第30話 クリファスの屋敷

僕とハリッサはクリファスさんの案内により、クリファスさんの屋敷に来ていた。


「クリファスさんが町長の息子とは聞いたけど……予想以上に広い屋敷なんですね」


「広~い!!」


僕の中での町長の家というと、普通の家よりも少し広くて、客室と応接間が少しある位かなと思っていたけど、クリファスさんの屋敷は僕が想像していた家よりも10倍以上広くて、部屋数も多かった。


「町長の家なんてみんなこんなものだよ。まあ、辺境の町だから土地だけは広いってのあるね」


「確かに土地はあるだろうけど……」


土地があったとしても、これだけの屋敷を作ったり維持するのも大変だろう。


それから、僕たちは明日の準備のためクリファスさんの屋敷にある食糧庫に案内された。


なんでもクリファスさんは店長に頼まれて明日の食堂で使う食材を店長持ちで提供してくれる事になっていた。


「ここにある食糧庫にあるものと、隣にある厨房は自由に使って良いからね」


「ありがとうございます。それじゃあ準備をしますから……」


「ああ、そうだね。私は退室させてもらうよ。それでは明日の朝に使用人が迎えに来るからよろしくね」


「分かりました」


そう言うとクリファスさんは僕とハリッサを残して、食糧庫から出て行った。


「さてと、ハリッサにも手伝ってもらうからね?」


「アカリお姉ちゃんは何を作るの? おにぎりとパンを出すだけじゃないの?」


「僕とハリッサが日常的に食べるだけなら、それでも良いけど、流石にあのこだわりの強い店長の食堂で料理を出すのだから、そのままって訳にはいかないかな」


「私も食べたい!」


「さっきあれだけ食べたのに?」


「アカリお姉ちゃんの料理は別腹!」


「いや、そう言う次元では無い気がするけど……まあ、味見位なら良いけど、あまり食べてはダメだよ」


「分かった!」


さてと、僕は久しぶりに料理をするかな。


この世界の厨房の使い方を聞いたら、調理機材にガスや電気の代わりに魔力を流せば似たように使えるらしくて、魔力って万能だなと思った。


あと、厨房内にはコンロやオーブンはあるけど、電子レンジは流石に無かった。


電子レンジって作れたりしないのかな?



【聖都グランザリア】


私は勇者の攻撃を受け流し続けていたのだけど。


「勇者様、素晴らしい才能です!」


勇者の攻撃をギリギリの所で回避したり、受け流したりしているが、勇者の才能は私の想像を遙かに超えて良かった。


「くそっ、お世辞はしなくていい……まさか、何時間も攻撃しているのに、アロンダイトにかすりもしないとはな……」 


勇者は私に攻撃を当てられないのが悔しいみたいだ……でも、勇者は元々、私との実力差は理解しているみたいな動きをしている辺りも、私の中で勇者の評価を上げていた。


「それは勇者様に才能があっても無理なお話ですよ」


今までも、何人も勇者を転生させてきたが、今回の勇者ほど才能のある勇者は初めてだった。


そもそも、勇者の持っている魔剣ラグナロクは、持ち主を選ぶ魔剣なので、相応しくない者が持てば生気を吸われて死んでしまうのだ。


そして、ほとんどの勇者は死んでしまったので、今回の勇者はそれだけで高評価ではあった。


「そうかもしれないが……最後にとっておきの最強技を放って、アロンダイトに当たりもしなければ負けを認めて、全てアロンダイトの言うとおりに行動してやるよ」


「まぁ、まだ隠している技があるのですか? なら、もし私に攻撃を当てられたらひとつ願いを叶えましょう!」


「何でも良いのか?」


「何でもとは言えませんが、私が叶えられる事なら良いですよ……ちなみに、何が望みなんですか?」


今までの勇者は、ろくでもない願ばかり言ってくる者ばかりだったから、この勇者も……


「俺の願いは、人探しだ!」


「えっ、人探し?」


私は勇者の願いが予想外過ぎて、変な顔をしてしまった。


「ああ、俺の師匠なんだが……俺が転生させられているってことは多分、師匠もこっちの世界に来ている筈なんだ、だから俺の願いは師匠を探して欲しいんだ」


「なるほど……分かりました。私に攻撃を当てられたら、その師匠を探しましょう」


「マジか……なら、本気の本気を見せないとな……魔剣ラグナロク、真の力を開放しろ」


勇者はそう言うと魔剣ラグナロクを両手で頭上に掲げたら、一気に私に向けて振り下ろした。


「ラグナブレード!!!」


私は勇者のラグナブレードを見て、直感が勇者と師匠と呼ばれる者を会わせてはいけないと告げていたので、探す振りをして師匠と呼ばれる者を殺させる事にした……

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