第709話 逃げ続けて


 うがー! ランダムリスポーンでキツネさんの前に出ちゃったけど、今回は戦わないって決めたから、ひたすら逃げろー!


サツキ : サクラちゃん、逃げる、逃げる、逃げるー!

水無月 : 全力で逃走中!

金金金 : 狐っ娘アバターも焦っている表情っすなー。


「だって、こんな風に追われるとは思ってなかったですもん!? 距離は……ちょっとずつですけど、離れてますね!」


 後ろを振り返ってる余裕はないから、マップの反応で距離を確認! 索敵に引っかかってる敵の反応もあるけど……あれ? なんか追いかけてきてる敵の数、増えてない!?


「あのー、追いかけてきてるの、キツネさん以外にもいますかねー?」


 逃げるのに精一杯だったから、他の敵の様子とか気にしてなかったんだけど……もしかして、近くに交戦になるような個体がいたの!?


ミナト : うん、まぁチラホラと他の敵……ネズミとかウサギとかリスがいたよ? 東に向かって逃げちゃってるから、格上ばかりだね。

富岳 : さっきは北に逃げて、そこの森が燃え上がってる最中だが……そっちの方からも、近寄ってきてる敵が複数いるな。まぁそれは、九尾の狐と交戦状態に入った個体だろうが……。

ヤツメウナギ : あー、サクラちゃんと一緒に焼かれた敵の中の生き残りがいたんだな。

こんにゃく : なるほど、あれで全滅はしてなかったか。

チャガ : まぁ1撃なら、確実に生き残る手段も存在はするからな。その手のスキルを使ったか、生命系統の個体だろうよ。


「あの状況で生き残ってるって……あっ! そういえば、私の『破壊の咆哮』を凌いだタヌキとかいましたもんね!」


 私のライオンのスキルツリーにも『背水の陣』っていう、1回に限り、確定で生き残るスキルはあるもんね! 解放してないけど……あれ、持ってたら便利なのかも?


咲夜 : 確定での生存、持ってれば意外と役立つんだよなー。

ミツルギ : まぁ耐え切った後、立ち回りを間違えれば即座に死ぬけど……いざって時には役立つのは間違いないか。

ミナト : 話しながら逃げるのはいいけど、時々、背後の様子は確認してね? そうしないと溜めの状況も分からないし、いつ撃ち出してきてもおかしくはないからさ。

イガイガ : ただし、後ろを向けば、その分だけ移動速度は落ちる!

G : 距離を詰めたい九尾の狐と、逃げ切りたいサクラちゃん! さぁ、結果はどうなるか!?

真実とは何か : キツネとの戦闘の是非は如何なる真実か!?

ミナト : あ、そういえばこのまま逃げ切るつもりでいいの?


「あ、はい! キツネさんとは、たとえエリアボスでも戦いたくないので、このまま逃げ切りを狙います! でも、後ろも見ないと……わー、3つ目の火の球が出来てますね!?」


 チラッと後ろ見てみたけど、走って追いかけてきてるキツネさんの9本の尻尾のうち、3本の先に火の球がー!? うー、後ろを向いたら明確に走るのが遅くなるから、すぐに前を向き直して走らないと!


いなり寿司 : 現時点で、火の球は3つか。どこまで溜めてくるかが問題だな……。

ミナト : 他の敵が追いついて、攻撃を仕掛けてくれれば楽なんだけどねー。全力で逃げるサクラちゃんを盛大に追いかけてるからか、他の敵を振り切り気味なのはあんまり嬉しくない状態かな?

ミツルギ : 他の敵との乱戦に入れば、逃げ切りやすくもなるんだが……。


「なんでそんなに、あのキツネさんは私を執拗に狙ってるんですかねー!? 私、何もしてないですよ!?」


 ただ、目の前に出ただけだもん! 最初も、私からは攻撃は仕掛けてないもん! それなのに、攻撃性が高過ぎるませんかねー!?


咲夜 : エリアボスって、基本的に好戦的な個体だしな!

イガイガ : その前に姿を表せば、まぁ襲われて当然みたいなもんだ。

G : これまで散々エリアボスに襲われてきてるんだし、今更ではあるぞ!


「……それもそうでした」


 うん、本当に今更な話だったね! ……キツネさんに襲われたくはなかったけど、敵なんだから仕方ないよね。


「というか、任意のタイミングで発動可能な溜め攻撃って、発動するタイミングは見極められるんです!? どんどん、危険な状態に近付いてる気がするんですけど!」


 投擲を当てれば、無力化出来るとか言ってたけど……それ、どう考えても発動のタイミングが分かった上での話だよね!?


ミツルギ : 『九尾の炎弾』なら、他より見分けやすいんだが……今の状況だと厳しいな。

ミナト : 火の球が大きくなるのが止まった瞬間が、攻撃開始のタイミングなんだけどね? そこから1発ずつ、タイミングをズラして放ってくるから、目視してからでも対応は可能だよ。

富岳 : 迎撃出来るかは、その人次第になってくるが……一番の問題は、その目視が今は出来ない事か。

真実とは何か : それが真実の問題なのである!


「うー!? そりゃ見えなきゃ、対応は出来ないですよねー!?」


 ぐぬぬ! 今使ってる『逃走』は、本当に軽やかに『疾走』より楽に走り抜けられてるけど……後ろの様子を見ると、露骨に移動速度が落ちるのが痛いよ!


金金金 : そういや、この『逃走』って、かなり速いんだな?

こんにゃく : まぁそりゃ、逃げる専用のスキルだしな。エリアボス……それも遠距離特化型が相手でなければ、もうとっくに振り切ってる。

ヤツメウナギ : 遠距離攻撃を活かす為に、俊敏のステータスがそれなりにあるっぽいのが痛いところだろうよ。


「あのキツネさん、厄介過ぎませんかねー!?」


 うがー! 普通の個体なら、もう既に逃げ切れてたって事なの!?


ミツルギ : 実際、すれ違いで交戦状態に入った敵は、もう大体振り切ってるしな。

富岳 : 九尾の狐も、交戦状態になってた他の敵を振り切ってる状態……そういえば、キツネの場合は『衝撃凝縮』がない代わりに『猛火の猛追』ってスキルがあったな。

金金金 : ん? それ、どんなスキルだ?

神奈月 : あー、あれか! 溜め中でも、射程圏内の捉えられるように移動出来るスキル! 何気にズルいんだよな、あれ。相手に合わせて、移動速度が上がるし!

こんにゃく : キツネ固有のあれか。威力がかなり下がる代わりに、移動不可の溜め段階でも移動が可能になるやつ。……『九尾の炎弾』は元々動けるから、威力低下がなかったな。

金金金 : あー、なるほど。そういうスキルがあるから、逃げ切れない状態になってるのか。


「……え? それ、ズルくないですか!?」


 待って、待って、待って!? 私の移動速度に合わせて、キツネさんが射程圏外にならないように加速してる状態なの!?

 うー!? 出来るだけ拓けた場所を通って逃げてるけど、これはまた森の中に逃げ込んだ方がいい!? でも、そうするとキツネさんの様子を見にくくもなるし……わー!? ちょっと様子を見てみたら、もう5つ目の火の球が完成して、6つ目の火の球を作り始めてるー!?


金金金 : どんどん焦り顔になるキツネっ娘アバター。九尾の狐……かなり厄介だな?

ミツルギ : 遭遇した状況が、かなり悪いからなー。キツネでさえなければ、サクラちゃんも反撃出来るんだろうが……。

チャガ : 近接の敵なら、もう既に安全圏なんだが……。


「これ、冗談抜きでどうやれば切り抜けられますかねー!? 逃げ切るだけで、こんなに大変だとは思わなかったですよ!」


 ぐぬぬ! しつこいよ、このキツネさん! まさか、射程圏内にし続けるような移動スキルがあるとは思わなかったし!


ミナト : 振り切られそうになった瞬間、全弾ぶっ放してくるだろうねー。その攻撃さえ凌げば、もう追いかけてるのは諦めてくれると思うよ?

いなり寿司 : まぁ知恵も高いのが特徴だしな。今、執拗に狙われているのは倒せると判断してるからだろうし……。

富岳 : 逆に、何発か直撃するようであれば……一気に攻勢を強めてくるだろうな。

チャガ : サクラちゃんからの一切の反撃がないのも、執拗に狙われる一因だぞ? 格上の相手は、そういう行動パターンをすれば完全に獲物として襲ってくるからな。


「それ、厄介ですね!? あ、でも、攻撃するだけが反撃じゃないですよね!」


 ふっふっふ! よく考えたら、私にはこれがある! もう逃げるのは、ここで終わりだー! 『逃走』を止めて、ぐるっとUターン!

 うふふ、九尾のキツネさん、不思議に思わず普通に距離を詰めてきてるね! そのまま、もっと溜めながら近付いて来てください!


サツキ : サクラちゃん、何する気だろ?

ミツルギ : あー、なんとなく予想は出来たけど……。

咲夜 : その後の様子も予想出来た!


「ふふーん! これでも食らって下さい! 『咆哮』!」


 射程圏内に入ったから……って、あれー!? 尻尾の先の火の球、消えてくれない? 萎縮にもなってないし……。


ミナト : サクラちゃん、相手の知恵が高ければ……普通に弾かれるからね? 格上だと、尚更に。

真実とは何か : それが真実なのだ!


「……あっ!?」


 ぎゃー! そういえば、確定でキャンセル出来る訳じゃなかったー!? これ、完全にやらかしちゃったかも……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る