第449話 高校での変化
ふふーん、高校で初めての楽しい昼休みな気がする! ……自分の事だけど、なんという寂しい高校生活を送ってたの、私!? でも、今は違うのですよ!
「……美咲ちゃんって、本当に美味しそうに食べるよねー? 配信での『サクラ』の様子は、素の美咲ちゃんが出てるんだね」
「え? そう?」
「うん、そう! 今度、料理部で試食役、やってみる気ない? 秋の文化祭でちょっとした事をやる予定なんだよね。まぁ手作りは衛生上の問題で許可が下りないから、フルダイブでの試食データにはなるんだけど」
「おぉ、そうなんだ!? え、でも試食データって発行するのは自由に出来たっけ?」
「ふふーん、学校の部活によってはその辺の許可は下りやすいの! まぁこの部屋にはないから、VR機器が置いてあるコンピューター室のコンピューター部に借りに行く……というか、文化祭は共同でやる予定なんだけどね! あっちの部員が作った携帯端末用のARのミニゲームをクリアしたら、私たちの部活の料理がグレードアップして登場って感じ! 参加賞はちょっとしたお菓子くらいの予定?」
「おー! なんか楽しそう!」
わー! 文化祭でそんな事をやる予定なんだ! ミニゲーム、どんなのをやるんだろ? ……去年の文化祭、ただひたすらに退屈なだけだったけど、今年はそうでもないかも! でも、ちょっと即断はしかねるかな……。
「その味見役……ちょっと考えさせてもらっていい?」
「うん、大丈夫! 流石に美咲ちゃんの事情を考えたら、即断即決は無茶振りだしねー」
「あはは……ありがと」
色々と気持ちが切り替わったとはいえ、結月ちゃんとこうして話していられるのは……結月ちゃんが『水無月さん』だった事も大きいしね。いきなり今まで関わってなかった部活の中で試食役は、ちょっと勇気がいる! 結月ちゃんのいる料理部だけならまだしも、他の部活も関わってるなら尚更に!
「あ、このお煎餅、本当に美味しい! これ、帰ったら普通に買ってみよう!」
「私と姉さんのお気に入りだし、そう言ってくれると嬉しいね!」
「え、葵さんのお気に入りでもあるんだ!? あ、そっか。『サツキ』さんが試食データを渡してたんだし、そうなるよね」
「姉さん、色々と送ってくるからねー。でも、毎回量が凄い事になるんだよ!? 何度食べきれない量を送られてきて、お母さんが近所の人に配った事か! 兄さんも仕事場で配ったりもしたんだよ!」
「そんなに大量に!? なんというか、葵さんは自由奔放なんだねー?」
「この前のバーベキューの時に、やっとその辺の量の調整が出来てね? そこでやっとホッと――」
そんな話をしていたら、お昼休みはあっという間に終わっていっちゃった。うーん、もう少しで夏休みっていうのが、少し惜しい! ……夏休みの間は家の手伝いをするって聞いたから、お昼を食べに高校の近くまで来ようかな?
◇ ◇ ◇
楽しいお昼休みはあったけど、それでも授業は退屈なのですよ……。夏休みまであと少しだから、主にこの前のテストの復習がメインの授業だけど……テストで分からなかったところばっかだから、普段の授業よりなんか疲れるんだけどー!
うぅ……分からなかったところを分かるようにする為の復習の授業なんだけど、正直辛かった!
ともかく、今日の授業は終わったし、結月ちゃんは文化祭に向けての打ち合わせって事だから、素直に帰ろうっと。夏休みにどういう準備をするかを決めるって話らしいし、部外者の私が邪魔しちゃいけないよね。
「あ、あの! 櫻井さん、ちょっと時間いいですか!?」
「……え?」
えーと、顔に見覚えはあるし、多分クラスメイトの男子の1人だよね? 全然名前が出てこないけど……これ、なんか嫌な予感!?
「おっ、行ったか!」
「ちょ!? あいつ抜け駆けしやがった!?」
「……ちっ!」
「わー!? 教室で、人もたくさんいるのに!?」
ぎゃー!? なんか教室の中が騒めいてるんだけど!? 地味に舌打ちが聞こえたけど……今の感じ、嫌な覚えがあるよ!? ……これは話しを聞いて、バッサリとやった方がいい? それとも、理由を付けて逃げちゃう?
今の今まで、そういう素振りで接してきてた覚えもないんだし、逃げるのでも良い気がしてきた。正直、変なイメージが定着してるままでそういう事もされたくないし……。
「ごめんなさい! ちょっと帰ってやらなきゃいけない事があるので無理です!」
「……え?」
という事で、逃亡開始! とにかく、この場を離れてしまえー! 家と高校は離れてるから単純に登下校に時間がかかるし、配信の開始時間を考えたら、本当に時間がいっぱいある訳じゃないもん! 帰って着替えてたら5時が近いくらいだから、配信まで1時間程度だもん。
それを、変な風に消費はしたくないのは事実! せめて人目に付かない場所でなら話くらいは聞くかもだけど、あんな目立つやり方は勘弁です! ……多分、どっちでも答えは変わらないけど!
「見事、撃沈!」
「話すら聞いてもらえず、フラれてやんの!」
「……くっそ、いけそうな気がしたのに!」
「いやいや、無理だろ。なんでいけると思った?」
「……へぇ? 今までと随分、雰囲気が違うねぇ?」
なんか教室の方の騒めきが多くなった気がする! ……なんか値踏みするような女子の声も混じってたけど、あの言い方って中学の頃の嫌な事を思い出すんだけど!? 嫌がらせをしてきた主犯格が、あんな感じの雰囲気だった気がする!
……もしかして変に目を付けられちゃった? 別に私がどう思われるかはどうでもいいけど、実害が何もありませんように! 特に、結月ちゃんには迷惑がかからないようにしなきゃ! って、わわっ!?
「……痛たた」
慌てて走ったから、思いっきり転んじゃった。はぁ、折角昼休みは楽しかったのに、放課後にこんな事になるとは思わなかったなぁ……。
「……なんか凄い音がしたと思ったら、何やってんの?」
「……え?」
あ、この声! さっき、値踏みをしてるような声の人! えーと、クラスメイトなのは確実なんだけど、名前を憶えてない!?
うぅ、なんかちょっと威圧感があるし、ギャルっぽい感じだし、苦手な雰囲気なんだけど!? この感じ、変に気に入らないって感じで八つ当たり気味の罵倒が飛んで――
「ほら、さっさと立ちなって」
「……え、あ、うん」
あれ? なんだか手を差し出して、普通に起こしてくれた? 色々と身構えてたのに……あれー?
「怪我は……してないみたいだね。って、あんたら! 見せ物みたいに見てんじゃない! 時と場所も考えず、困惑させたのが原因でしょうが!」
「おわっ!?」
「すみませーん!」
「へーい」
「……ったく、あいつらは!」
んー? 教室の中からこっちを見てた人達を追っ払ってくれた? これ、全然思ってた流れと違うような……?
「何を不思議なものを見たような目で……あれ? もしかして結月から、私の事は聞いてない?」
「……え?」
「あー、その反応は聞いてないっぽいね。あ、そっか。後で機会を設けて紹介するって話だっけ。えーと、混乱してるみたいだから言っとくけど、私は料理部の副部長で……あぁ、もしかしてさっきの舌打ちは聞こえてた? あれ、あの男子連中に対してのもんだから、気にしないで。まったく……様子が少しでも変わった途端に、教室であんな真似をするか!?」
「あ、そうなんだ?」
え、この人が料理部の副部長さん!? 見た目とのギャップが……って、全然違う変なイメージが定着しちゃってる私が印象で決めちゃ駄目な気がする!?
「……それにしても、聞いてた以上に実態は違いそうだね?」
えーと、これはどう答えたらいいんだろ? 結月ちゃん、一体何を話したの!? あ、でも料理部の人はそのうち紹介するって言ってたような? その時に話すつもりだったのかも?
「……結月から聞いてないなら、その反応も仕方ないか。あー、その辺の話はまた明日にでも! 副部長が遅刻とか、部長にどやされるから! あんたら、変なちょっかいを出すんじゃないよ!」
なんだか慌ただしい様子で、立ち去って行っちゃった。あ、そっか。料理部の副部長さんなら、そりゃこれから打ち合わせだもんね。……後でちょっと結月ちゃんにメッセージを送って、今の人の事を聞いておこうっと。
うーん、それにしてもつくづく思ったけど、私って全然人の名前を憶えてないね!? ……どれだけこれまで無関心だったのか、思いっきり痛感しちゃうよ。この辺、本当に反省だね。
とりあえず転んだので怪我はないし、痛みも引いたから、さっさと帰ろう! ……転んだ時にぶつけた場所より、教室からの視線が痛いんだもん! 今度は転ばないように、今度こそ帰宅なのですよ!
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