第666話 夏休みの課題


 曜日の勘違いといい、課題のやり方といい、夏休みに入って早々にやらかし過ぎだー!? でも、早めに気付けてよかった!


「さて、櫻井さんもなんとか落ち着いたみたいだし、どの教科からやるかい?」

「楓にお任せで! 美咲ちゃん、それでいいよね?」

「うん! どれでも面倒なのは変わらないし!」

「……まぁ面倒なのは、私も同感ではあるけどね。櫻井さんがどうなのかは知らないけど、結月は放っておくと苦手なのは特に放置するし、数学からやっていこうか」

「いきなり、一番苦手なとこ!?」

「私に任せたのは結月だからね。拒否権はないよ」

「うぅ、頑張ります……」

「結月ちゃん、頑張ってやっていこー!」

「……うん」


 私も決して得意じゃないけども、それでも立花さんが教えてくれるんだから、出来るだけ頑張っていくのさー! 自分一人でやるんじゃないって思えば、いつもより進むはず!



 ◇ ◇ ◇



 一緒に課題をやっていれば、一人でやるより捗ると思ってたけど、それはどうも幻想でしかなかったみたいだね……。


「だから、そこはこっちの公式を使う! テストの復習の授業もあったのに、なんでまだ間違ってる!?」

「だから、数学は苦手なんだってば! 分かるようになってたら、苦手とは言わないよ!?」

「数学に限った話じゃないでしょうが!」


 私も分からないところがあれば立花さんに聞いたりはしてるけど、結構な頻度で結月ちゃんと立花さんがこんな感じの言い合いになっちゃってる……。

 時々、取っ組み合いみたいな状態にもなってたし、2人は現実で同じ部屋にいるのかも? 距離的に仕方ないんだろうけど、なんだかちょっと疎外感……。


 むぅ……フルダイブの時間の節約って事でこういう形になったけど、これならVR空間で一緒の場所にいる方が気楽な気がする! でも、夏休みの課題をする為だけに高頻度で使うのも微妙なんだよね……。制限に引っかかったら面倒だし、作業時間が削られるのも困るもん!


「うー! 楓、少し休憩しない? もう集中力が無理ー!」

「……はぁ、まぁいつもに比べると進んだ方だし、少しだけだよ。櫻井さん、ごめんね。なんか放ったらかしが多くて……」

「ううん、それは大丈夫だけど……いつも、こんな感じなの?」

「まぁそうなるね。結月とは幼馴染だし……ほら、私のおばあちゃん家が結月んとこの店の隣なのは知ってるだろう? 今は新築の家の引っ越して少し離れたけど、一昨年まではあそこに住んでたからね」

「あ、そうなんだ!?」


 立花さんは電車でよく見かけるから家は離れてるのかと思ったけど、元々はあそこに住んでて、結月ちゃんとは幼馴染だったんだね!? なんか距離感が近い気はしてたけど、そういう事なんだ!


「まぁ私と結月の関係性はそんなもんだけど、私としちゃ、櫻井さんが結月とどういう流れで仲良くなったのかが気になるんだけどね?」

「あー、それは……その……?」

「花苗さんの友達繋がりってのまでは、まぁ予想が出来ているんだけど……そこより先は、この調子だからね。櫻井さん、その辺の事情はどうなんだい?」

「えっと……」


 これ、どう説明したらいいの!? 結月ちゃんもその辺は答えかねてるみたいだし、説明するとしたら私がやらないと駄目だよね!? 結月ちゃん、下手に私の事情を言わないようにしてくれてるんだろうし……。

 確か花苗さんって、結月ちゃんのお姉さんで、私の姉さんの友達だったはず? うー、そりゃ隣の家に住んでた立花さんが知ってる相手なのは当然だよねー!?


「これは私の勝手な推測なんだけど……櫻井のお姉さんが花苗さんの友達なのはほぼ確定。それに、櫻井さんのお姉さんがプロのデザイナーって話も出てたし、結月は櫻井さんのファンだとも言ってたしさ? 櫻井さんのお姉さん、『立花サナ』だね?」

「「っ!?」」


 わー!? 立花さんに、完全にバレちゃってる!? むぅ……色々なとこを見せちゃったし、そう結びつけられるだけの情報が揃っちゃってた!?

 でも、もういっかな。前は嫌だったけど、色々と心境が変わった今なら、少しずつでも隠していくのを止めるのもありだよね。


「まぁ言いたくないのなら、これ以上は変に追及は――」

「ううん、大丈夫。正解だよ。『立花サナ』は、私の自慢の姉さん!」

「え、美咲ちゃん、言っちゃっていいの!?」

「もう、姉さんと比べられるのは気にしないって決めたから! だから、大丈夫!」

「……そっか」


 今はまだ大々的に『サクラ』の方で公表する気にはなれないけど、身近にいる人……それも私を気遣ってくれている人に隠すのはなしでいくのです! 


「なるほど、なるほど。やっぱりそういう事かい。そりゃ結月が大ファンの『立花サナ』の妹ともなれば、思いっきり食いつく――」

「楓! 私、美咲ちゃんとは葵さんの妹だからって理由で仲良くしてるつもりはないよ!? 今のは撤回して!」

「ちょ!? 結月、待った!? 今のはそういうつもりじゃ――」

「待たない! 今のは、絶対に撤回して! それ、美咲ちゃんが一番気にしてるとこなのに、それだけは楓でも許さない!」

「えっ!? えぇっ!?」


 わー!? 待って、待って、待って!? なんで立花さんと結月ちゃんが喧嘩になっちゃってるの!? これ、なんとか止めないと……でも、どうやって!?


「結月、待ちなって!」

「うー! 楓、離して! それで、撤回して!」


 あ、結月ちゃんが立花さんに完全に押さえ込まれてる!? わー!? 私が理由で、2人に喧嘩とかしてほしくないのに、どうやって止めればいいの!?


「撤回も何も、そういうつもりじゃないってのは分かってるから。こんなに過剰反応するとは思ってなかったんだけど……ここまで突っ込み気もなかったんだけど、これは言わないと納得しそうにないね」

「何が!?」

「櫻井さん、ゲームの配信をやってるよね? 名前は『サクラ』? 結月は、そのファンだよね?」

「えっ?」

「楓っ!?」


 ぎゃー!? なんか身バレしちゃってるー!? え、待って!? 姉さんの事はまだしも、なんでそっちまでバレちゃってるの!?


「……突っ込み過ぎなのは重々承知なんだけど、一昨日のプロの姉がいるって発言が気になったから、色々と調べてみたのさ。そしたら、『立花サナ』の妹疑惑のある配信者なんて記事が出てきてね? えーと……ほら、これ。……結月、離すけど、もう暴れるんじゃないよ?」

「……あ、うん」

「こんなの、あったんだ」


 立花さんが送ってきたWebサイトを開いてみれば……思いっきり、私の『サクラ』が『立花サナ』の妹疑惑として見出しになってた。……まさか、こんな記事があったなんて!?

 これ、どこかの掲示板の書き込みをまとめた記事だよね? えーと、ちょっと内容を見てみて……。


「……美咲ちゃん、これって大丈夫なの?」

「……分かんない」


 これはあくまで疑惑で、確定情報としてはなってないみたい? というか、姉さんが原因で色々な疑惑の発端になってるじゃん!?


「……あれ? 美咲ちゃん、これって『サクラ』よりも『立花サナ』のシスコン疑惑や、実は私生活はポンコツじゃないかって疑惑の方が大きく話題になってない?」

「……そうかも?」


 なんだか、『サクラ』の私よりも『立花サナ』のイメージがこれまでと違うって方向に話題が行ってるような?


「あっ!? デザイン関係のプロの溜まり場にもなってるって書かれてる!? 下手に余計な事をしたら、痛い目を見るって……私の配信のコメント欄、そういう認識なの!?」

「……あはは、まぁ盛大に敵に回しそうかも?」


 ぐぬぬ! 確かに有名どころの人の名前は色々見てるし、聡さんが姉さんの実務以外の全てをやってるみたいに、あちこちのトラブル解決の専門家も付いてそうだけど! ……うん、知らない間にかなり気に入られているみたいだし、私の配信で暴れようもんなら、冗談抜きで何が起きても不思議じゃないかも?


「その反応を見る限り、櫻井さんがその『サクラ』で合ってそうだね」

「うっ!? ……そうなります」


 ここから誤魔化すの、どう考えても無理だからー! というか、私のやらかしというよりは、姉さんのやらかしの影響だよね、これ!? ……有名どころが揃ってるからこそ、逆に下手な手出しが出来なくなってるっぽいけど!


「まぁ言いふらしたりはしないから、そこは心配しないでくれるかい?」

「あ、うん。そこはお願いします!」


 これ以上、リアルで身バレはしたくないのですよ! 色々と距離が近かったからこそ気付かれた感じだけど……文化祭の手伝いの件もあるし、事情を知ってくれている人が身近に増えるのは心強くもあるもん!


「どちらかというと、私としちゃ……櫻井さんが文化祭の手伝いをしてるって方が心配でね。これだけの事をしてる櫻井さんに、どっちの部員でもないのに、無償で手伝ってもらうなんてのはまずくないかい? ……結月、そこら辺を考えて頼んでる?」

「……え? あ、考えてなかったかも……」

「……やっぱりか。コンピュータ部の連中は大喜びしてたけど……さて、どうしたもんだろうね」


 え、待って。私が文化祭の手伝いをするのって、何かまずかったの!? 私、もうやる気満々なんだけど!?

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