたしの個人的な蒐集品。おかげさまで、お金には困ってないからね」


 ちょこんと席について、彼女は私を急かします。

 しかたなく私も座り、奇妙な議題をともなったお茶会が、始まることになったのです。

 

 ***


 一方その頃。


 深い、深い、森の奥でした。彼は、日ごろの運動不足を呪いつつ、情けない声でつぶやいていました。


「ぉ……おぇ……お、俺……な、なん……で、こんな、とこ…………うぶぇ……」

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