第484話 実況外の探検録 Part.24
【1】
今日もまた、実況外のプレイの録画が始まっていく。いつものように銀髪の狐をモチーフにしたアバターは、尻尾をゆらゆらと揺らしながら姿勢を正し……何かを眺めていた。
「うーん、これはどうしましょうかねー?」
いきなり何か悩み始めてるけど、見てる人には何に悩んでるかが伝わらないから! 視聴者さんには見えない情報を見ながら悩むのは止めようか!
「まぁ順番に悩んでても仕方ないですね! 明日の分は決めたし、とりあえず実況外のプレイを……あ、もう録画開始になってた!?」
慌て始めるサクラだが、録画が始まっているのに気付いていなかったようである。いや、正確には録画を既に始めていた事を忘れていたというべきか……。自分で操作してるんだから、そこはしっかりと把握しておこう?
ちなみにサクラが悩んでいたのは、明日のケーキ屋のソフトクリームの次にどの宣伝にするかという内容である。宣伝をするという事までは言ってはいるが、具体的に何を宣伝するかまでは今言う訳にもいかないので、視聴者さんへその内容は伝えられないのだ。
何故それを今確認していたか、そこが問題ではあるけども。まぁ単純に言えば、実況外のプレイを始める前に姉のサツキに明日ソフトクリームの宣伝をすると伝えたら、つい先ほどそのアイスクリームを含め、メンチカツと団子の写真が追加で送られてきたからである。
「ごほん! 今、悩んでた部分は気にしないでください! ともかく、実況外のプレイ開始です! 今日はライオンの育成の続きをやっていきますよー! 湖の中へと進出です!」
誤魔化すように強引に、サクラはモンエボを起動し、ライオンを選択して続きを始めていく。ミスした自覚があるならば録画をし直せばいいのだが、どうしてこうもそのまま続けようとするのやら?
【2】
慌てた狐っ娘アバターから水への適応進化を終えたライオンへと操作が切り替わり、舞台も和室から大きな湖の畔へと切り替わっていく。ゲーム内の時刻はまだまだ夜中の半分も過ぎていない為、周囲は暗いままである。
雷への適応進化で常に電気を纏い、僅かにだが光っていたライオンが照らす事もなくなっている。とはいえ、『夜目』の効果が大きい為、夜だからといって現実のように真っ暗という事もない。
「さーて、それじゃ湖の中に出発です! まずは、真珠を採りに行きましょう!」
水への適応進化を終えた際に、その最中で見かけた真珠が手に入る可能性のある貝の場所を位置は聞いていた。雷への適応進化に戻す際に、水の適応進化を保存する為に必要になるのものだから、可能ならば早い段階で手に入れておいた方がいいだろう。
「……あれ? あの貝、どっちの方向で、どのくらいの距離でしたっけ?」
おいこら!? そこって何気に重要な部分なんだけど、それを忘れちゃう!? ただでさえ、その手のものを見つけるのが苦手なのに、位置が分かっているという絶好の機会を逃す気か!?
「えーと、えーと!? ちょっと待ってくださいね! しっかり思い出すので、少し時間をください!」
開始早々、大事な情報を思い出す為に動きが止まるサクラであった。……それほど時間がある訳じゃないのに、こういう止まり方をして大丈夫なのだろうか? やっぱり視聴者不在でサクラ1人だと、変な方向に突き進んでいくな!?
【3】
しばらく、悩み顔が続く狐っ娘アバター。相変わらずの表情の豊かさである。
「あ、思い出しました! ここから南で、そこそこ進んだ距離だったはずです!」
少し思い出すのに時間を必要とはしたけども、過剰に時間を使い過ぎない程度で思い出してくれたようで何より。微妙に距離の方は思い出せていないけども、まぁ方角が分かっていれば……なんとかなると思いたい。
「それじゃ改めて、出発していきますよー! 『索敵』『見切り』『弱点分析』『看破』!」
いつもの移動中の定番スキルを発動して、湖の水へと向かって畔を走り出すサクラのライオン。一応、色々とやる事はあるのだが、この実況外のプレイでどれだけの目的を達成出来るかは……まだ分からない。
「真珠、あればいいんですけどねー」
あの真珠は貝に必ず入っている訳ではないので、場所が分かったとしても手に入るかどうかはサクラの運次第。無事に一度見つけた貝の元へと辿り着けても、必ずしも手に入るとは限らないのである。
「まぁその辺はなるようになれですね! 湖にあと少しで辿り着きますし、ちょっとこれをやってみましょう! 『水化』! わわっ!? ぐふっ!」
配信中では転ばなかったのに、何故2回目の発動の時に転ぶ!? あぁ、全然慣れていないのに、走りながら発動してしまったからか。別に勢いは既についている状態だから、バランスさえ保てればそのままの勢いで滑っていけるのだけど……そのバランスを保てなかったようである。
配信中に期待されてた転ぶ事を、今ここで期待に応える必要もなかったんだけど、まぁ意図してやってはいないのがサクラらしいところか。そもそも、陸地では動きにくいと分かっていたはずなのに、なぜ使った?
「……むぅ、これ、バランスを取るのが難しいですね? 起き上がりにくいですし……あ、でもそのまま滑ってます? 折角なんで、そのまま行きましょう!」
『水化』の使用で脚が水と化しているので、地面では踏ん張れなくなっているのだから起き上がるのは難しいのは仕方ない。仕方ないけど、転んだままの状態で勢い任せに滑り続けていくので良いのか? まぁ真横に倒れた訳じゃなく、前後に脚を伸ばしたような形で転んでいるからこそ進めてはいるけども……。
「走ってる感じじゃないですけど、これはこれでいいですね! いやっほー!」
不思議な挙動で滑って……なんというかライオン型のソリみたいな動きだけど、まぁ張本人のサクラが楽しそうだから問題はないか。もう少しで湖の水まで到着するし、そこからどうなるかが見物である。
【4】
湖畔の陸地を変な体勢で滑りながら、サクラはもう間もなく湖面へと突入する。さて、ここで少し問題があるのだが……サクラはそこをどう切り抜けるのか。
「湖の水へ到着です! このまま水中へ突入ですよー! ……って、あれ? なんか水面をそのまま滑っていってるんですけど!?」
そのまま水中へと入っていくと思っていたようだが、配信中に言われた事はすっかり忘れているんだろうなー。その状態では『水面も普通に走れる』という事を。ライオンの脚が水と化しているけども、それ以外にも水掻きも出来ている事を完全に忘れ去っているようだ。
「え、なんで水中に入れないんですか!? わっ!? 滑るのは止まったけど、水面に普通に立てるんですけど!? えぇ!? どうやって水中に入ればいいんですかねー!?」
思ったようにならなくて、盛大に混乱中のサクラであった。使う場所によって大きく移動の方法が変わってくるのが『水化』というスキルの大きな特徴なのだが……ツッコミ役の視聴者不在の実況外のプレイで使うのは失敗だったか。
「あ、そういえば水掻きが出来てるんでした!? これで水面に立てるって凄いですね!?」
まぁライオンの脚全てに水掻きがあったところで、その体重を支え切れるものではない。だが、これはあくまでもゲームなので、そこら辺はツッコミを入れても仕方ない部分でもある。むしろ、サクラの行動の方がよっぽどツッコミどころが満載だしね!
「……これ、もしかして、立ってるから駄目なんですかねー? ちょっとこの状態で横になってみて……わっ! 沈みました!?」
ただの思い付きでやってみただけなんだろうけども、水面に立った状態から水中へと潜る手段としてはそれで正解である。脚の水掻きが支えとなっているので、それが全て水面へと接しない状態へと変えれば、そのまま水中に落ちていく。
「おぉ! 水中なのに、陸地を『疾走』してる感じ……って、わー!? 同時に疾走も使えるんです!? ちょ、速過ぎないですかね、これ!?」
水中を陸地と同じような感覚で走り始めたら、誤って『疾走』を発動してしまったようである。まぁ移動速度を上げるスキルを同時に2つ使用しているのだから、移動が速くなるのは当然の結果だ。
「うーん、まぁこのまま行きましょうか! まずは真珠の確保からです!」
『疾走』の効果が出たままでサクラは先に進む事に決め、周囲に見えている魚や水棲の敵をスルーしていく。まぁ時間は有限なのだから、優先順位を決めて進んでいけばいいだろう。
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