第568話 実況外の探検録 Part.29


【6】


「『放水』『放水』『放水』!」


 次々と岩壁にあるクリスタルを破壊していくサクラ。破壊されたクリスタルは欠片となって、崖下の湖へと音を立てて落ちていく。


「あ、今、キラッと光ったのがこの先に落ちた気がします!」


 もはや何ヶ所目の破壊なのかすら数えられていないが、ここにきて湖へは落ちずに、通路へと落ちた宝石が出たようだ。まぁ道幅が狭いので、通路の上に残るのは割と珍しくはある。


「ふふーん! 私の宝石はどこですかねー?」


 今回の実況外のプレイでは、非常にご機嫌なサクラである。狭い通路を慎重に進むべきではあるけども、それ以外には特に危険性もなく、破壊に専念出来るという状況なのも関係しているのかも――


「わっ!? あ、危ないですね!?」


 ……そうして浮かれて少し速度を上げていれば、脚を踏み外しかけたサクラであった。相変わらず、目の前の光景のみに意識を取られがちである。宝石の正確な位置を探ろうとして、足元が不注意になるから落ちかけるのだ。


「……結構上まできたんですし、落ちないように注意しないとですね! それに、宝石の確保も大事です!」


 未だクリスタルの破壊では1個も宝石系アイテムの入手は出来ていないが、登った範囲としては大体7割程度といったところ。

 最終的には湖の底を探って行く必要があるのだから、1番上まで行く必要もないのだが……サクラはどう考えているのだろうか? 何も考えていない可能性が1番高そうだが……。


「あ、宝石発見です! えーと、無色ですし、これはダイヤモンドですかねー? とりあえず採集しちゃいましょう!」


 流石に落ちかけた事で足元に注意しつつ進み、ようやく実況外のプレイでの宝石系アイテムの1個目の入手となった。まぁまだ宝石として手に入っているかは分からないが、果たしてどうなるか?


「おぉ、やりました! 普通にダイヤモンドが手に入りました!」


 他のアイテムに変わる事なく、無事に宝石のままで入手が出来たようである。満面の笑みを浮かべ、狐っ娘アバターは雄弁にサクラの気持ちを表現していく。


「さーて、この調子で1番上まで進んでいきましょう! でも、どんどん暗くなってるんですよねー」


 そりゃ、光源を次から次へと破壊しているんだから、当然過ぎる結果だけどもね!? まぁ容易には通路から届かない位置にもクリスタルがあるので、そう簡単には完全に光源がなくなることはないけども……。



【7】


 それからもサクラは通路から簡単に届く範囲のクリスタルの破壊を続けていき……。


「ふっふっふ! 上まで到着です!」


 今、洞窟の崖の上まで辿り着いた状態である。達成感に満ちた表情の狐っ娘アバターと、崖下を見下ろしていくライオン。


「……こうして上がってくると、随分と高い位置から落ちたんですねー! これ、10メートルくらいあります?」


 10メートルで、大体建物の3階ほど。ここの高さはその倍くらいはあるので、20メートル弱というところだ。バンジージャンプとしては控えめな高さだけども……サクラ、高さについては適当に言い過ぎだ。


「まぁ別にどのくらいの高さでもいいですけど! それじゃ、えいや!」


 そして、躊躇なく崖下へと目掛けてジャンプをしたサクラ。どうやらこの躊躇のなさは、元々こうするつもりだったか。相変わらず、こういう時は思い切りがいいものだ。


「いやっほー!」


 思いっきり水飛沫を上げ、本日3度目の湖への落下となった。急に落ちたら焦りはするけども、自ら飛び込む場合は非常に楽しそうである。満面の笑みを浮かべる狐っ娘アバターの表情が、それを明確に示していた。


「いやー、こうやって自分から飛び込むのは気持ちいいですね! さーて、それじゃ宝石の回収をしていきましょう!」


 落ちた勢いで水中に潜っていて、そのまま湖の底に向けて進んでいく。流石は水への適応進化中なだけあって、水中であっても動きは地上と大差がない。


「おぉ! キラキラしてるのが沢山ありますね! それに敵もいますし……攻撃も一緒にやっていきましょうか! 『獅哮衝波』!」


 そうして、攻撃を溜めながら湖底の落ちているクリスタルの破片の中に混ざっている宝石を集めていくのであった。



【8】


 ザバッと水を掻き分けながら、陸地へと出てくるライオンの姿があった。言わずと知れた、サクラである。今回は終始、ご機嫌ではあるけども、より良い笑顔をしているものだ。


「ふっふっふ! 大漁でした!」


 宝石系アイテムとしては、アクアマリン、エメラルド、サファイア、ガーネット、水晶を1個ずつ。再誕の道標となったのが、エメラルド、トパーズ、水晶の3個。増幅石になった宝石はなし。

 そして、敵も全滅こそさせられてはいないものの、進化ポイントとしては30ほど獲得となり、Lvも43に上がっている。Lv差が出ているので倒した数の割に経験値は少ないが、宝石系アイテムの入手量も含めてかなりの成果と言えるだろう。サクラが上機嫌になるのも頷ける。


 それ自体はいいんだけども……具体的に何を何個ほど手に入れたのかは説明しません? 実況外のプレイはダイジェスト化されるから、入手の場面が全て写っているわけじゃないんだけど……。


「さーて、そろそろ時間切れになりそうなので、完全踏破ボーナスを貰って終わりにしましょうかねー!」


 どうもこの実況外のプレイと、普段の生配信のプレイでの違いをあまり考慮出来ていないサクラであった。まぁそれがサクラらしいと言えば、サクラらしさではあるのだが……。ツッコミの視聴者さんが不在な以上、誰も指摘する事が出来ないのがなぁ……。



【9】


 そろそろ実況外のプレイも、サクラの時間切れが近い。まぁ大体の目的は達成しているので、特に問題はないだろう。


「うふふ、完全踏破ボーナスは何が貰えますかねー?」


 期待に胸を膨らませているサクラだが……まぁサクラが一切知らないアイテムは出ないからなー。とはいえ、何が出るかはその時の運次第。

 洞窟の広さによって、出てくる物に差も出てくるけども……今回の洞窟は狭過ぎもせず、過剰に広過ぎずといったところである。まぁレアに分類されるアイテムが出る可能性は、高くもないが低くもないという範囲だ。

 そして、地味にサクラは忘れてしまっている気もするが……完全踏破ボーナスでは進化ポイントも貰えるのである。まぁその量もまた、広さによって変動する部分となっている。


「それでは、これにて洞窟は脱出です!」


 マップから脱出の項目を選び、サクラは洞窟を後にする。さて、果たしてサクラはどのようなアイテムを手に入れるのだろうか?


「……え? ちょ、ちょっと待ってください!? 進化ポイントまで20ポイント貰えたのは別にいいんですけど、『エメラルド【火】』って、どういう事ですかねー!? 適応進化の保存済み宝石とか出るんです!?」


 結構なレアアイテムが出たことで、サクラが困惑している様子。ネタバレ案件になるので誰も言ってはいなかったが、完全踏破ボーナスの中でも、洞窟だけに限定して入手が可能なレアアイテムの1つだ。

 ただし、今回サクラが手に入れたのは成熟体用に増幅されたものではなく、未成体用のものである。もちろん増幅石や増幅草を使えば、成熟体用にパワーアップさせる事は可能だ。それを実行するか否かは、サクラの決断次第だが……。


「えっと、えっと!? あー!? もう終わりにしないと駄目な時間です!?」


 決断以前に、予想外のアイテムの登場で困惑しているサクラであった。その困惑具合も狐っ娘アバターにも如実に表現されていて、相変わらず豊かな表情である。

 まぁ何はともあれ、洞窟探索はこれで終了だ。今入手した『エメラルド【火】』については、今すぐにどうこうは出来ないだろう。


「わー!? 詳しい事は、また明日です! 今日の実況外のプレイはこれで終了しますねー!」


 困惑しつつも慌ただしく、実況外のプレイは終了となった。サクラは特に言及していなかったけども、普段の実況の時点で昼間となっている。明日の配信は、昼間の平原の洞窟の前から開始となるだろう。




――――


第15章、終了!

お知らせしていた通り、少しお休みに入ります!



 

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