第669話 変化していく状況
兄さんが買ってきてくれた北海道の物産展のお弁当、美味しかったー! 私が食べたのは鮭とイクラの親子丼! 他にも色々あったけど……どれも美味しそうだったなー。
でも、こういうのって結構お高いと思うんだけど……兄さんのおごりっぽいけど、いいのかな? んー、駄目ならそもそも買ってこないよね!
ともかく、お昼は食べ終えたし……ちょっと予定とは違うものにはなったけど、雑炊はまた今度に作るって事で!
「よーし! それじゃ、和室の改装の続きをやっていこー!」
ふふーん! 今日はちゃんと夏休みの課題を進められたし――
「美咲、ちょっといいか?」
「ん? 兄さん、どうしたの?」
いざ、作業を始めようと思ったら兄さんがドアをノックしてきたね? 椅子はもう新しいのに変わったけど、まだ何かあったっけ?
「ほれ、今日の配信で使う団子のデータだ。配信の前に慌てて渡さなくてもいいだろ」
「あ、それもそうだね! 兄さん、ありがと!」
和室の改装が終わった後にチェックしてもらう時に、一緒にしてもらおうととか思ってたけど、兄さんにも都合はあるよね! うん、早めに渡される分については問題なーし!
「それと……あー、なんだ……。聡さんから、ちょっと問題が出てきたって話があってな?」
「……問題? え、どんな!?」
「姉さん絡みだ。姉妹なのを記事にしてるサイトが出てきたって話なんだが……」
わっ!? 待って、待って!? それ、楓さんが見せてきた記事じゃない!? あれ、聡さんも把握したの!? ……というか、問題なの!?
「兄さん、それってこれ!?」
「ん? ……あぁ、確かにこれだが……なんだ、もう把握してたのか?」
「えっと……それがキッカケで、クラスメイトに私が『サクラ』なのがバレました!」
「……おいおい、もう実害が出てるじゃねぇか!」
「大丈夫! 信用出来る相手だから!」
「相手がどうって話じゃなく、個人を特定し得る情報が出てきたって方が問題なんだが……美咲、この情報は負担にはなってないか? 昨日の夜に出た記事だが、下手すると今日の配信に変なのが押しかけてくる可能性はあるぞ?」
あ、そっか。前にも姉さん絡みで話題が出た時に、変な人が出てきて……嫌な気持ちになる事もあったっけ。それがまた起こる可能性もあるんだ?
少し前までなら、姉さんと比較されるような状況は絶対に嫌だったけど……でも、今はそうじゃないもん! 私は私! 姉さんは憧れだし、今は師匠みたいなもんだし、恥じるべきところはどこにも……あー、姉さんのシスコンっぷりだけは恥じるとこな気はする? でも、それは姉さんの問題だよね!
「兄さん、大丈夫! 今の私、1人じゃないもん!」
「……そうか、それならいい。何か問題が起これば、俺か聡さんに言え。この記事を消させるように動けば、余計厄介な事になりかねんから、大丈夫だと言うならそのままにしておくぞ」
「うん! それで大丈夫!」
不都合があるからって強引に消せば、逆に増えるって聞くもんねー。それにそもそも、別に私が姉さんの妹である事は、隠さなきゃいけないような恥じゃないもん! 隠したがっていたのは、私が目を背けてたからなんだし!
配信を見てくれてるみんなや、結月ちゃん、楓さん、兄さんや聡さん、それに姉さんだって、私がやってる事は認めてくれてるんだ! それに難癖をつけようって言うなら、真正面から向かい合うまで!
「ねぇ、兄さん。衣装の着せ替え、本格的に受け入れるって今更言っても大丈夫かな?」
「そりゃ姉さんは喜んで飛びつくと思うが……いいのか? 色んなプロの名前が出てくる事になるぞ」
「……気後れがない訳じゃないけど、姉さんの友達の人達は味方だよね?」
「まぁ少なからず、自分の利益も考えてる人はいるだろうが……少なくとも、美咲を害するつもりはないだろうな。そんな事をすれば、姉さんが黙ってないだろうし……あの人も黙ってないか」
「……あの人?」
「あー、あんまり大々的に広めるなとは言われてるんだが……姉さんの……こういう言い方でいいのか微妙なとこだが、まぁ恩人だな。かなりの大物だが、自分の名前を出されるのを好まない人だから迂闊に言うなよ?」
「っ!? そんな人、いたんだ!?」
姉さんにそんな恩人がいるって、聞いた事なかったよ!? でも、そりゃ姉さんにだって教えてくれる人って存在してるよね! ……かなりの大物って、どんな人なんだろ?
「その衣装の件、俺が聡さんに相談しておく。美咲が姉さんに頼むと、変な事になるだろうからな」
「そこは、お願いします!」
「……なんで俺がマネージャーみたいな事になってんのかが不思議だが、まぁいいか。今日の昼飯代みたいに、臨時収入にはなってるしな」
「え、今日のお昼って、私関係のから出てたの!?」
お高そうだとは思ったけど、まさかの収入源だった!? 私でも確実に下手なアルバイトよりも稼いでる状態になってるし、兄さんへの手数料も結構な額になってるの!?
「時給換算すれば、相当割りの良い内容だからな。ただまぁ、来年には今の店舗の技術スタッフじゃなくなるし、それに合わせて俺も家を出るつもりだから……俺のサポートは、そこまでの期間限定だとは考えておいてくれ」
「……うん」
そっか、来年には兄さんも就職だもんね。もう就職先は今のアルバイト先に決まってて、今年は気楽に動いてるって話だけど……来年には、兄さんはもうこの家にはいないんだ。なんか寂しい話だけど……それは仕方ないよね。
「誰か、身近に引き継げる奴がいれば良いんだが……そういえば、文化祭の方はどうだ?」
「あ、うん! 今の立ち位置のままだと面倒な事になりそうだから、明日部活に入ってくる事になった!」
「……ほう? 確かに部外者で手伝うよりは、その方が安心だろうが……なるほど、身バレしたのはそれを言ってきた相手か? 姉さんの存在に気付いて、対応策を練ってきたか」
「うん! 手伝ってる部の、副部長さん!」
「情報は足りないだろうに、良い読みをしている。間違いなく姉さんが文化祭には突撃していくだろうし、懸念し始めていた部分だが……そっちの対策は不要そうだな」
おぉ、楓さんが兄さんからかなりの高評価! というか、兄さんも心配するくらいに、危うい状態になりつつあったんだ!?
「というか、姉さんが文化祭に突撃してくるのは確定なの?」
「……むしろ、何故来ないと思える? 姉さんの性格を考えれば、絶対に何があってもスケジュールを空けて、準備万端で来るだろ」
「来ない訳がないね!?」
うん、欠片も疑問の余地はなかった! 絶対に姉さん、文化祭の時に出現してくる! ……姉さんは顔を隠してないんだから、その時に私が姉さんの妹だって明らかになるのは確定だよねー!
「あぁ、それと追加の宣伝依頼が来てるぞ」
「おぉ! 今度はなんですか!?」
「次の土曜にリニューアルオープンする、牧場のアイスだそうだ。姉さんが前に、配信中に試作の試食データを送ったそうだな? その完成版だ」
「おー! あの美味しかったやつ!」
そっか、そっか! これは進行中だって聞いてたやつだけど、牧場自体がリニューアルオープンになるんだ!?
「来週の土曜にリニューアルオープンなら、急いだ方がいいの?」
「急ぎで悪いが、金曜までのどこかでやってほしいとはなってるな。ちょっとトラブルがあって、リニューアルオープン自体がズレ込んだのもあるそうだが……」
「あ、そうなんだ?」
「本来なら、学生が夏休みに入る前に済ませたかったらしいんだが……まぁ、とりあえずこれももう渡しておく。団子は急がないそうだから、順番を変えてくれても構わんそうだ」
「うん、分かった!」
そういう事なら、急ぎの牧場の方からやった方がいいのかも? えーと、この牧場は……あ、姉さんが住んでるとこと同じ県だー! 流石にちょっと距離はあるみたいだけど……同じ商店街の宣伝が続くよりは、他の場所もしていった方がいいのかも?
「この牧場、姉さんのとこに遊びに行った時に行けるかな?」
「少し離れちゃいるが、行って行けない事もない距離だな。まぁそこは姉さんや聡さんに頼んでみろ」
「うん、そうしてみる!」
ふふーん! 折角なんだから、行けるなら実際に行ってみたいよねー! 牧場に狐さん、いるかなー? ……動物園じゃないんだし、流石に無理かな?
「話はそんなもんだ。まぁ色々と頑張れ」
「はーい! あ、兄さん! 夕方、17時頃に時間って取れる?」
「ん? まぁ長時間でなければ大丈夫だが……何かあるのか?」
「配信中の和室を改装中なんだけど、一段楽ついたとこでチェックしてもらいたくて?」
「あぁ、なるほどな。まぁその程度なら、別に構わん。姉さんから色々教わって、前みたいに無駄が多過ぎるって事が減ってればだが……」
「そこは頑張ってやってみてるから大丈夫!」
「……そうだと良いんだがな。まぁ目処が付いた時点で言ってくれ。確認はしよう」
「うん! ありがと、兄さん!」
さーて、それじゃ和室の改装をやっていこー! 色々と周囲の変化はあるけど、私もそれに合わせて頑張らないと! 配信を始める前の私とは、もう違うのですよ!
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