第零話 入学前(2)
そんなふうに来たる高校生活を憂えていると、何やら唐突に意識の外から
見ると、スコアは0ー2。
会場は相手のホームグラウンド。
相手チームはこちらの新設チームと同じ二部に所属しているものの、リーグ発足当初から活躍している古参で、オリンピックやワールドカップにも召集される選手が何名か在籍しているほどのチームだ。
対して設立されて間もないこちらは、主力選手を怪我で欠いているらしく、歴史も浅い。このスコアは何も目を見張るほどのものでもなかった。
チームの実情には詳しくはねーけど、まぁ持ちこたえてるほうなんじゃねーの?
主力選手の有無によるハンディキャップ、アウェイという条件のディスアドバンテージ。それに加えて時間は後半四十分を回っている。まぁ逆転は無理だろーな。
と、そんなふうに通ぶって分析していると、何やらもぞもぞと背中のほうに違和感。
座椅子に座っていたおれの背中と背もたれの狭い隙間に何かが押し入ってきているようだった。 居心地の悪さに振り返ると、肩越しに両腕を回してくる感情の見えない相貌と視線がかち合った。やや見上げる形なのが憎たらしいが、姉の座高が高いのだと思うことにしよう、そうしよう。
「こんな狭い所に入ってくんじゃねーよ」
まるで狭所に潜り込んでくる猫のような愛くるしい狼藉だが、女子にしては高めの身長と無軌道な気性からすると 、猫というよりは虎だ。
おれのそんな文句もこの虎にはどこ吹く風、
「サッカー、やりたいの?」
完全に頬に息が掛かるほどの距離、見事に聞き流して話を切り替えてきた。おかげで会話が成り立たない。
「いや、全然」
「サッカーなんてダメ、ゼッタイ。せっかく身体も治ってきてるんだから」
「違うっつってんだろ」
おれは会話のかみ合わなさに溜め息をついて、チャンネルを変えた。
現実のどこかで行われている試合とはいえ、おれの手の届く範囲の出来事でもない。これは当事者同士が力を尽くすことだ。おれにとっては成り行き任せでしかなく、まさかおれの応援一つで形勢が変わるわけでもない。
「ミコト、わかってる? 高校生になったからって無理しちゃダメ、ゼッタイ。ミコトは弱いんだから」
「うるせーな、何かの未然防止広告か」
サッカーに興味がないわけではないけれど、本格的に始めようなんて露ほども思わない。部活にも入らないだろう。マネージャーにすら興味なし。
「わかってるよ」
だからそんな肯定だけは返しておく。
すると美夜はほっと安心したような吐息をおれの耳に撫で付けた後、おれの肩に手を置きつつも負荷を掛けないようにして静かに立ち上がった。
そうして何も言わずに部屋を出ていく。数分後にはまた何も言わずに入ってくるんだろーけど。
おれはその隙間時間にチャンネルを戻すと、試合はちょうど終了のホイッスルが吹かれた直後のようだった。
「負けたか」
案の定、試合は何の番狂わせも起こることはなかったらしい。
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