第3話

昼に焼肉屋のランチを食べ上機嫌になっていた。

帰り道にある公園のベンチに腰を掛ける、こうして散歩なんてしたのもコッチでは久し振りだな。

遊具で遊ぶ子供、側で見守る母親。こうしてみると平和な世の中に感じる。

あまり見ていると不審者と思われないか不安になった俺は長居せず帰ることにした。

帰り際にふと視界に入る遊んでいる子供。

そういえば、あれくらいの歳だったな。平和だと思っていたが、案外そうでもないのかもしれないな。

今の今まで考えることを忘れていた。

まだあの夢は続くのだろうか。

どんな夢になるのだろうか。

気が付くと家のすぐ近くまで歩いていた。

気になるが、あまり見たくもない気もある。

見てしまったら見てしまった時と思い、漫画を読んで時間を潰した。


やっぱり続くのか、終わらないのか。

そう思いながら振り向く。

「よ。」

「お、おはよう。今日はご機嫌だね。」

「昼に焼肉ランチ食ってな。美味かったよ。」

「そうなんだ。今日は頑張ってね。」

「ん?あぁ。ありがとう。今日は12なのか、全く法則がわからないな。」

「法則なんて多分無いよ。」

「たぶん、か。まぁいいや。行ってくる。」

「うん、行ってらっしゃい。」



少し曇った空が広がっている。

横には女の子。たぶんシオンちゃんだろう。成長しているが面影がある。

ということは俺も成長しているのか。

また帰り道か。

「雨、降りそうだね。明日晴れるかな?」

「うーん、この天気じゃわからないな。」

「そうだねぇ。晴れてほしいなぁ。」

「晴れるといいな。」

「うん。じゃあ私こっちだから、明日よろしくね!またね!」

「じゃあまた」

明日何かあるのか?と考えるが聞きそびれた以上わからない。

そもそも俺はこの世界で明日を迎えることができるのか?

考えても仕方ない。

「ただいま。」

「おかえり。」

「ねぇ母さん、明日って何かあるんだっけ?」

「え?明日シオンちゃんと遊ぶんじゃなかった?」

「あぁ、そうだった。ちょっとど忘れしてた。」

母が知っているなんて俺は案外話したがりなのかもしれないな。

トイレに行って洗面台の鏡に映る自分を見る。

おぉ、成長してる。でもランドセルだったな。

小学6年くらいか。

あまり今日はやることもなさそうだ。適当に時間を潰そう。

と考えつつ自室に行く。

俺の部屋にしては何もなさすぎるな。

とりあえずで寝転ぶ。

俺はこの世界で明日を迎えられるのか?

またあの部屋に戻り、またドアを開けると明日になっているのか?

今回の世界では何をするんだろうか。

またシオンちゃんが絡んでいるというのがどうも引っかかる。

俺がこの世界で共通して関わっているのはシオンちゃんと母親くらいだ。

そもそも“この世界”なんて言っているが、前回の世界と同じで時間だけ過ぎていると考えるんが自然か。

普段とは違う生活を経験しているという点では、この世界は楽しい。

だが、何かある。という漠然とした疑問は消えない。

「ご飯出来たわよ。」

母さんだ。

「今行くよ。」

今日は豚の生姜焼きのようだ。やはり感動するほど美味い。

「箸、止まってるよ。」

「あ、うん。ごめん。すごく美味しいよ。」

「確かジンが小学2年の時だったかしら。前にも突然箸が止まった事があったわね。

あの時は…そう、肉じゃがだった。ビックリしたからずっと覚えてるのよ。

あれ以来こんなこと無かったから。」

「そう、なんだ。あんまり覚えてないけど、小学2年の時?」

「確かそうよ。あの次の日だったかしら、ジンがシオンちゃんをイジメから助けたの。ボロボロになってて心配したのよ。」

「あぁ。あの時の事か。思い出したよ。」

「急に素直になるのが何かの前触れな気がしてちょっと母さん怖いよ。明日、、気をつけなよ。」

「うん、ありがとう。大丈夫だよ。」

母との会話でわかったことは、あの時の俺は小学2年だったこと。

俺が急に素直になる、つまり俺が俺になっている時と俺じゃない時は少し違うということ。

確実に別人格として俺は俺になっている。

それはそうか、俺は純粋な小学生ではなく大人なんだから。

「ご馳走さま。美味しかったよ。」

「お粗末様。明日早いんでしょ?早いとこお風呂済ませちゃいなさい。」

「はーい。」

一度着替えを取りに部屋に戻る。

風呂は好きだ。心は無になるし頭の中を整理するにはもってこいだ。

早速風呂場に向かい、全身を洗う。

湯船に浸かりながら、今わかっていることを整理してみる。

変な部屋にドアがあり、上に数字があること。今までは6と7。今回は12。

不可解な暗号があった。内容は忘れてしまった。あそこに戻った時に確認しよう。

シオンちゃんをイジメから救ったのが7のドア。あの時が小学2年。

ドアの数字が増えると俺は成長していた。

…ん?

7の時小学2年?小学2年って7歳の年だよな?

ってことは12歳、小学6年か?

この仮説が正しければ、この世界のジンの成長を体験していることになる。

あいつの言っていた体験を活かせって、この世界で成長の一途を辿り現実世界の糧にしろって事か?

差し詰め、あいつは俺を更生させる為の指導者ってところか。

なんとなくわかってきた。

次戻ったらあいつにこの事実を突き付けてやろう。

そんな無粋な考えをしながら俺は風呂を上がり、少し浮ついた気持ちで眠りについた。


「おい、わかったぞ。……え?」

戻っていない、なんでだ?

待て、もう戻れないなんてことはないよな?

時計は8時を回ろうとしている。普通に夜が明けたのか。

考えても仕方ない。迎えると思っていなかった明日が来たからにはシオンちゃんとの予定を守ろう。

そうするしか今できることはない。準備を始めて気付いたが待ち合わせ場所や時間を俺は知らない。

「ごめんください。ジンくんいますか?」

そんな焦りを払拭しに来たかのように彼女はうちに来た。走って玄関まで向かう。

「居るよ、ごめんね、ありがとう。行こうか。」

「うん!」

歩いていて気がついた。

昨夜、雨が降っていたのか地面に水溜りが目立ち少し泥濘んでいるようなところもある。ちょっと滑りそうになる。

「大丈夫?昨日の夜雨凄かったから地面滑りやすくなってるし、気を付けてね。」

「ありがとう、シオンちゃんも気を付けなよ。」

「え?あ、うん。ありがとう。」

何故か返事に違和感があった。

「それで今日はどこに行くの?」

「え!?嘘でしょ?この辺に山の方にヒマワリが綺麗なところがあるから行こうって誘ってきたのジンだよ?」

「あ、あぁ。冗談言っただけだよ。ごめんね。」

「なんか今日のジンちょっと変かも。ちゃん付けするし。」

「え?」

「ううん、何でもない。行こ?」

「そうだね。行こう。シオン。」

ちゃん付けをしていないのか。

4年もあると変わるものだな。

ヒマワリが咲いている地域なら何となくわかる。

地理は頭に入るのになんで人間関係なんかの記憶は入ってこないんだよ…。


少し山の方に足を運ぶ。

途中何度か滑りながらも転ばずになんとかヒマワリ畑に着く。

正確には畑ではないと思うがそれほどたくさん咲いていた。綺麗だ。

「すごーい!とっても綺麗ね!」

「綺麗だね、心が洗われていくような気がするよ。」

「そうだねぇ、本当に綺麗。」

「知ってる?ヒマワリの花言葉。」

「え?知らない。なになに?」

「いや、知らないならいいんだ。」

「なにそれー。教えてくれてもいいじゃん。ケチ。」

スネるシオンちゃんも可愛い。

「拗ねないで。いつか教えるよ。」

「えー、まいっか。お腹空かない?私お弁当作ってきたんだー。」

「おぉ、空いてる空いてる。この景色を見ながら食べよう。」

「うん!頑張ったんだよ!」

そう言いながらシオンちゃんはリュックから取り出したレジャーシートを広げ弁当箱を手に持った。

横に座り、一緒に食べる。

美味しい。

「どう?美味しい?」

「うん、すごく美味しい。一人で作ったの?」

「当たり前じゃん!」

「すごいな、料理上手だね。」

「褒めてもなにも出ないよー。」

他愛のない会話、幸せな時間が流れる。

少し肌寒く感じる。空に雲がかかり始めていた。

「せっかく晴れたと思ったのに。雨が降らないうちに帰ろうか。」

「そうだね。美味しかった、ご馳走さま。」

「良かった。さ、片付けよ。」

俺たちは片付けを済ませ、ヒマワリ畑を後にする。

が、山道を抜けるより雨が降り出す方が早かった。

「降ってきちゃったね。急ごう。」

「あんまり急ぐと危ないから、注意しながら行こう。」

「うん。」

来た時よりも早足で、滑らないように家路を急ぐ。

眩く空が光る。

嘘だろ、こんな時に戻るのか!?寝てないのに?

焦った瞬間だった。

耳を劈くような悲鳴と轟音が辺りに響き渡った。

「シオン!大丈夫か!?」

振り返るが姿が見えない。

反応も無い。

「どこだ!」

俺の声だけが響く。

冷静に辺りを見渡す。

さっきの光はあの部屋から出る時のものではないことが数秒前の轟音が裏付けていた。

雷だ。シオンちゃんは雷に驚いて足を踏み外したと考えるのが正解だろう。

脇道の方を注意深く探す。

居ない。そんなに下まで転げ落ちているというのか?助かるのか?

草が倒れているところを見つける。と同時に嫌な予感がする。

赤い草なんて俺は見た事がない。色のつき方の疎らだ。

嘘だろ。おい。待ってくれよ。

腹に深く枝が突き刺さっている。否、腹を貫通している。

さっきから返事が無いことを考えると、たぶん即死だ。

頭からも血を流している。

落ち着けこれは夢だ。

寝れば覚める。

大丈夫だ。なんてことはない。

一頻り嘔吐して冷静さを取り戻す。

そうだ夢なんだ。

この場に1秒でも長く居たくない。心が壊れてしまう。

家まで、何度も転びながら帰る。

泥塗れ、血塗れの俺を見て母は悲鳴をあげる。

関係ない、俺は今すぐにでも寝なければならない。

早く寝ろ。と思えば思うほど眠れない。

意識を失えば眠ったのと同じになるのか?

何でもいい。飛べ。

自らの首を絞める。

遠のく意識、疲労も相待ってかプツンと視界が途切れた。



「なんでだよ。おかしいだろ。これは俺の夢だろ?なんで…」

「おい、どこに隠れてんだよ。出てこい。なんなんだよこれは!」

静寂が怖い。誰の気配もしない。間違いなく今この部屋には俺しか居ない。

あんなに白かった部屋はどす黒く汚い青のマーブル模様をしている。

理解した気でいた。

俺は12のドアの前で立ち尽くしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る