第十六話 ここから先は
「…………」
あるのは目の前のノートPCが発する貸すかな駆動音だけ。
別にそんな静寂に気を遣ったわけではないが、おれは声を押し殺して心中で叫んだ。
だ・さ・く・だーーーーーーーーーーーーーーーっ!
な、なんだこの展開は……茅野のヤツ、こっから先どーするつもりなんだ……?。
このまま素直に縁を切るんだったら何も見所がねーぞ。意外性が何一つ見当たらねー……。
いや、むしろどんな見所を用意するのかというところに見所があるのかもしれないが。
一体、どーいう意識の変化があればこんな展開になるんだ?
……そもそもこれは小説なのか?
自分が身を引いた後、あるいは自分がいなくなった後の願い――希望。
そんなのは小説というよりもまるで――。
いやいや早い早い。マジで早い。早計にも程がある。
それとも、これは飽くまでフィクションです、なんて言うつもりか?
この期に及んで?
昨日、あんな感情の発露を見せておいて?
……この検査入院で
末期、とは言わないまでも、それなりに進行していたか?
その可能性も否定はできない。
おれのこれまでの入院経験でも、予想を裏切られてきたことは何度もあった。順調に快復していた患者が急に容態を急変させたり……その逆も。
医療や人の体に絶対はないんだ。
おれは足早に休憩スペースを後にすると、滝川の事務室へと特攻をかけた。
「何かなミコト君。ちょっと今は」
「茅野の検査結果は出たのか?」
おれは滝川の言葉を遮って問い掛けた。
ヤツは何やら机に向かっていてどうやら何か手が離せないようだったが、なに、それほど時間は取らせない。こちらの質問にすぐに答えてくれさえすれば。
「ミコト君。他の患者さんの病状に関しては……」
「いーから答えろ。別に誰にも言わねーよ」
そんなことは滝川もわかっているだろう。
十年以上の付き合いなのだから。
それでも整ったその顔を曇らせているのは、良心の
しかし、おれが折れないのを察してか、十年来の担当医は諦めたように溜め息を吐いた。
「僕は彼女の担当じゃないから詳しくは知らないんだけどね―――」
……と前置きをしてから、滝川は近しい診療科の医師連中のほうで共有されたという、茅野の検査結果を明かしてくれた。
「…………」
それを聞いたおれは、改めて気を引き締めた。引き締めざるを得なかった。
脳裏に
おれにとってのオアシスであるこのスペースにそう何度も何度もあんなツラを持ってこられても迷惑なんだよな。気ぃ遣うし、こっちの気分まで萎えちまう。
……ふむ、ここは一つ、この先の展開に捻りを加えられるよう、おれがアイディアを出してやるとしよーか。
どこまでやれるかはわからねーし、裏目に出ちまう可能性もあるが……ま、できるだけはやってみるとしよう。
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