第485話 実況外の探検録 Part.25


【5】


 水中を駆けるように、サクラのライオンは先へ、先へと進んでいく。


「なんだか不思議な感覚ですけど、なんか楽しいですね、これ! いやっほー!」


 水中のどこもが足場になっているようなものなので、縦横無尽に駆けていられる事にテンションが上がっている様子である。まぁ転ぶ余地もなく、敵以外には行く手を遮るものは何もないので、地上よりも駆けやすかったりするのが今の状況だ。

 とはいえ、水中に入ってから走ってばかりなのはもう少しどうにかならない? 折角色々とLv上げに丁度いい敵もいたのに、盛大にスルーしているけども……。いや、目的はまずは真珠の確保なのだから、目的の方向に進んでいるなら――


「あっ、そういえば真珠の方向ってこっちで良かったですっけ? うん、合ってますね!」


 ……ただ単に思うがままに走っていただけで、真珠のある貝を目指して走っていたわけではなかったようである。何かに夢中になると、すぐに目的を見失う部分はどうにかならない?

 うーん、そういう部分があるからこそのサクラな気もするし、配信を行う上での強みになるのが難しいところでもあるか。でも、せめて視聴者のツッコミは欲しい。まともに話が進んでいかないから!


「よーし、このまま貝から真珠の回収をしに行きましょう! でも、あとどれくらい進めばいいんですかねー?」


 方角だけは思い出したけども、距離までは思い出していないサクラ。……一応は目的をちゃんと設定してくれてはいるけども、無事に辿り着くかは怪しくなってきた。

 距離が分からないなら、せめて湖底に沿って進まない? 今の湖のど真ん中を駆けている状態だと、湖底の様子は全く見えてないからね!?



【6】


 サクラはひたすら、水中を駆け巡っていく。『疾走』が切れても、再発動までは普通に駆けて、再使用が可能になれば再び『疾走』を使って駆け抜けていた。


「あれー? もうエリアの半分を過ぎちゃいましたけど……貝の場所は通り過ぎた気がします?」


 そもそも湖底が見えていない位置を駆けているのに、どうやって探すつもりなのか、非常に疑問が残る部分である。誰かツッコミを入れてくれる視聴者さん、ここに来て! そして今のサクラのおかしいところにツッコんで! ……無理か。


「うーん、他の貝を探した方がいいですかねー? あ、それなら湖の底まで……あっ!? そもそも、ここからじゃ底が見えないですよ!?」


 やっと問題点に気付いたサクラであった。もっと早くにそれに気付いていれば、目的の貝以外にも宝石系アイテムを見つける事もあったかもしれないのに……水中を駆けるのに夢中になり過ぎで、目的を見失い過ぎだ。

 結局、まだ水中を駆けているだけで、Lvも上がっていないどころか、進化ポイントも経験値も手に入れていない。……実況外のプレイだからって、ちょっと自由にやり過ぎじゃない? まぁここのコーナーは、完全にサクラのフリータイムではあるけども。


「ともかく、湖の底を目指して駆けていきますね! それにしても、何もしていなくても沈んでいかないのは不思議ですねー?」


 まぁ『水化』の発動中はそんなものだけどね! そろそろ『水化』の効果時間も切れて、自然と沈んでいく事にもなるけども……。


「あ、『水化』が切れました! わっ!? 一気に沈みだしましたよ!? さっきまでのって、『水化』の効果だったんですか!?」


 効果時間が切れて、ようやく『水化』の効果を実感したようである。まぁ水中の移動に特化したスキルだから、水中ではそれ相応に便利な性能にはなっているのは当然だ。……スキルの説明は簡素なものだから、こういうのは実際に使ってみて体験してもらうのが一番なのである。

 単純に早く沈みたい時は、下に向かって駆けていけばいいだけだ。そして、別に『水化』がなくとも、『潜水』で水中での活動は可能になっているから可能な事でもある。


「それじゃこのまま底まで沈んでいきましょう! どうやって底まで行けばいいのか、悩んでたんですよね!」


 そのはずなのだけど、サクラはそのまま身を任せて沈んでいく事を選んでいった。うん、あえて選んでる訳じゃなく、下に向かって駆けていける事に気付いてないだけだな。なるほど、だからこれまでそこに向かって進んでいなかったのか。



【7】


 自然と沈んで、湖底に降り立ったサクラ。月明りも届かなくなり、これまでよりも暗さが増した状態になっている。とはいえ『夜目』の効果で、周囲が見渡せないという事はない。


「湖の底に到着です! あ、切れちゃってたので再発動していきましょう! 『索敵』『見切り』『弱点分析』『看破』!」


 沈んでいる間はほぼ無防備だったけども、既にLv27のサクラよりは格下の敵ばかりの位置なので襲われる事はなかった。だからこそ、途中で効果が切れても問題はなかったとも言える。


「あ、魚の反応が色々あるのは当たり前ですけど、湖の底に色々と反応がありますね! よーし、ちょっと南まで行き過ぎた気がするので、底を北に進みつつ敵を倒していきましょう!」


 無意味に目的地を通り過ぎた結果、ある意味Lv帯としては順当な範囲での移動が開始となった。でも、湖底を普通に地面と同じ感じで走って進んでいくのはどうなんだ? 『水化』ほど早くはないけども、水中を移動するのは『水化』の専売特許ではないのだが……その辺は、気付いてないんだろうな。

 まぁ実況外のプレイではサクラの思うままに進めばいいだろう。ある程度の目標は決めていたとしても、必ずその通りにしなければならないというノルマは存在しないのだから。個人での配信だからこそ、変に制限を受けずに自由に出来ているんだしね。



【8】


 湖底を北に向かって歩き始め、いくつかの貝を見つける事があった。残念ながら、どれも空振りに終わり、真珠は手に入ってはいないが……。


「むぅ……貝は見つかったのはいいですけど、全然真珠が手に入りませんよ!」


 ご立腹なサクラだけど、そもそも宝石系アイテムはレアアイテムに分類されるものである。そう気軽に何個も出てくるものではないし、真珠だけに限って探せばそうなるのも当然だ。

 サクラは知りもしないが、探し方さえちゃんと分かれば、その辺に採集出来るのは普通にあるんだけどなー。やはり、その辺について触れる人が不在で、サクラのみでやればこういう結果になるか。


「あっ、Lv26の旺盛なタニシを発見です! ……タニシにしては大きくないですかねー?」


 大きさ的には5センチに届くかどうかというところであるが、生命系統で進化すると大きくなりがちという傾向はある。あくまで傾向であり、種族によっては生命が高くなくとも大きくなる事はあるが。


「とりあえず、倒すだけ倒してみましょう! 弱点は『屈強』と『器用』と『知恵』なので倒しやすいはずです! ……時間はかかりそうですけど!」


 このタニシは攻撃性よりも耐久性が高い個体になるから、まぁ実験台としては申し分ないだろう。何気にスキルとしての弱点に『堅牢』もあるので、スキルによる強化やカウンターの心配は薄めでもあるのは良い点だ。


「それじゃ、これの実験です! 『放水』!」


 近くに他の敵がいない事を確認してから、サクラは放水を使用していく。まぁこれはあまり水中では役に立つスキルでもないのだけど、それも実際に使ってみれば分かる事か。


「……えっと、なんだか湖に流れが出来てるだけな気がします? これってダメージ、ちゃんと入ってますかねー!?」


 水中で水を放ったところで、ぶっちゃけ視認性は相当悪い。サクラが言っているように流れが出来ているのが分かる程度だし、そもそも相手は水棲の敵である。全くダメージがない訳ではないが効きは悪く……生命系統で進化しているという事もあり、その少ない削った分もあっという間に回復されてしまっている。


「むぅ……放電と違ってあんまり使えないですね、放水! だったら、最大まで凝縮したこれでいきます! 『獅哮衝波』! 出来れば他の敵も巻き込みたいですけど……あ、狙えそうな魚が近付いてきてますね!」


 『放水』は全く使えない訳でもないのだけど、『放電』とは運用方法が違ってくる。その辺の違いを把握する前に、既に持っているスキルで瞬殺を狙うつもりのようである。

 まぁサクラの最大威力の攻撃だし、水中だからといって威力が劇的に落ちる類いのスキルではないから、確実に倒したいのなら正解だろう。色々と陸地とは勝手が違ってくるから、色々と慣れは必要だ。



【9】


「……むぅ、時間切れですね」


 タニシを最大まで凝縮した『獅哮衝波』で倒し、それに他の魚も3体ほど巻き込んでLv28に上がって、その後に場所を変えて魚相手に何度か戦ってLv29までは到達した。だが、そこまでで時間切れである。


 何度か魚と戦った事で、『水化』無しでも水中を走れる事には気付いたのは進展だろう。でも、そっちに気を取られ過ぎて、目的の貝の場所までは辿り着けていないままである。

 というか、元々あやふやな位置だったし、通り過ぎた事もあって完全に分からなくなっているだけだが。


「結局、貝の所まで辿り着けなかったですよ……。まぁそれでも進化ポイントが44までは溜まりました!」


 目的のほとんどは達成出来てないままだが、それでも今日のサイコロタイムで決めた『胃袋拡大Ⅲ』の解放に必要な進化ポイントの確保は出来たのは幸いか。色々と忘れているサクラではあるけども、そこはしっかりと覚えていたようだ。


「明日の配信の最初で『胃袋拡大Ⅲ』を解放ですね! その後、真珠を探すとこからスタートです!」


 湖の中の探索は、明日もやっていく事に決定。Lv29までは上がったから次のエリアへ進める範囲だが、水の適応進化に慣らしていくのも重要だ。ツッコミをしてくれる視聴者さんがいれば宝石系アイテムの入手確率も上がるだろうし、これでいいのだろう。


 という事で、今回の実況外のプレイは終了となった。ところで、結局エリアボスのワニについてはどうする気なのだろうか? まぁ位置が位置だし、無理に戦う必要もないけども……。

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