第8話
話を逸らし、道を変えた。帰宅時間をズラす事もできた。
だが、まだ安心はできない。
こんな事で変えられる事象だとは到底思えない。
「急に本屋なんてどうしたの?」
「あぁ、ちょっと欲しい漫画があって見に行こうと思ってな。」
「そっか。」
なんだろう。怪しまれている気がする。
「付き合ってくれてるけど、シオンは何か見たいものはあるのか?」
「ううん、特にないよ。なんとなくかな。」
「そうか、悪いな。ありがとう。」
「うん。」
どこか空気がおかしい。
気にしても仕方ない。今回は事故に遭わないように注意する方が真っ当だろう。
そうこうしていると、前回確認していた本屋に着いた。
適当に漫画コーナーを彷徨くが、見たいものがあったわけでもない。
「ねぇ、欲しい漫画って何?なんてタイトルなの?」
「んー?内緒。」
「本当は欲しい漫画なんてないでしょ。」
「え?」
「ジン、漫画なんてあんまり読まないじゃん。」
いや、そんなはずはない。と答えそうになったが確証は無い。
過去に見た部屋にはあったはずだが、成長して読まなくなった可能性もある。現在の俺が読んでいない可能性を考えてはいなかった。
彼女の疑いの眼差しが痛い。これ以上誤魔化すのは無理そうだ。
「…なぁ、ちょっと近くの公園に行かないか?
大事な話がある。」
「うん。」
足早に本屋を後にし、近くの公園に向かう。
公園までの道のりでシオンと言葉を交わす事は無かった。
公園の自販機でジュースを買い、ベンチに座る。
「話なんだが」
「やっぱりジンじゃないでしょ。」
「あぁ。」
「でしょ?前にも違和感があったんだよね。」
「一旦俺の話を聞いてくれるか?」
「いいよ。」
多くを語ってはいけない。
嘘も見抜かれる。
今俺が話せる事で限りなく事故を回避出来る話し方…
「俺は今から嘘はつかない。信じてくれ。」
「わかった。」
「確かに今話している俺は“この世界”のジンではない。別の世界からきて人格だけ変わっている。
俺は社会人でもう働いている成人済のジンだ。」
「ふーん。それで?」
「シオンは覚えてないはずだが、俺は一度この世界のこの時間に来ている。下校を経験するのは2回目だ。」
「どういうこと?」
「一度今日を過ごしているって事。そこで俺は変えなければいけない過去に触れた。内容については言えない。」
「よくわかんないけど。」
「我慢してくれ。意味もわからないだろうし怖いだろう。そう感じているのはわかる。
ただ、信じてくれ。嘘はついていない。」
「それを聞いてはいそうですかとはなれない。」
「だよな。何を聞けば信じられる?」
「変えなければならない過去って?」
「それは言えない。他ならなんでも話す。」
「前にもこんな感じで入れ替わった事は?」
「無い。この世界はこの時間が初めてだ。ただ、この時間に来るのは2回目だ。」
「そう。私死ぬの?」
「え?」
「私死ぬの?」
何故確信に触れようとするんだ。
悟られるような事を言った覚えはない。
「どうしてそう思うんだ?」
「やっぱり死ぬんだ。たぶん、そうだなー、交通事故?」
「…」
なんと答えればいいのかわからなくなってしまった。
「そうなんだ。なんでわかったか聞きたい?」
「…あぁ。」
「私もこの時間に来るのは2回目だからだよ。」
「は?」
「君と同じだよ。だから全て知ってる。嘘ついててごめんね。」
「どういう事だよ。じゃああの時の記憶とかも残ってるのか?痛かっただろ。」
「すごく痛かった、死んじゃうかと思ったよ。」
「そうか…、でも時間も道もあの時とは違う。大丈夫だと思う。まだ気は抜けないが…。」
「そうだね。」
彼女も来ていたのか。
「なんて言うと思った?」
「え?」
「ちょっと話し合わせてみたんだ。
私が気がついたのは、あからさまにいつもの下校ルートから外れた事。
見もしない漫画を見に行こうなんて帰宅時間をズラしていたこと。
それから考えるなら、交通事故が一番ありそうかなって。
あとは、合わせて話を聞き出してみた。」
「…そう、か。」
「あんまり信じないわけにもいかなくなったし、一緒に考えようよ。
中身がどうあれ、ジンが悩んでるなら協力したいし。」
「あぁ、ありがとう。」
「私が死ぬのは何時なの?」
「時間は確認できてないな…。見ておくべきだった。ただ日も天気も同じだ、そこから考えるとそろそろ時間なはず。
もう少し日が落ちていたし、ここよりも家に近かった。」
「そっか。なら単純に時間と場所だけを変えれば避けられるかもしれないね。」
「そうならいいんだが、こういうのって収束するって言うだろ?それだけが不安要素だ。」
「かと言って、もうこれ以上何もしようがないでしょ?」
「そうだな、もう少し公園にいるか。」
「試してみても良さそうだね。」
シオンに全てを話し、公園でしばらく時間を潰すことにした。
「ねぇ、私がもし死んだらまた助けに来るの?今回みたいに。」
「そうなる、と思う。俺も何故ここに来ているかわからないんだ。」
「そっか、死にたくないなぁ。」
「死なせないよ。」
「なんでこの世界のジンでもないのに私にそこまでしようと思えるの?」
「ジンが君の事を大切に思っているからだよ。」
前回事故が起きたくらいの夕焼け空になった。
「大、丈夫みたいだな。」
「そうだね、私ピンピンしてるし。」
「じゃあ帰ろうか。」
「うん。ありがとね。」
「ん?何か言ったか?」
「ううん。さ、行こ。」
「あぁ。」
帰路に就く。
今回は本当に何もないようだ。
「じゃあ、私こっちだから。」
「家まで送らなくていいか?」
「うーん、送ってくれる?」
「もちろんだ、ここまで来て目を離す訳にもいかない。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
そう言ってまた二人で歩き始める。
「ねぇ、本当に嘘じゃないんだよね?」
「嘘じゃない。それは君自身が一番肌で感じてるだろ?」
「そうだけど、あんまり現実味が無いからさ。」
「そう思うのも仕方ない。起きると言っていた事象が起きなくて、証明のしようがないから。」
「あなたは、この世界のジンの気持ちとかわかるんだよね?さっきの言い回しだとそう思ったんだけど。」
「わかるよ。」
「ジン、私に隠し事してたり嫌いになったりしてないかな?他の子のこと好きになってたりしないかな?」
「大丈夫だ、俺がわかる範囲ならそういうことはない。安心してくれ。」
「そっか。じゃあ信じるよ。」
「あぁ。家ここだろ?」
「うん。ありがとうね。じゃあまたね。」
「また。」
無事に送り届けることができた。
良かった、緊張の糸が切れて一気に眠気がくる。
早いところ家に帰ろう。
「おかえり。」
「ただいま、今回はなんとか上手くいった。聞きたいことは尽きないが、今日はもう休む。じゃあ。」
「うん。おやすみ。」
「いよいよ、だね。」
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