第526話 実況外の探検録 Part.26


【1】


「さーて、今日の実況外のプレイ、開始です!」


 そんな一言で、いつものように姿勢を正した銀髪の狐っ娘アバターが宣言をしていく。今回は変な事をしている様子は映っていないようである。……流石に視聴さんに指摘されて、改善になった――


「はっ! 良い事を思いついた! えーと、あるかなー?」


 おーい、開始早々に何を思いついた? デフォルトで用意されている小物の一覧を見て何かを探し始めたけども……一体何を?


「あ、あった! ヘアゴム! んー、シンプルな黒いやつしかないけど、とりあえずこれでいいかな?」


 そう言いながらサクラが取り出したのは、髪を纏める為の黒いヘアゴム。特に何も飾りがある訳でもない、配信用のデフォルトで用意されたシンプルなデザインのものである。でも、なんでまた急にそんなものを?


 続いて配信のプレビュー表示を出して、自分の様子を見始めたけど……いきなり何を始めているんだろうか? 何やら狐っ娘アバターの髪を弄り始めたけども……。


「衣装の着せ替えはすぐには出来ないですけど、髪型ならどうですかねー? 普段はそのまま下ろしてますけど!」


 そう言いながら、サクラは両手で長い髪を手で掴み、ヘアゴムで纏めながらツインテールを作っていっている。いや、髪型を弄る事自体は別にいいんだけど……そういうのはすぐに反応がある配信中にやらない? 今ここでやられても、誰の反応も得られないんだけど?


「んー、片方だけでもいですかねー?」


 そう言いながら左側のヘアゴムを外し、サイドテールへと変えていく。


「……うーん、普段は髪型を全然弄らないので、いまいちどうしたらいいのか分かんないですね?」


 高校二年の年頃の女子高生とはとても思えない発言をどうも。まぁ普段のリアルでのサクラは、無造作に長い髪を下ろしているだけ。オシャレには無頓着なものなので、そういった知識はまるでない。


「動きやすいのは、これなんですけどねー」


 そう言いながら、サクラは後ろ髪をまとめてポニーテールにしていく。狐っ娘アバターの髪型と、リアルのサクラの髪型は色以外はほぼ一緒である。まぁ体育の時にこの程度の髪型の変化はあるけども、それ以外ではほぼ変わる事はない。


「よし、たまにはこれでいきましょう! 今はポニーテールな気分です!」


 それはいいんだけど……ここで下手に髪型を弄る様子を録画していいものなのか? サクラの衣装の着せ替えを狙っているサツキの同業者たちは、髪型を含めて変えさせようと目論んでいるのだが……その辺は知らないんだろうなぁ。


「あ、そういえば桜の木って、前回何をやってましたっけ……?」


 普段とは違うポニーテール姿で悩み始める狐っ娘アバターのサクラ。1日空いてしまったので、どうやら前回のプレイ状況をよく覚えていないらしい。まぁメインはライオンの方だし、そういう事もあるのは仕方ないか。

 仕方ない部分ではあるけども、忘れるくらいならば同時に進行しなくてもいいのではないだろうか? 元々、実況外のプレイでは視聴者の見ていない間にライオンを育てていくという趣旨だった覚えがあるのだが……。


「まぁやってるうちに思い出しますよね! それじゃ実況外のプレイ、開始です!」


 忘れてしまっている事は特に何も気にせず、サクラは鏡代わりに使っていたプレビュー表示を閉じて、モンエボの起動を進めて桜の木を選択していく。さて、今回はどういう事になるのやら?



【2】


 サクラが桜の木を選択し、プレイ開始となった。視点は前回終了した時の場所の根であり、その場所から見えるのは水だらけの光景である。


「あ、そういえば水の中でした!? 確か湿原……あれ? 湿地でしたっけ?」


 実況外のプレイが始まってすぐに、悩み始める狐っ娘アバター。いや、もう既にマップは解放されているんだし、エリア名だけならマップが解放される前でも分かるから、自分で確認すればいいだけなんだが!?


「あ、確認すればいいだけです! えーと、ここは『名も無き湿地』ですね!」


 どうにか自分で気付いて、エリア名の確認を済ませてくれたね。湿原と湿地のエリアとしての違いは全面的に水に覆われているかどうかが大きな部分だが……他の話題で流れてしまって、その辺は視聴者さんからの説明もないままか。

 まぁ進み方として大きな差が出る訳でもないので、気にしなくてもいい部分ではある。むしろ、湿原エリアと湿地エリアの違いを把握せずにプレイしている方が多いくらいなので、サクラが特別変な訳でもない。……今回の件に限っては。


「えーと、それで桜の木はまだ成長体のLv11ですかー。ライオンと比べたら、まだまだ弱いですよねー!」


 そりゃメインで育てているのはライオンなんだし、前回みたいに桜の木を育成しない日があればその分だけ差は余計に開いていくのも当然の事である。それに、今こうして確認をしている時点でその差は更に広がっているんだけども!?


「それでスキルは……あ、『看破』を解放してましたね! えっと、確かこのエリアに来てそんなに経ってなかったはずなので、まずはLv上げをしていきましょう! ここのエリアボス、Lvいくつになるんですかねー?」


 いやいや、エリアボスのLvの上がり方はどの種族でも共通だから!? あー、でも進化階位によって変動する部分だから……単純に成長体の時の事は忘れているな!?


「んー、Lv15でしたっけ? それともLv20でしたっけ? んー、まぁ見つけたら分かるので、それで頑張りましょう! それじゃ移動開始です! 『看破』!」


 行き当たりばったりの実況外のプレイでの、桜の木の育成が始まった。さて、今回はどの程度育てられるものなのか……。1種族目をクリアしてからの2種族目なら進み具合は変わってくるのだけど、1種族目のライオンのクリアがまだな状態だからなー。

 順調に育ったとしても、ライオンと同等の時間がかかる事にはなる。慣れで多少は早くはなるけども、サクラにそれを期待するのは駄目だろう。



【3】


 サクラは『看破』を使い、水中の下の地面に根を伸ばし、先へ先へと進んでいく。意外と順調に敵を見つけ、有利な戦法で一方的に敵を仕留めていっていた。今もまた、その餌食になっている『屈強なナマズ』との戦闘中である。


「麻痺毒で『毒生成』をしてから、『根刺し』です! ふっふっふ、麻痺毒はいいですね!」


 短時間とはいえ、完全に相手の動きを止めてしまえる『麻痺毒』の有用性はライオンのプレイ中に既に実証済み。攻撃の為に伸ばした根は、攻撃後もしばらく残るとはいえ、敵の動きが止まってしまえばあまり関係はない。


「これでトドメです! 『多根槍』!」


 次々と水の底から突き上がっていく根に、麻痺毒で動けないナマズはなす術もなく一方的に仕留められていた。今の根の連撃で生命が底を尽き、ナマズは死んで、サクラの経験値と進化ポイントに変わっていく。


「ふっふっふ、Lv13に到達です! いやー、麻痺毒があると楽ですねー!」


 随分と得意げな様子のサクラの桜の木は、今の1戦を終えた時点でLv13へと上がった。ライオンでは死にまくっているサクラとは思えないほどの大快進撃である。まぁただ単に『麻痺毒』が強いのと、知恵系統の敵を避けているからこその結果ではあるけども。


「ふふーん! 私の桜の木、強いんじゃないですかねー!?」


 そういう事は、知恵系統の敵を真っ向から倒してから言いなさい。自分が有利な敵ばかりを選んで戦っていたら、そうなるのは当然でしょうが!


「えーと、今ので進化ポイントはいくつになりましたかねー?」


 くっ! ツッコミ役の視聴者さんがいないから、今のサクラの発言にツッコむ役目がある人が存在しない!? まぁ1人プレイのゲームだから、その程度の自惚れがあったとしても何も問題はないけども……。


「今の進化ポイントは……16ですか。少ないですね……」


 なんだかしょんぼりしている狐っ娘アバターだけど、それはライオンの方の取得量に慣れてきてるのが原因だから!? まだ成長体の桜の木では、そこそこある方だよ!?


「んー、同じスキルを使ってばかりですし、何か他のスキルを解放しましょうかねー? 流石に地面の下から根で刺すだけも飽きてきました!」


 いやいやいや、それはサクラが全然ミニ桜を展開しなからであって……あ、これは水中だからって、戦闘モード(分体)が展開出来ないと思い込んでるのか!?

 一度もこのエリアに入ってから使ってないけども……ツッコミ役はやっぱり必要だよな!? 誰か、サクラの行動にツッコミを入れる人がいてくれー! ……無理だよねぇ。



――――


更新お休みのお知らせ


もう少しで今の章が終わるので、一旦休憩します。

再開予定は5月16日から!

詳細は近況ノートを確認して下さい。

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