第574話 今日、出来た事


 えーと、ここをこうして……んー、思ったより上手く炎の質感が出来ないなー? それっぽい火の球にはなってるけど……あっ!? これ、まだ仮の段階なんだし、思いっきり作り込まなくてもいいやつなのでは!?

 というか、姉さんに手を抜く事も覚えるように言われたのに、集中し過ぎて、やり過ぎてる気がする!? 杖は程々な仕上がりで終わらせたのに、火の玉が思ったようにいってないと――


「美咲ちゃん、そろそろ16時だけど一旦出てこれる?」

「えっ!? わっ!? もうそんなに経ってたの!?」


 ぎゃー!? 作業を始めた頃はまだ13時台だったはずなのに、思いっきり没頭してたー!? 家まで距離があるんだし、どんなに遅くても16時半くらいには学校を出ないと配信時間に間に合わなくなっちゃう!?


「えっと、えっと!? 外に声を繋ぐのは……あ、繋ぎっぱなしになってる!?」


 これじゃ作業中の私の声がダダ漏れ……って、これ、多分学校のヤツだからだー!? ぐぬぬ、ちょっとこれは油断してた! まぁいいや!

 とりあえず作った杖と火の球を……私の携帯端末に保存出来るよね? えーと、ここをこうして……こうかな? うん、多分出来たはず! それじゃフルダイブは終了で!


「結月ちゃん、声をかけてくれてありがと! これ以上は時間が危なかった!」

「あはは、やっぱり時間を忘れちゃってたんだね。時間は何時まで大丈夫?」

「えーと……あと10分くらい?」


 高校から歩いて、次の電車に乗る為には……うん、多分そのくらい! それ以上遅くなると……電車1本ならギリギリ間に合うくらいだろうけど、大慌てで帰らないとならなくなる!


「おや? あんまり時間に余裕がないのかい? その辺、先に確認しとくべきだったね」

「私もこれは言っておくべきだったし、大丈夫だよ、立花さん!」

「そうかい? まぁそう言ってくれるとありがたいけどね」


 妙に顔が火照ってたのは、作業を始めてからすっかり落ち着いてたし、その辺の説明をせずに完全に作業に没頭してた私も悪いもんね。

 結月ちゃんが配信の事情を把握してて、声をかけてくれたのは本当に助かったよー!


「えっと、それじゃ私はそろそろ帰るけど……作った分、とりあえず渡しとくね! あ、誰に渡せば?」

「美咲ちゃん、私が預かって――」

「あー、この後、そのまま動かしてみたいから、直接貰ってもいいか?」

「あ、うん! 佐渡くんに渡せばいいんだね!」


 いつも兄さんにやってるように、佐渡くんが操作出来るように――


「って、ちょっと待った!? 管理者権限で、操作権を全部ぶん投げてくんの!? データ送るだけでいいのに!?」

「……あれ? 何かまずかった?」

「まずいも何も、1番やったらいけない手段……あー、機械音痴ってそういう事か。これ、普段は身内の誰かにこういう風にやってる感じ?」

「あ、うん。兄さんが詳しいから、よく任せるけど……」

「よし。そのお兄さん以外に、この操作は絶対にするなよ? 変なデータを入れられたり、大事なデータを消されても何も言えない行為だからな!」

「う、うん。……分かった」


 わー!? なんか凄い剣幕で怒られてるんだけどー!? ……うぅ、兄さんにやってもらってた作業って、そんな危険性がある手段だったんだ!? 兄さん相手だから、何も問題なかったって事なのかな?


「あー、そこまで萎縮しないでくれ。別に怒ってる訳じゃないからな? ただ、そのままのやり方は危ないってだけでな?」

「……うん、それは分かったけど……データを渡すのは具体的にどうやればいいの?」

「……時間があんまりないなら、ざっくり済ませる方がいいか。初めにデータをみんなで見れるように共有はしてたろ? あっちから俺の方でデータを落とすから、そこで許可を出してくれればいい」

「あ、それでいいんだ?」


 えーと、作った杖と火の球を私の視界の中に表示! それをみんなが見れるように共有っと! うん、多分これで見れるはず? これって見れるようになるだけで、データを渡すって事は出来るものなんだ?


「……黙々と作ってたのが、これか!」

「わぁ! すっごいね、これ!」

「杖だよ!? 映画とかで魔法使いが使う、ちゃんとした杖!」

「持ってる割り箸の見た目が、これに置き換わるんだ!?」

「火の球まで出来てるし!? もう杖と魔法、これで完成じゃね!?」

「早く実際に動かしてみてぇな!?」


 なんかイチャついて話し込んでる部長2人以外は、凄い食いついてくるね!? 私としてはまだ雑な仮の状態だから、これで完成のつもりはないんだけど……とりあえずこれでいいのかな?


「あ、『データの保存の許可をしますか』って出たよ……?」

「それ、承諾してくれ。そしたら、俺の方に保存が出来るからな」

「あ、うん!」


 へぇ、こんな形で保存する事って出来たんだ! これで『はい』を選択すれば、佐渡くんにデータを渡せるんだね! 2つ、保存の確認が出てるから、両方とも許可で!


「……おし、これで保存完了だ」

「佐渡、さっさと共有フォルダにデータを突っ込め! とりあえず、すぐに表示出来るまでのプログラムを組むぞ」

「そう慌てんなって! 編集用のデータだから、そのままじゃ重くて使いにくいっての! 別形式に保存し直すから、それくらい待て!」


 んー、言ってる事はいまいち分からないけど……まぁその辺は任せても大丈夫そうだよね。私より、確実に知識はありそうだし! どちらかと言うと、私の知識が無さ過ぎるだけな気もするけど……こうやって手伝うなら、ちょっとはやり方を覚えないとかなー?


「そういえば話し合いはどうなったの?」

「美咲ちゃん、時間! それは言いたいけど、聞いてたら遅れちゃうよ!?」

「あ、そうだった!? わー!? もう帰らなきゃ!?」


 データを渡すのに手間取って、もう時間の余裕が皆無だー!? 確かに今から話を聞いてる余裕なんてないよ!?

 今日の配信は宣伝もやるんだから、いつもの時間を遅らせる訳にはいかないのです! という事で、今日はこれで帰ろー!


「あ、次はどうしたらいいのかな?」

「その辺の都合は、まだ決まってないね。結月から連絡してもらうから、都合が付けば来てもらう感じでいいかい?」

「帰る時間はいつもこれくらいになると思うけど、それ以外は大丈夫!」

「あいよ。それじゃその辺も考慮して作業時間を決めていくとして……結月、後で整理した情報を送ってくれるかい?」

「もちろん! 美咲ちゃん、後でメッセージで送るからねー!」

「うん、分かった! それじゃ私は帰るね! 慌ただしくなってごめん!」

「手伝ってもらってるんだし、そこは大丈夫! それじゃまたね!」

「またねー!」


 という事で、本日のお手伝いは終了! 駅まで急げー! まぁ電車にさえ乗ってしまえば、結構な時間が暇なんだけど……乗れるかどうかが最重要なのですよ!



 ◇ ◇ ◇



 急いで駅まで歩いて、到着すると同時にやってきた電車に乗り込む! うー、暑かった上に結構急いで歩いたから、汗がボタボタ落ちてくる! 汗をタオルで拭って……あー、冷房が効いてて涼しい!


「なんとか、ギリギリ間に合ったー!」


 今日の電車は、いつもより人が少ないね? あ、そっか。もう夏休みになったんだし、いつもの時間帯で学生が少ないのは当然だったよ!


「もう、夏休みかー」


 ようやくやってきた待望の夏休み! でも、今年は思ってたのと違う感じになりそうな気がするね?


 文化祭を手伝うって決めたんだし、そこは頑張っていこー! まさか初日に泣いちゃうとは思わなかったけど……。


「……佐渡くんか」


 むぅ……涼しいかと思ったら、まだなんかちょっと暑いねー。今日の電車の冷房、ちょっと効きが悪いんじゃないですかねー!


「次、いつになるんだろ?」


 多分、私が帰る時間の事をまともに伝えてなかったから、まだ次の日程を決める段階まで話が進まなかったのかな? まぁ結月ちゃんから連絡してくれるみたいだし、それを待てばいいよね!


「……帰るまでに、髪飾りでも作ろうかな?」


 大掛かりなものじゃなくて、頭の前の方に付ける髪飾りくらいならいけるよね? それこそ、飾り部分は昨日のかんざしのを流用してもいいし! ……昨日は配信画面に思ったよりも反映されてなかったのが、ちょっと残念だったもんね。うん、そうしよー!

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