第570話 お昼を食べながら


 騒がしながらも、なんか楽しい雰囲気でのお昼ご飯の真っ最中! まさか学校でたこ焼きを焼く事になるとは思わなかったけど!


「あ、そうだ! 結月ちゃん、文化祭用に作ってるやつって、もう見れたりはするの?」

「えーと、まだ実際にゲームとしては遊べないけど、見せかけだけなら出来てるよ。データは貰ってるから、ちょっとここで展開してみよっか?」

「うん、お願い!」


 実際にどういうものを作ってるのかが分からないと、私が何をしたらいいのか分かんないもん! 確かARでのミニゲームって言ってたし、携帯端末に表示される感じかな? あ、何か出てきた!


「……これって、野球のボール? それに、空中に浮いてる的? これって、投げて当てる感じなの?」

「うん、的当てゲームだってさ。自分でボールを投げるのか、銃で射的にするかで話し合いの最中だよー!」

「おー、そんな感じなんだ!」


 でも、正直……見た目はショボいねー。うん、実際にあるボールと、人型の薄い板に得点用のラインを引いてるだけの簡単なやつ! これ、どこでどういう風に設置するんだろ?

 ARなんだから、どこかの教室でやるんじゃなくて、校舎内のあちこちに設置するのかな? 教室だけでやるなら、実際のボールでいい気がする!


「櫻井さん、ボールはまぁまだどういう形にするか自体が決まってないからいいとして……その的、どうにか出来ないかい? これじゃ、正直言って、普通に教室でリアルな的当てをやるのと大差ないからさ」

「んー、的自体はすぐに作れると思うけど……ゲームの内容次第かなー? そもそも、この的って動くの?」


 今はまだ何も出来てないみたいだから、動きはしないっぽいけど……それによって色々と変わってきそう?


「あー、それを見せなきゃ話も進まないか。バカップルの片割れ、見た目は反映させてない状態の仮で作ってるのあったでしょ。あれ、出して」

「はいはい。ちょっと待ってねー」


 立花さんは部長さんを名前で呼んでないけど、呼ばれ方ってそれでいいんだ!? むぅ……バカップルとは聞いてたけど、これは想像以上な気がする!

 あ、コンピュータ部の人が今いないのは、その辺が理由だったりする!? ……うん、そんな気がしてきた。周囲の目も気にせず、思いっきりイチャつきそうだし!


「はい、これねー! まだ動き自体が仮だから、当たり判定はないし、簡単な動きだけだけど!」

「おぉ! 動いてる的と止まってる的があるね! あ、色が違うのは何か意味があるの?」


 真っ白から灰色、薄めの黒に、真っ黒って感じで何パターンか板が浮いてる! んー、白は止まってて、黒に近いほど動きが速い?


「色が濃いほど、当てにくいように動かすようになってるねー! ただ、動かし過ぎるとボールじゃ当てられない可能性が……!」

「……あはは」


 うん、確かに動き過ぎたら、投げても当てられる気がしなーい! ARなら動作自体はリアルの動きに合わせるんだろうし……そもそも、教室の外でやるなら、腕を振りかぶるのは邪魔になるよね?


「これ、射的の方がいい気がする?」

「あ、櫻井さんもそう思う!? 見た目が地味になるし、下手に動き回ったら邪魔だから、教室の一室でリアルでも出来そうな的当てが第一候補になってたんだけど、手を貸してもらえたらその辺はクリア出来そうなんだよね! 銃はこれでもいいんじゃないかってアイデアは出てたし!」

「あ、指鉄砲!」


 部長さんが人差し指を伸ばして、親指を立てて、それ以外の指は握って……うん、確かにそれならそんなに邪魔にはならなさそうな気がする! でも、それだけじゃ味気ないし……。


「んー、ちょっとだけ時間をもらっていい?」

「美咲ちゃん、どうするの?」

「指鉄砲を、それっぽくしてみる!」

「おぉ!」

「え、そんな事が出来るの!?」

「……へぇ?」

「とりあえず簡単なデザインだけだけどね!」


 ふふーん! 的については、的というよりはモンスター的な敵を作って動かしちゃったらいい気もするし、校内でモンスター狩りみたいなのも面白いんじゃないかなー?

 それに合わせた武器みたいなのを……折角だから、銃という概念は置いていっちゃえー! とりあえずデザイン用のアプリを起動して、サラッと手を描いて……どういうのでいこうかなー? 食べながらってのは少し行儀も悪いけど、今日くらいはこれでもいいよね!


「手のひらから何か出すのと、指先から何か出すのと、杖みたいなのを出して魔法みたいにするの、どれがいい?」

「え、待って!? その辺からもうサクッといけちゃうの!?」

「美咲ちゃん、ナイス! 私としては、杖みたいなのがいいかも!」

「結月、その辺はちょっと待ちな。春日、予定よりちょっと早いけど、彼氏も含めてコンピュータ部を連れてきな」

「その方が良さそうかも! ちょっと呼んでくるね!」


 あ、部長さんが慌てて家庭科室を飛び出していっちゃった。んー、そっか。ゲーム性そのものに関わる部分だから、実際に作る人の意見はあった方がいいのかも?

 あ、開けっぱなしになってたドアを無言で立花さんが閉めたけど……なんか不機嫌な様子だー!? うん、まぁ冷房を入れてるのに、ドアを開けっぱなしは良くないね!


「美咲ちゃん! 指から何か出す場合って、どんな感じに!?」

「えーと、何を出すかにもよるかな?」


 手から蜘蛛の糸を出して戦うヒーローなんてのもいるし、エネルギー弾みたいなのを出すのもいるし、その辺はアイデア次第だよね! でも、折角のARなんだったら……こういうのもいいかも?


「思いっきりラフだけど、パッと思いついたのはこんな感じかな? あ、共有、共有!」


 危ない、危ない! 私以外に見えてない状態でササっと描いたを見せても伝わらないよ!


「わー!? メカニックな手になってる!?」

「……へぇ? 杖から魔法も面白いけど、機械の手にするのもいいかもね」

「描くの、早い!」

「絵、上手いよ!?」

「すっご!?」


 うふふ、なんか褒められてて気分がいいですねー! まぁもの凄く簡単に描いてやつだけど、雰囲気が伝わればいいのですよ! 

 まぁ実際の人の手の質感を描かずに、角張った鉄の部品で出来てるように描いてみただけだけど! ちょっと指先だけは変形して、銃口みたいなのが出て、エネルギー弾を溜めてるみたいな感じにはした!


「もしこの方向で行くなら、的はこんな感じかなー?」


 機械をイメージして……その辺にウロウロ動いていてもおかしくなさそうなのは、これだー! ざっくりと簡単にだけど、機械で出来た猫!


「おー! 機械の猫ちゃんだ!」

「……なるほど、これが的ね。でも、動物モチーフはやめた方がいいんじゃないかい?」

「え、何かまずかった……?」


 ここで立花さんからのダメ出しがきたよ!? え、流石に手抜きで描き過ぎた!?


「猫はペットで飼ってる人も多いからね。機械とはいえ、撃つ対象としては戸惑う人も多いと思うんだよ」

「……あ、確かに!」


 それ、私がモンエボでキツネさんへの攻撃を躊躇う理由と同じだー! 機械になってるからって、気分がいいものじゃないのは間違いないよ!?


「たっだいまー! コンピュータ部の人達、連れてきたよー!」

「そんなに俺の事を待ちわびてたとは思わなかったぞ」

「うふふ、それも間違いじゃないんだけど――」

「バカ言ってないで、サッサと入んな!」

「痛っ!? 楓、なんで殴るの!?」

「バカップルは放っておいていいから、さっさと入る!」

「「「「「は、はい!」」」」」


 なんか部長さんが戻ってきて早々にバカップルっぷりを披露してるけど、そこには触れない方がいい気がする! コンピュータ部の人達は、立花さんの号令でササっと入ってきたね。


「……なんでたこ焼き?」

「てか、食ってた最中?」

「俺ら、これから食堂に行こうとしてたとこなんだけど……なんで予定が早まった?」

「これは、女子の手作り料理が食べられるチャンスか!?」

「……何があった? あ、この人が例の人……って、櫻井さん!?」


 なんというか、料理部が全員女子で、コンピュータ部が全員男子って状態になっちゃった!? なんだか私の事を知ってる人がいるみたいだけど……誰だろ? うん、全く覚えがないや!


「まぁ急な予定変更だったし、材料は多めに用意してたから昼はこっちで提供しようじゃないか」

「おっし! 女子の手料理が食える!」


 思いっきり食いついてる人もいるけど……まぁいっか。お昼を食べに行くのを中断させちゃってたみたいだしねー。でも、材料が多めにって言っても……流石に足りなくない?

 あ、奥の棚から小麦粉が大量に出てきたー!? わわっ!? 冷蔵庫から卵も出てきたし……他の素材はそんなにないけど、一応形にはなりそうかも?


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