想いが通じる四分前――パリ、フランス。九月三日 午前八時四十六分。

 ストレッチをしながら、彼は、彼女が現れるのを待っていた。

 彼女は毎朝八時五十分きっかりに、彼が立っている場所、左岸の遊歩道を通過する。ほぼ毎朝、ランニングシューズの軽快な足音とともに。

 彼が彼女にあいさつを交わすようになって、ひと月が過ぎた。

 いつも彼は走ってきた彼女に挨拶をして、しばらく並走してから別のルートに別れた。走っている間はほぼ無言だった。

 でも、今日、彼は彼女に挨拶以上の言葉を交わすつもりだった。

 別にデートに誘うことくらい、おかしなことじゃない。

 問題は、彼女が大学生なのに対して、彼はまだ十四歳だということだ。

 彼は、屈伸を終えて、上半身を伸ばし始めた。

 腕時計を確認する。

 彼女がここに来るまでにあと五分。

 落ち着け。

 彼は深呼吸を繰り返す。

 彼女が来るまであと四分。

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