第8話 ハリッサの手枷
僕はハリッサにいろいろ質問したのだけど、名前と年齢、後はバレンティス剣術を使える事くらいしか分からないみたいだった。
あとは着ている服がボロボロなのと、両手首に金属製の手枷みたいなのがついていた。
あの手枷だけで何キロあるんだ?
「ハリッサ、その手首についたものは重いだろう?」
「ん。 そうでもないよ」
ハリッサはそう言うと両腕を手枷と共にブンブンと振り回す。
これは……ハリッサが凄いのか、それか異世界の住民はみんなこんなに力が強いとかなのか?
僕はピッケルを振り回す以前に持ち上げるのも辛いのに……
「ハリッサは、何でそんな手枷が付いてるのか分かるか?」
「分からない……アカリと会う前の事はほとんど分からないかな……」
「そうなのか……本当に記憶喪失なのかな? これからどうしようかな」
僕ひとりならば死なない限りは適当に町を目指す感じで良いかなと気楽に考えていたが、ハリッサも一緒となると適当な行動も出来ないだろう。
「私は置いてかれるの?」
「えっ、いやいや、置いていくなんて事はしないよ。ハリッサが自由に行動したいなら別だけど」
「いや! 私はアカリお姉ちゃんについて行きたい!」
「そう? なら、一緒に町を目指そうか」
「私は別に町に行かなくても良いかな」
「え? 何で?」
「私はさっきの美味しい飲み物があれば、ほかはいらないよ」
「いや、それは……」
それではまるで食べ物で少女を釣ったみたいな印象になるな……
「……もう無いの?」
「ああ、さっきのはまだあるよ。それよりも手枷を先に外しちゃおうか」
手枷が付いていたら両腕を自由に動かせなくて辛いだろうから、まずは手枷を外そうと思った。
「これ、外せるの?」
「ああ、さっき触った感じだと簡単に外せるよ」
ハリッサの付けられている手枷は、鍵穴も無ければ継ぎ接ぎした形跡すら無くて、どうやってハリッサに付けたのだろう?って思う感じだが、これは鍛冶師の持つスキルで解決出来るのだ。
もしかしたら、この手枷を付けたのも鍛冶師か錬金術師のどちらかではないだろうか……
僕はハリッサの手枷を触りながら、意識を集中して「金属精製!」と叫ぶ。
そうすると、ハリッサの両手首に付いていた金属製の手枷はドロッとしたスライム状の液体になったかと思うと、綺麗な長方形の金属の塊に変形していた。
「アカリお姉ちゃん、凄い!」
「初めて使ってみたけど、問題なかったね」
この金属精製は、鉱山で掘った鉱石やクズ石などをスキルにより、金属とそれ以外のものとで自動的に分別して、金属だけを金属の塊へと変えてくれる便利スキルである。
ゲーム内では鍛冶師には必須スキルで、ゲームでは掘った大量の岩や石を金属精製スキルのコマンド欄にドロップすると、あっと言う間に金属の塊にしてくれた。
ちなみにゲームでは金属精製や採掘スキルなどには全て非表示された隠しレベルが存在しており、先ほどの手枷はただの鉄だったので、レベル1金属精製でも簡単に成功したのだと思われる。
これが、例えばレベル4のレッドミスリルならばほとんど失敗に終わり、レッドミスリルの鉱石は消えてしまうのだ。
その代わりレベルの高い鉱石は失敗しても金属精製のレベルが上がりやすいので、高レベルのプレイヤーは売れば高額になるようなレベルの高い鉱石を湯水の如く消していく地獄の様な作業を繰り返すのだ。
レベルアップに関しては鍛冶スキルや採掘スキルも同じで、失敗すると消えてしまう仕様だったので、高レベルの希少金属の武具は、採掘で失敗し金属精製で失敗、鍛冶で失敗となるので膨大な希少鉱石が必要になったりするので、必然的に超高額になっていた。
ちなみに女神が資金の為に売却用のオリハルコンアクセサリーをくれたのだが、オリハルコンも超が付くほどの希少金属で、オリハルコンで作られた武具は神々の武具とされ、いつかはオリハルコン製の武具を自分で作りたいと鍛冶師プレイヤーの目標だったりした。
「アカリお姉ちゃん、この塊はどうするの?」
「ん? その鉄の金属はハリッサの物だから、今後の生活費用に町に着いた時に売ると良いよ。町に着くまでは僕のアイテムボックスに入れといて上げるよ」
町に着いたら記憶喪失のハリッサをどうするかは迷っているが、どちらにせよハリッサが自由に使えるお金は合った方が良いだろう。
「そしたら、私は剣を買いたい!」
「剣? そう言えばハリッサは剣術が得意なんだよね。鍛冶場さえあれば剣を作って上げられたんだけどなぁ」
鉄の金属ならば、今の僕の鍛冶スキルでもハリッサ用の武器は作れる筈なんだけど……そういえばゲーム内での鍛冶は鍛冶場で鍛冶スキルを選択後に加工したい金属を指定すると、作成可能な武具リストが表示されて、選択するだけで武具が完成したのだけど、現実世界ではどうなるのだろう?
もしかして、実際に鍛冶をやらなくてはいけないって事だと、力も体力も知識や技術も無いからかなり大変な気がするぞ……
「ならアカリお姉ちゃんに剣を作ってもらいたい!」
「町に着いたら考えるよ」
「うん!」
ぐうぅぅ……
ハリッサが元気良く頷くと共に、ハリッサのお腹の音も元気良く鳴っていた。
えっ?
さっき、栄養ゼリーを8000mlも飲んだのに、もうお腹空いたの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます