第3話 アクシデントから始まる一日(とてもながい) その②
このふざけたガキ、もといお師匠さまには怒り心頭であることに変わりはないのですが、それはそれとして、出口です。
「本当にないんですか、出口」
「……いや、わかんないけど……」
無責任極まりない。王国の人事はどうしてこの人を司書にしたんでしょうか。
「……んー、でも、勝手にできるはずなの。出口はね。だから、閉じちゃってるって言ったほうがいいのかなあ」
眠そうに、瑠璃色の瞳をまぶたの隙間からのぞかせながら、彼女は言います。
「閉じちゃっている、とは?」
私も魔術にはそこそこ詳しいつもりですが(私の友達は本と魔術だけでした。昔から)、お師匠さまの
「ようは、外界との接続が切れちゃっているというわけ。もともと、この魔術は王国から依頼されて極悪犯罪人の監禁のために作ったものなのだよ、ふふん」
ない胸を張って、お師匠さまは威張り散らしています。
得意げに言っていますが、つまりそれは脱獄不能の監獄に意図せず放り込まれてしまった、ということなんですがね。
私がそう言うと、
「……あれ? 確かに」
この人は馬鹿なのか、それともアホなのか、それともバカなんでしょうか。あ、今バカって二回言いましたね。
「じゃあ、もう私達はここで死ぬしかないんですね」
「で、でも、ほら、ここはわたしの場所だし、わたしの魔術だから、たぶんなんとかできるんじゃない? うん、わたしならきっとできるもの。ふふん」
うんうん言いながら、お師匠さまはその場をくるくると回りだしました。考える時のくせだそうで、三半規管の弱い私からすれば心配でしかありません。
5分ほど待ってみると、ようやく何か思いついたようで(というより、思い出した、という感じで)私のほうを見てきました。
「わかった。今、ここに鍵がかかってるんだ」
「鍵?」
「そう。……普通の部屋とは少し違うから、説明が煩雑になっちゃうんだけど、それでも?」
「手短に。今、現在進行形で仕事に遅れていることがわかっていますか?」
ぎくり、という擬音が聞こえてきそうなほどにわかりやすい反応をしてくれました。わー、かわいい。
「えっと、ようは……この『監獄』に、侵入者、ってこと」
お師匠さまは、遠慮がちにそう言いました。
侵入者。
侵入者ですか。
……もしかして、
「私のことですか?」
「……かもね」
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