第36話 ハンター登録

マチルダさんはずっと赤晶石の大剣を眺めていた。


「凄い透明度ですね……アカリさん、試し斬りをしても良いですか?」


「別に構いませんけど、マチルダさんが試し斬りをするんですか?」


「はい、私も多少は剣術をやっていましたので、これだけ素晴らしい剣を見たら斬ってみたくなっちって……」


「えぇ……?」


素晴らしい剣を見たら斬ってみたくなるって、一見優しそうに見えるマチルダさんは、実は超ヤバい人なのだろうか?


「マチルダさん、剣フェチなのは分かりますが、まずはこちらの話を先にしても良いですか?」


「えっ、はい。どんな話ですか?」


「アカリさんとハリッサさんにハンター登録の説明をして欲しいんですよ」


「!? は、はい、クリファスさんを助けられるレベルの強さのお2人がハンターになってくれるのは大歓迎なので、是非説明させて下さい!」


マチルダさんは凄い食いつきで僕たちにハンターの説明をしてくれた。


ハンターになる利点は大きなものだと、モンスターの討伐などの依頼やモンスター素材の買い取り、モンスター出現の情報開示や町中の冒険者ギルドと提携を組んでいるお店の割引サービスが受けられたりして良いこと尽くめだが、いくつかマイナス点として強制依頼というのもあるということだった。


「強制依頼ってどんなのなんですか?」


「ほとんど強制依頼は発動しませんが、町の危機が起きたり、冒険者ギルドが所属している国からの依頼は断れますが多少のリスクが発生したりします」


「それを聞くと……」


いわゆる強制依頼とは、ゲームでいう全プレイヤーを巻き込んだ期間限定イベントやゲーム運営からの無茶ぶり依頼イベントなどの事だろう。


「あっ、でも強制依頼って本当にほとんどありません! 私がギルド長に就任してから強制依頼なんて一度も発動していませんから!」


「……そうなんですか。ハリッサはどうしたいとかある?」


僕の中では例え強制依頼があってもゲーム的な感覚で言えば仕方がないかなと思えるが、この世界のハリッサには理解し難いので、ハリッサが嫌なら……


「私はアカリお姉ちゃんが決めたことならついていくよ」


「そっか……なら、僕とハリッサはハンター登録をします」


「ありがとうございます! なら、早速ハンター登録の書類を持って来ますね!」


それから僕とハリッサはマチルダさんの用意した書類に名前を書く事で、正式にハンター登録が完了した。


「それでは、これがお2人のハンター証になります」


マチルダさんは僕たちに名前などが刻印された銅色のカードを渡してくれた。


「ハンター階級があって、ハンターに登録したばかりの方は皆、ブロンズからスタートして、ハンターの活動実績を上げ、昇格試験を合格することによって、シルバー、ゴールド、クリスタル、プラチナ、オリハルコンと変化していきます。階級により受けられるサービスも変わりますので、頑張って階級を上げてもらえたらと思って居ます」


なるほど、ハンターの階級はゲーム内と一緒だな……僕が引退したときはゴールド止まりだったから、中級レベルのハンターだったという事か。


しかし、この階級制度がゲームと似たような制度ならば、ゲーム内で起きた階級を頑張って上げたプレイヤーを絶望させた落とし穴も同じく存在するかもしれないな……


「質問なんですが、階級を上げない事も出来るのですか?」


「えっ、階級を上げない方法? まあ、昇格試験を受けなければ階級は上がりませんが、本人の意志で階級を上げない人なんて聞いたことありませんよ?」


「そうですか、なら僕は階級をずっとブロンズで止めるつもりなので、昇格試験はずっと受けません。ハリッサもそれでよいかな?」


「うん、私はどっちでも良いよ~」


「えっええ~?」


これはファイナルオンラインをプレイしていた人にしか分からない理由だから、クリファスさんやマチルダさんには説明出来ないが、僕はハンターの階級を上げないことが正解なのを知っているのだ。


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