第567話 実況外の探検録 Part.28


【1】


「今日の実況外のプレイ、始めますよー!」


 和室に置いてある机の前に座り、元気よく右手を突き上げ、宣言する狐っ娘のアバターの姿がそこにはあった。どうも随分とサクラのテンションは高いようだ。


「さーて、今回は配信中には時間が足りなかった、洞窟内の宝石の採集と、進化ポイント稼ぎをやっていきます! あと、完全踏破ボーナスで何が出るかも楽しみですね!」


 完全踏破ボーナスに言及した時に特に声が弾んでいたので、どうやらそこが楽しみでテンションが上がっている様子。まぁ何が出るかはランダムなので、それが大きなモチベーションになっているのならいいだろう。


「という事で、ライオンを優先するので、今日は木の育成まで出来ないかもしれないですけど、そこはご了承下さい!」


 そう言いながら、サクラは深々と頭を下げていく。いや、別にそこまでする必要はない気がするけどね?


「あ、そういえばかんざしを付けたままでした! んー、あんまりかんざしだと見栄えが微妙でしたし、外しておきましょうか」


 頭を下げた時に長い銀髪が下りてこなかった事で、かんざしを付けっぱなしだった事に気付いたようである。そのまま付けたままでも問題はないんだけど……まぁサクラが外そうと思うなら、それでいいか。

 というか、そういうのは録画中ではない時にやりなさい。


「さーて、それでは実況外のプレイ、開始です!」


 再び右手を突き上げ、狐っ娘アバターの長い銀髪が揺れていく。まぁ今回はいつもより変な流れは少なく、実況外のプレイが始まりそうだ。



【2】


 配信用の和室からモンエボへと切り替わり、目の前には洞窟内に広がる湖がある。言わずと知れた、今日の実況の最後でいた場所だ。


「えーと、まずは何からしましょうかねー? あ、スキルが色々と切れてます!? 縄張りも解除になってますね!?」


 まぁ一度、モンエボ自体を終了しているのだから、全てのスキルの使用が終わっているのは当然の話。スキルの発動が維持されたままという仕様にはなっていない。

 その代わり、再使用時間は現実時間の進行に合わせて減ってはいるけども。ちなみにホームサーバーで時間は正確に同期されている為、VR機器の時計を進めてすぐに再使用なんて古いゲームで出来るような裏技は使えなくなっている。


「んー、とりあえず敵が襲ってきても邪魔ですし、ステータスは上げておきたいですから、『縄張り』を発動で!」


 効果が切れていた『縄張り』が、サクラの意思によって再度発動されていく。まぁ今の状態での使用はほぼデメリットはないので、アリな手段ではある。ただ、これは気付いてなさそうだなぁ……。


「おぉ! 敵が続々と逃げて……あっ、配信中は余裕がなかったので気付かなかったですけど、一般生物の魚もいますね! おー、見事な逃げっぷり……あー!?」


 これは、今の状態での数少ないデメリットに気付いたか? 胃袋のストック分を、もうかなり前に使い果たしていたのを補充出来るチャンスだったという事に。


「胃袋の補充、すっかり忘れてました!? んー、まぁ後でいいですね!」


 気付きはしたけど、あっさりと諦めたサクラであった。まぁサクラがそれでいいなら、別に問題はないか。


「さーて、どういう順番でやりましょうかねー?」


 そして悩み顔になる狐っ娘アバターである。こうやって悩み始めると、サクラは中々決断が出来ないのだが……どうなるのやら?



【3】


 何から始めるかで悩み始め、数分が経っている。いや、ちょっといきなり悩み過ぎじゃない!? 進化ポイント狙いで敵を倒すか、宝石狙いでクリスタルを破壊しに行くかの2択なんだけど!?


「よし、決めました!」


 そう言いながら、サクラは……何故かモンエボから和室の方へと切り替えていく。悩んだ末に出した結論はそれか!? あー、箪笥の方は向かっていっているし、これは確定だな。


「決まらないのなら、サイコロの出番です! 丁なら進化ポイント狙いで雑魚敵の討伐、半なら宝石の採集をしていきますよー!」


 これからやっていく事を説明しながら、サクラはサイコロと笊を手に持ち、机の前まで戻ってきた。実況外のプレイでまでサイコロタイムになるのかよ! いやまぁ、今更な気もするけども……。


「それではいきます! えいや!」


 勢いよくサイコロを笊に放り込み、笊の口を手で押さえた状態で思いっきり振り、ドンと机の上に置いていく。そしてカランコロンとサイコロが転がる音がして……。


「出目は……5ですね! 半なので、宝石の採集からやっていきましょう!」


 唐突に始まったサイコロタイムの結果は、そのようになった。……再使用時間の事を考えるなら、先に進化ポイントを狙っていくのが無難な選択でもあるんだけど……まぁいいか。……誰もツッコミがいない実況外のプレイだと、妙な結果が出てくるのも仕方ない事だろう。



【4】


「ふふーん! 何個、宝石が手に入りますかねー?」


 ご機嫌な様子で、崖上へと繋がる通路を通っていくサクラである。今回の実況外のプレイでは、そこまで気を張り詰める必要がないから気楽なのであろう。

 とはいえ、場所的に多少の緊張感はあった方がいいのだが……。


「あ、クリスタルを発見です! ちょっと遠いですけど……これでやってみましょう! 『放水』!」


 見上げた先にあるクリスタルに向けて、サクラは水を叩きつけていく。まぁ不用意にジャンプして、再び落ちるよりは遥かにいいだろう。


「んー、1発じゃちょっと破壊し切れないっぽいですね? 何発か撃ち込んでみましょうか! 『放水』『放水』『放水』! あ、やりました!」


 何度も水を撃ち込んだ事で、クリスタルは砕けていく。溜めて叩きつけてもいいんだけど、まぁ回数を重ねる事でも破壊する事は可能だ。

 でも、そもそもなんで壊している? 基本的に触れるだけで採集は出来るんだけども……あぁ、鍾乳洞では鍾乳石を破壊する必要があったから、そういう認識になっているのかもしれない。


「これ、どうすれば宝石が手に入るんですかねー? あ、もしかして砕いた中に混ざったりしてます!?」


 うん、まぁそれで正解ではあるんだけど……砕けたクリスタルと一緒に既に水の中へと落ちてしまっている。運良く通路に落ちる場合もあるけども、直接触れられない位置にある場所のクリスタルから入手しようとした場合の欠点だ。


「……むぅ、ここから湖まで降りてたら、何度も往復する事になりそうですよね。どうしましょう……?」


 洞窟内には宝石は沢山あれども、必ずしも全てを入手出来るとは限らない。その事実を突き付けられているサクラは、果たしてどんな反応を見せるのか?


「まぁでも、沢山ありますし、別にいいですかねー? 下が湖ですし、後で潜って一気に回収しちゃいましょう! クリスタルの破壊、継続です!」


 あ、意外と順当に回収しやすい手段を選んできたか。この手段を実行する為には水の中へと潜れる状態が必須だけども、サクラはその条件を既に満たしている。……本人にその自覚があるかどうかは、非常に怪しいところだが。



【5】


「『放水』『放水』『放水』『放水』! ふぅ、このクリスタルも砕けましたね!」


 クリスタルを破壊しながら、サクラはどんどん上へと進んでいる。今のクリスタルで5個目の破壊。


「むぅ……破片は全部、下に落ちちゃってますね……」


 残念ながら、サクラの進んでいる通路に宝石は1個も残ってはいない。まぁそもそもライオンがどうにか通れるくらいの道幅なので、その上のあるクリスタルを破壊しても、残る可能性は低いのだが……。


「……それにしても、なんか少し薄暗くなってませんかねー? 気のせいです?」


 いやいや、クリスタル自体がこの場の光源なんだから、それを砕いたらそりゃ暗くもなるよ!? むしろ、破片が落ちた湖の底が少し明るくなっているくらいだから!


「まぁ見えなくなった訳じゃないですし、どんどん破壊していきましょう! まだまだ大量にありますしねー!」


 沢山壊せば、それだけ後の回収が大変になるんだけど……その辺は気にしてもいないんだろうなー。最終的に回収出来る宝石は、果たして何個になるのだろうか?


――――


オンライン版の電子書籍の第14巻が完成しましたので、近況ノートでお知らせを出しました。

11月4日(土)に発売なので、そちらもよろしくお願いします!


合わせて、こちらのお休み期間のお知らせも出しています。

今の章が終わればお休みで、再開は11月7日(火)からになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る