第527話 実況外の探検録 Part.27


【4】


 現在の進化ポイントがいくらあるか確認している真っ最中のサクラ。少ないと文句は言っていたけども……。


「ふふーん、何か新しいスキルは解放できないですかねー? あれ? あ、そもそもこの辺のスキルは必要量自体が少ないんでした!?」


 いやいや、なんだか驚いた風に言っているけど、そんなのは前から分かりきってる事だから!? 確かに進捗具合が違う点で違和感を覚えるのは仕方ない部分もあるけども、その違いくらいはしっかりと認識しておいてもらいたい!


「んー、根での攻撃を増やしたいですよねー。葉っぱカッターが全然使えないので、微妙な感じですし……」


 それ、ただ単にサクラの戦い方が悪いだけだから!? 分体となるミニ桜を作れば、普通に攻撃で使えるんだけど!? 誰か、その事をサクラに伝えて!


「確か、毒は連撃だと分散して効きにくくなるんでしたよねー! だったら、単発の攻撃が使えればやりやすいはずです! えーと、それなら屈強のスキルツリーですかねー?」


 配信中には悩みまくるのに、今は迷いなく屈強のスキルツリーを眺めていくサクラである。根の操作を使って根で移動するのは拒否しているし、水中でも分体を使える事を理解していないからこそ、無意味に選択肢が狭まって迷う余地が無くなっているのかもしれない。


「んー、『枝打ち』は……使いようがなさそうなので、『根槍』にしましょう!」


 『枝打ち』は『根刺し』に相当する第2段階のスキルで、スキル名にもあるように木の枝を打ちつけて攻撃するようなスキルである。その効果自体はサクラも理解はしている様子だが……だからこそ、選択肢から除外されている。いや、どうにか分体が使える事に気付いてくれない!?


「えーと、第3段階が『屈強+7』で、第4段階が『根槍』ですねー! 合わせて進化ポイント12ですし、解放しちゃいますよー!」


 そう言いながら、第3段階の『屈強+7』に進化ポイント5、第4段階の『根槍』に進化ポイント7を消費して、スキルツリーの解放をしていく。選ぶのに迷いがない事自体はいいんだけど、選び方ー!


「さてと、それじゃ新スキルのお試しをやっていきましょう! あ、切れてたので再発動ですね! 『看破』!」


 器用系統で進化している桜の木なのに、なんで近接攻撃を強化しているんだろうね? いや、別に悪い訳ではないんだけど……もう少しステータスとスキルが噛み合うようには出来ないものか? サクラには酷な要望なのかもしれないなー。



【5】


 それから少し場所を移動したところで、大きな動きがあった。


「あ、エリアボスを発見です! 『知恵あるレンコン』って、レンコンですか……」


 見つけたのはLv15のエリアボスのレンコン。まぁ見えているのは水中から見えるハスの葉の裏側と、そこから地面の中に伸びる茎だけで、レンコン本体は見えていない。


「……知恵系統のエリアボスって、戦いたくないですねー。どうしましょう?」


 戦うかどうかを悩んでいる様子の狐っ娘アバター。まぁ今のサクラの主戦力は微毒と麻痺毒を基点にした攻撃だから、相性が悪い相手なのは間違いない。

 とはいえ、戦う術がない訳ではないのだが……サクラはどういう結論を出すのか次第だ。エリアボスとの戦闘は必須ではないし、まだ少しLv的にも足りてはいない。今は一旦引くという選択肢もありではある。


「よーし、気付かれないうちに戦略的撤退です! Lv15まで上げてから、改めて倒しにきましょう!」


 今回はどうやら、無理に突っ込まずに撤退を選んだようでレンコンを避けて他の方向へと進んでいく事になった。まぁ動かない木での行動範囲を広げる『範囲拡大』のスキルLvを上げるにはエリアボスの撃破が必要になってくるんだけど……その辺を覚えているかどうかは怪しいものだ。



【6】


 エリアボスのレンコンを避け、サクラは獲物を探して進んで、あちこちで戦闘を繰り広げていく。現在は、屈強なスッポンを相手に戦闘中。


「ぎゃー!? 根に噛みつかないで下さい!? 『根槍』!」


 攻撃後に残った根に噛みついてきたスッポンの頭に、新たなスキルで攻撃していく。貫通はするものの、ゲーム的な処置で穴が空いたままにはならずにスッポンの生命を大きく削っていった。だが、まだ仕留め切れてはいない。


「これでトドメです! 『多根突き』!」


 今度は複数の根がスッポンを甲羅ごと貫き、生命が尽きていった。サクラの勝ちである。


「うぅ……スッポンは攻撃が痛いです! 普通のカメほどは硬くないですけど!」


 攻撃力が高いのがスッポンで、防御力が高いのがカメというのがモンエボ内での大きな違いなのだから、文句を言われてもどうしようもない。カメの甲羅であれば、根で串刺し攻撃が弾かれている事も多いくらいだ。


「ともかく回復です! 『水分吸収』!」


 根を噛みつかれた事で大きく減った生命を、サクラは『水分吸収』で回復させていく。周囲は水だらけなのだから、再使用時間さえ待ってしまえば回復なんてものはいくらでも出来る状況だ。


「……むぅ、根に噛みつかれるのは嫌ですねー。葉っぱカッターとかで遠距離攻撃がしたいです!」


 いや、だから分体でミニ桜を作ればそれは可能だからね? その辺、いつになっても気付いてくれないんだけど……これは今回の実況外のプレイが終わってから視聴者さんのツッコミが入るまでは無理なのか?


「まぁ出来ないものは仕方ないとして、とりあえずLv14には到達です! んー、エリアボスのレンコンと戦う時間までは厳しそうなので、今日の目標はLv15にしておきましょう! あと少し、頑張っていきますよー!」


 水中から一切、視点を出す事なく進んでいくのは続きそうだ。まぁなんとか戦えているようだし、これもサクラらしさという事にしておこう。なんだかんだで、敵を選んで一方的に倒せるような状況が続いてるしね。



【7】


 それから、サクラは麻痺毒で動きを封じて根で突き刺して仕留めるという戦法を繰り返してはいく。だけども……それだけで上手く成立するものではない。


「ぎゃー!? メダカに攻撃が当たらないんですけど!? 出てる根、早く引っ込んでー!?」


 当然ながら、小さな敵ほど攻撃は当たりにくくなる。根で刺すという一点狙いの攻撃なら尚更だし、『俊敏なメダカ』相手であれば、余計に躱されやすいというものだ。


「わっ!? わわっ!? 根に体当たりしまくらないでくれませんかねー!?」


 1発ずつでは上手く当てられず、ムキになって『多根槍』で範囲攻撃をしたのが今の状況の原因だ。複数の根で刺す攻撃とはいえ、それでも根1本ずつの攻撃範囲は決まっている。それがメダカ相手にちゃんと当たるかどうかは……難しいのは仕方ないだろう。


「ぎゃー!? どんどんHPが削られてるんですけど!? 『水分吸収』! このメダカ、どう倒せって言うんですかねー!? 攻撃が当てられないですよ!?」


 種族によって相性が存在するし、大きな桜の木と小さなメダカ、それも水中でとなれば地の利がメダカにあって不利になるのは当然の事。

 その不利を覆す為には、避け切れないだけの範囲攻撃か、相手の動きに合わせた調整が可能なスキルが必要になるが……そのどちらも今のサクラは持っていない。特に後者の1つになる『根の操作』は使うのを拒んでいるのだからどうしようもないだろう。


「あ、根が引っ込みました! ここは、戦略的撤退です!」


 攻撃後に残る根が地面の中に戻った事で、メダカからの攻撃の手段はなくなった。そのタイミングでサクラは……戦略的撤退とは言っているけども、思いっきり逃げ出していくのであった。



【8】


 メダカから逃げ出したサクラは、振り切った事を確認して動きを止めた。周囲には他の敵もいるにはいるけども、地面の下までは手は出せない。


「むぅ……メダカ相手にああなるとは思いませんでしたよ! 絶対に倒して……って、もう時間切れですかー」


 ガッカリしたような声のサクラではあるが、時間切ればかりはどうしようもないだろう。桜の木を育てる上での色々と課題も見えてきたし……ツッコミどころの解消は次回の配信の時に、視聴者さんに任せておきたいところだ。でも、場合によっては他の話題に流される事もあるからなぁ……。


「目標は達成にはなりませんでしたけど、時間切れなので今回はここまでで終わりです! 次はメダカとレンコンをぶっ倒します!」


 果たしてそれが出来るかどうか……まぁ手段が存在しない訳ではないから、不可能とまでは言えないか。とりあえず今回はLv14と進化ポイント10という状態で終了となった。


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