第10話 スコップ

僕はハリッサを綺麗にした後、とあることを試したいと思っていた。


それはファイナルオンラインでは当たり前のようにやっていた、パーティーシステムだ。


パーティーシステムとはパーティーを組んだ仲間が一定範囲内にいると、敵を倒した時に経験値を分散してくれたり、範囲回復魔法や範囲支援魔法などが適用出来たりといろいろと便利なシステムで、大幅なレベル差が無い限りはパーティーシステムは適用されたりする。


しかし、ゲーム内ではパーティーシステムの申請コマンドがあったのだが、現実世界では当たり前だがパーティーシステムの申請コマンドなど無いのだが、この世界に転生してからいろいろあって分かったが、コマンドウィンドは無いけどコマンドを声に出してみると、割とほとんどのシステムコマンドは有効だったりするのだ。


だから、パーティーシステムも声に出せば使える気がしたのだ。


「ハリッサ、手を貸して」


「ん? 何するの?」


僕は差し出されたハリッサの手を握る。


「成功したら分かるよ。パーティー申請、ハリッサ!」


「なんかパーティー申請を受諾しますかってきた」


「おっ、やっぱり成功したか。ハリッサ、はいって念じてみて」


「分かった……」


【ハリッサよりパーティーの受諾を確認しました】


ハリッサとパーティーを組むのに成功したら、言葉にはしづらいがハリッサとの繋がりのようなものが出来たのを感じた。


なるけど、現実世界でパーティーを組むとこんな感じになるのか……


「なんかアカリお姉ちゃんの事が近くに感じられて安心する!」


「そっか、それは良かったね」


「うん! ……!」


「ん? どうしたの?」


ハリッサが今までになく真剣な表情で何もない森の先を見ていた。


「向こうから何か来る……」


「え……? 何も見えないけど、動物かな?」


僕にはなにも見えないが、もしハリッサには何かが来るのが分かるのだとしたら、もしかしたらハリッサには索敵のようなタイプのスキルを有しているのかもしれない。


「何匹かゆっくりと近づいてくるよ」


「マジか……僕はまだ戦う手段が無いのに……」


ゆっくりと近づいてくる様なら、慎重に獲物を狩る様な動物だろうか?


それとも女神が言っていたモンスターのいないエリアから出てしまったのだろうか?


「私も武器がないと戦えない……」


「ハリッサって剣術が使えるんだっけ?」


何とか剣術だったか、忘れたが……


「バレンティス剣術!」


「ああ、バレンティス剣術ね。剣術ってくらいだから剣がないとダメだよね……」


僕に武器を作る環境があれば……


「バレンティス剣術は剣じゃなくても硬い棒なら大丈夫……でも、硬い棒も無い……」


「硬い棒?」

 

剣術なのに棒でも良いのか?


硬い棒っぽいものになら心当たりがあるが、こんなものが武器になるのかな?


いや、迷っている場合ではないな、ハリッサの言っている事が正しければ、いつ僕たちのところへなにかが来るのだ。


「ハリッサ、硬い棒に変なものが付いているけど、これらは使えるか?」


ハリッサは僕の出したものを吟味する様に棒の部分を握り締め、何度か素振りしてみる。


ビュン、ビュン!


「うん、大丈夫だよ。これはなんて言う武器なの?」


「……これは武器ではなくて、スコップって言う土を掘ったりする便利な道具なんだけど、今はスコップかあとはこのツルハシしかないんだよね」


殺傷力ならばツルハシの方が高そうだが、ハリッサが選んだのはスコップの方だった。


このスコップは先端が尖っているタイプだから、貫通力はある……のか?


スコップは全長1メートルくらいある大きなものなのだが、ハリッサは中心よりも持ち手側を両手で握り、いろいろな角度で振り回しているのだが、ハリッサがスコップを振り回しているのを見ていると、スコップって武器だったのか?と錯覚してしまうほど、ハリッサがスコップを振り回す姿は美しいと思った。




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