第29話 店長・マグドスの敗北

僕はクリファスさんから暴食竜の昔話をかいつまんで聞いていたのだけど、何となくファイナルオンラインのイベントにありそうな話だったので、僕が知らないだけで暴食竜イベントみたいなものがあったのかもしれないと考えていた。


「そうなると、本当に暴食竜は封印されているのですか?」


「北にある山脈に封印されているって話だけど、信じている人はあまりいないかな」


「信じていないのに、みんなが知ってるくらい有名なんですか?」


「信じられてはいないけど、子供の頃に悪いことしたら、あそこの山脈に封印されている暴食竜に食べられちゃうぞって言われていて育つんですよ」


「ん? 北の山脈ってレッドミスリルが掘れる山脈の事ですか?」


「多分、その山脈ですけど、アカリさんはあの山脈を知ってるんですね?」


北の山脈って言うくらいだから、もっと遠くの巨大な山脈かと思ったら、僕たちが最近までスキル上げをしていた鉱山が暴食竜を封印しているとされる山脈だった……


「僕たちはあの鉱山の近くで目覚めて、記憶喪失でしたが採掘は出来たので、ハリッサと共に数ヶ月居ましたよ」


「えっ……あの山脈に? 大丈夫だったのですか?」


「大丈夫だったかって?……ああ、食料とかの問題なら何とか大丈夫でしたよ」


「いえ、食料の話ではなくて、危険は無かったですか?という話です」


「あそこの鉱山にはモンスターはもちろん、動物さえほとんどいない場所だったので、危険は全く無かったですよ。何故、危険だと思ったのですか?」


「我が町には暴食竜を鎮める為の御子がいるのですが、その御子が神からのお告げで暴食竜の封印された山脈周辺を警戒せよと言われたらしいのです。そして、山脈周辺の探索に町のハンターである私達に話が回って来たのです。結局は山脈周辺にたどり着く前に謎の武装集団に襲われ、山脈周辺にたどり着けなかったのです」


「そうだったんですか……なんで武装集団に襲われたんですか? 今までもこんな襲撃があったりしたんですか?」


言ってはなんだけど、こんな平和そうな町や森で、謎の武装集団に襲われたとかって、何かしら理由がないとあり得ないだろうと思った。


「それが今まで、襲撃される事など無いので分からないです。明日にでも別のハンターがハンター仲間や襲撃者の死体を回収しにいくので、可能性は低いですがそれで襲撃者の身元が分かるかもしれないです」


「多分、分からないでしょうね……」


僕が襲撃者ならば、相手に余計な情報など与えない。


バタンッ!


!?


勢いよく厨房へ続く扉が開いた。


そして、扉から出てきたのはゴリラの様な上半身が異様に巨大化した筋肉を持つ男が現れた。


もしかして、あれが店長なのかな?


「俺の料理を食い尽くしたのは誰だ?」


「店長、あの子です!」


カガリさんがゴリラ男の質問に答える。


やっぱり店長なのか……


「は? こんなに小さな子が俺の料理をひとりで食い尽くしたっていうのか……? カガリ、俺は嘘が嫌いだって知ってるよな?」


「本当です」


「そうか……」


店長はハリッサの前に立ち止まったかと思ったら、急に土下座をしだした。


「申し訳ない……」


「……アカリお姉ちゃん、どういうこと?」


「えっとね、店長はハリッサが満足するまで料理人としてのプライドをかけて、料理を作っていたけど、食材が無くなったから敗北宣言しているって感じであってますか?」


ハリッサは単純に食べたいだけ、食べていただけなので、店長の土下座などは意味が分からないのだろうが、僕は何となくわかったのでハリッサに説明する。


「ああ、その通りだ……。俺は、俺の料理を食べてくれるお客を、店の都合で食べている途中で帰すだなんて、料理人生で初めてだ……まさか、明日、明後日分の食材も食べられてしまうとは思わなかった……」


「えっ? それって、明日の営業は大丈夫なんですか?」


「明後日は大丈夫だが、明日の仕込みは間に合わないから、昼は休業にして夜からの営業になるだろうな……」


「そうなんですか……なんだか申し訳ないですね」


「いや、君たちが悪いわけではないから、気にしないでくれ、ただこの近辺には昼営業をしている食堂がほとんど無いから、俺の店を頼りに来てくれる客を帰すのは忍びないな……」


「そしたらアカリお姉ちゃんがおにぎりとかパンを出したら? 凄く美味しいから絶対にみんな喜ぶよ!」


「なに? なんだそのおにぎりってやつは?」


「ちょ、ハリッサ……」


「アカリお姉ちゃん、無理なの?」


「お客さんに頼むのは申し訳ないが、俺の代わりに美味しい食事を提供出来るのなら、食堂を使って構わないから俺からも頼みたい」


ハリッサが純粋な期待の目で僕見てくる……


ハリッサの純粋な目で見られたら、断れないな……


「僕の条件を飲んでくれるのでしたら、やらせてもらいます」


「条件とは?」


「見知らぬ人に厨房を貸すのも嫌だとは思いますが、お昼を提供中は厨房内には僕とハリッサ以外立ち入り禁止にして欲しいんです」


アイテムボックスを隠したいから、仕方のない条件だけど、流石に無理だろうな……


「……なるほど、秘伝のレシピってことだな。それは仕方がないだろうから、その条件で構わないから頼む」


「えっと、いいんですか」


別に秘伝のレシピではないけど、店長が勘違いしているので、まあ、いいか……


「あっ、そうだ。クリファスさんの予定もあったんでしたね……冒険者ギルドっていつからやっているんですか?」


「冒険者ギルドは朝早くからやっているから、早朝にいくかい?」


「はい。それでお願いします」


早朝に冒険者ギルドへ行って、昼は食堂で食事提供か……何気に忙しい?

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