第573話 制作環境


 お昼ご飯を食べ終えたので、コンピュータ部の部室のコンピュータ室へ移動して、色々と作業開始! 部屋にあるVR機器を使ってもいいとは言われたけど、環境が違うと上手く扱える気がしなーい!

 そもそも、授業でもVR機器ってあんまり使わないんだよねー。全く使わない訳じゃないけど、座って使うから家で寝っ転がって使う時となんか違うもん! 外の音声、聞こえっぱなしだし!


「あ、そういやこれと同じものって、ここで使えるかな? 普段使ってるやつなんだけど……」

「ん? どれどれ……って、これ、プロ仕様のデザインソフトじゃん!? しかも最新バージョンって、なんでこんなの持ってんの!?」

「え、えーと……?」


 わー!? コンピュータ部の人に聞いてみたら、なんかすごいびっくりしたような反応が返ってきた!? そういえばこれ、プロ仕様って話だったよ!?


「美咲ちゃん、お姉さんの事、言っちゃってもいい?」

「えっ!? 結月ちゃん!?」


 近付いて小声で言ってきたけど、その内容は!? 今ここで姉さんの事を話しをするのは……ううん、それでいいのかも!

 『立花サナ』の名義だけ伏せておいてくれれば、私の姉さんがプロだって事も、今は師匠みたいな状態になってる事も、全然恥じる事じゃないもん! 中学生のあの頃とはもう違うんだもん! そうしていかなきゃ、前には進めない!


「結月ちゃん、そこは自分で言うよ!」

「え、私から説明するのでもいいけど……いいの?」

「うん、大丈夫! ありがと、結月ちゃん!」

「そっか、それじゃ頑張って!」


 これは結月ちゃんなりの、私への後押し! もう少しでも前に進むとは決めたんだから、自分からちゃんと踏み出していかないと!


「……俺、なんかマズい事を聞いた?」


 わわっ!? 私が困惑しちゃってたら、聞いたコンピュータ部の人まで困惑しちゃってる!? なんか申し訳なさそうにみんなから見られてるし、これは早く説明しないと!?

 うぅ!? なんか変な汗が出てきて、少し手が震えて、中学時代の嫌な記憶が頭に浮かぶけど……それじゃ駄目! 


「えっと……私の姉さんが、この手のプロなんだ! 今は私の師匠!」


 出来るだけ、普段通りに喋ったつもりだけど……ちゃんと言えたかな? 声、震えたりしてなかった?


「え、姉がプロ!? マジで!? そりゃ上手い訳だ」

「うっわ、すっげぇ!? しかも師匠!? だからあれだけ上手いのか!」

「なるほど、それは納得。それならプロ仕様のソフトを持ってても当然だよなー」


 うん、まぁそういう反応にはなるよね。姉さんが師匠になってるのは間違いないけど……でも、やっぱり納得する理由にされ――


「おいおい! お前ら、待て! 櫻井さんの姉がプロなのかもしれないけど、技術は櫻井さん自身のものだろ! 師匠だろうがなんだろうが、本人の成果を他の人のものにすり替えんな! 今も、もの凄く言いにくそうにしてたじゃねぇか!」

「あ、確かにそれはそうだな。櫻井さん、今のは悪かった!」

「……よく考えたら、声が震えてたもんな。マジですまん!」

「すみませんでした! 気分を害されても、今のは何も言えねぇ……!」


 ……あれ? 今のを聞いたら、なんか力が抜けて、涙が出てきた……。なんで? どうして、急にそんな……今のは嫌な気分になった訳じゃないのに、急になんで?


「美咲ちゃん、大丈夫!?」

「見せ物じゃないから、男どもはちょっと散ってな! ほれ、急ぎな!」


 なんでかな……? なんだか、すごくホッとしたのに……涙が止まってくれないよ……。こんな場所で、こんな風に泣くつもりなんてなかったのに、全然止まってくれそうにないや……。



 ◇ ◇ ◇



 少し経てば落ち着いたけど、思いっきり醜態を晒した気がする!? わー!? もう恥ずかしくて走り出してどっかに消えちゃいたいんだけどー!?

 うぅ……この年になって、こんな風に人前で泣くなんて!? ぎゃー! 穴があったら入りたいー!?


「……美咲ちゃん、落ち着いた?」

「……うん。でも、正直、もの凄く……恥ずかしい」

「……あはは」


 結月ちゃんでも、そこは苦笑いしちゃうよねー! 私だって、客観的に考えたらそれ以外の反応は思いつかないもん!

 でも……泣いちゃったのは恥ずかしいけど、泣いた事でなんだか凄くスッキリした気分。……姉さんの事は恥じゃないけど、それでも引き合いに出されず、私自身の力だって言ってくれたのは……なんかすごく嬉しいよね。『サクラ』を通してじゃなく、私自身に直接っていうのもあったのかも?


「なんというか……取り乱してごめなさい!」


 恥ずかしいけど、今、私が言うべき事はこれ! ……どのくらいの時間が経ったかは分かんないけど、それでも変に中断させちゃったのは間違いないもん!


「こいつらが悪かったんだし、気にすんな! ……てか、大丈夫か?」

「うん、もう大丈夫!」


 この人が、さっき言ってくれた人だよね? えーと、お昼を食べながら自己紹介はしてたけど……確か名前は佐渡くんだっけ? うん、確かそうだったはず! ……ちょっと自信ないけど!


「美咲ちゃん、ちょっと顔が赤いけど……本当に大丈夫? そこまで急ぐ訳でもないし、今日はここでお開きにしても大丈夫だよ?」

「わっ!? え、顔が赤くなっちゃってるの!?」


 わー!? ちょっと泣き過ぎて、変な風になっちゃってるのかも!?  とりあえずある程度は落ち着きはしたけど、それでも普段通りって感じでもないし……ううん、でもここで放り出しては帰れない!


「……こりゃ、クリーンヒットでも入ったかね?」

「……え? 立花さん?」

「いや、今のは気にしなくていいさ。あー、まぁ今のでそのまま帰るのも、それはそれでバツが悪いんだろうし……今日出来る事を最低限やったら、それで解散ってのでいいかい?」

「あ、うん。それなら……いけそうかな?」


 別に急な体調不良になった訳じゃないし、多分作業をしてる間にちゃんと落ち着くはず! ……まぁ元々、具体的に何時までって決めてた訳じゃないもんね。


「おーっす、戻ったぞー」

「校内をどれだけ使えるかは、まだ明確には言えないってさー。ちゃんと企画を出せって……あれ? 何かあった?」

「いやいや、なんでもねぇよ! おっし! とりあえず、戻ってきた部長達も含めて企画を詰めていくとして……櫻井さんに設備を説明しとかないとな! 奥の業務用のVR機器になら、そのソフトは入ってたはずだ」

「あ、そうなんだ! ちょっとだけ、触らせてもらってもいい?」

「おう、問題ないぜ!」

「おし、設備案内は佐渡に任せて、俺らは詳細を詰めていくか」

「「「おう!」」」


 授業中にチラッと見た事はあるけど、実際に学校にある業務用の寝っ転がれる大きなやつを触るのは初めてかも! まぁ姉さんが持ってるから、少しだけ触らせてもらった事はあるけど! これ、寝心地いいんだよねー!


「……さっきは悪かったな。あいつら、悪気があった訳じゃないんだが……あの感じだと、姉と比べられるのって嫌だったんだろ?」

「……あはは。うん、まぁそれで色々前にあってね。でも、佐渡くん、ありがとね」

「ん? なんでお礼?」

「あんな風に言ってもらえるとは思ってなかったから! だから、ありがと!」

「……どういたしまして」


 思い切ってお礼を言ってみたけど、もの凄く恥ずかしいよ!? なんかすごく顔が熱いし……うー、なんだか急に気が抜け過ぎて、本当に体調が微妙に悪くなってる?


「あー、それで水瀬さんから、櫻井さんは機械が苦手って聞いてるんだけど……使い方は分かる?」

「えーと……多分? 初めてやる作業はサッパリだけど、このデカいのは姉さんの仕事場で少しだけど触った事があるし……やっぱり、自信ないかも?」

「櫻井さんのお姉さん、業務用の持ってんの!? あー、プロだからガチで必要なのか。すっげぇなー」

「うん! 私の姉さん、凄いの!」

「ははっ! 比べられるのが嫌なだけで、お姉さんが嫌いな訳じゃないんだな?」

「それは……うん、そうだね!」


 色々と過剰な事をしてきたりはするけども、それでも自慢の姉だもん! 嫌いになんてなれないよね!


「おっし、起動は完了。これ、学生証が個人認証になってるから、そっちの端末に通してくれりゃ使えるぞ。フルダイブの時間制限は別カウントにもなるしな。あとは、基本性能が段違いなだけで使用感は同じだから、普段のと同じ感覚でいけるはずだ。ちょっと試してみてくれ」

「うん、分かった!」


 それじゃ、ちょっとお試しを兼ねて、杖と放つ魔法くらいは作ってみよう! 今の暑さは恥ずかしさが原因な気もするし、多分、作り始めれば集中は出来るもんね! それでも体調がおかしいようなら、無理せず帰らせてもらおうっと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る