第13章 ひたすら育てます!

第448話 これまでとは違う高校生活


 連休も終わって、夏休みまであと少しの火曜日のお昼休み! でも、今日の学校は今までとは違うのですよ!


「美咲ちゃん、お昼食べよー!」

「うん! 行こっか、結月ちゃん!」


 ふっふっふ、先週まで1人で食べていた私はもういない! 水無月さんこと、結月ちゃんと一緒にお昼なのですよ! 昨日、実況外のプレイをし終えた後にお誘いが来てたもんね! 同じクラスじゃないから、結月ちゃんの方からこうして呼びに来てくれたのです!

 高校に入ってから、初めて誰かと一緒に食べる気がする! ……なんだか、周囲から視線を感じるのは気のせい?


「……え? 櫻井さんの今の弾んだ声、初めて聞いたよ?」

「何事!?」

「今、下の名前で呼んでなかった?」

「あれ、隣のクラスの水瀬さんだよね?」

「くっ!? 俺もお近付きになりたいのに!」

「俺、話しかけても相手にされなかったのに……」

「大丈夫だ! 相手は女子、まだチャンスは残っている!」


 気のせいじゃなかった!? なんだか騒めき出して、クラスの雰囲気が一変してるよねー!? ……というか、チャンスって何の事ですかねー? 下心ありで近付いて来られるのは、色々と気持ちが切り替わった今でもお断りだよ?

 まぁいいや、今はそんなのに付き合ってる暇はなーい! お弁当を持って、教室を脱出なのさー! 結月ちゃんが静かに食べられる場所を知ってるって事だから、そっちに行く予定なんだよね!


「結月ちゃん、行こ!」

「あ、うん! こっちだよ!」


 という事で、なんだか落ち着かない状態の教室から脱出! ……私の変なイメージ、今のクラスでも完全に定着しちゃってる感じがするねー。男子の方はともかく、同性の女の子とは仲良く……出来るのかなぁ?

 うーん、中々面倒だった覚えもあるし、無理して私の方から変えようとしなくてもいいや! 本当に仲良くしたい人がいれば、その時にって事で! ……中学校で同級生に嫌がらせを受けた件、完全に水に流せた訳でもないしね。



 ◇ ◇ ◇



 結月ちゃんが連れてきてくれたのは……家庭科室? 私はあんまり使う事のない教室だけど、なんで結月ちゃんがここの鍵を持ってるんだろ? あ、ここって確か料理部が使ってた気がする!


「結月ちゃん、料理部に入ってたりするの?」

「うん、そうだよー! 目指せ、お姉ちゃんより上の料理の腕前! 今日はちょっと先生に無理言って、鍵を借りてきちゃった。流石に毎日は貸してくれないけど、夏休みまで日数くらいなら多分、毎日でも貸してもらえる!」

「あはは、そうなんだ!」

「普段は部活のみんなと一緒に食べてるんだけどねー。その内、美咲ちゃんにも紹介するね」

「あ、うん! そっか、料理部なんだー!」


 普段、一緒に食べてる人とはどうしたのかとは思ったけど……私の方を優先して、目立たない場所まで用意してくれたんだ。んー、なんでそこまでしてくれたんだろ?

 んー、もう夏休みの直前だから調理実習に使われてたりはしなかったみたいで、部屋が暑い! サラッと結月ちゃんが冷房の電源を入れてるから、涼しい空気は出てき始めたけど!


「1つ疑問なんだけど……さっきの教室での様子って、結月ちゃんには予想出来てた?」

「あ、うん。あれくらいの反応はあるだろうなーとは思ってたよ。実際にあの反応を見たら、ちょっと周りへ優越感だね! 他にも何かあるかもしれないし、気を付けてね?」

「……あはは」


 これ、どう反応したらいいんだろうねー? 少なくとも今のクラスでも、去年のクラスと同じように結月ちゃんが言ってた変なイメージがそのまま定着してそうだよね。

 えっと、確か『物憂げで誰も寄せ付けなくて、病弱な訳アリな人』だったよね!? ……改めて思い出したら、なんか恥ずかしくなってきた!?


「まぁだからこそ、ここの鍵を借りてきたんだしね。あ、ちなみに顧問の先生が美咲ちゃんの名前を出したらあっさり貸してくれたよ?」

「え、そうなの?」

「うん、顧問の先生って去年の担任の先生だしねー。美咲ちゃんの事をよろしくって言われちゃったくらい?」

「そうなの!?」


 料理部の顧問の先生が、まさかの去年の担任の先生だったー!? 去年、馴染めてるか心配されてたくらいなんだし、そういう流れで家庭科室の鍵を課してくれる事になったんだね!?


「あ、何か飲み物を入れるけど何が良い? コーヒー、紅茶、緑茶くらいなら部活のであるけど」

「それなら緑茶で!」

「緑茶だねー。私も今日は緑茶にしようっと」


 自然な流れで、結月ちゃんがお湯を沸かし始めてた! まぁ家庭科室なんだから、それが出来るだけの設備はあるけど、使い慣れてる感じだよね。部活で使ってたら、そうなるのかも?


「あ、そうそう。昨日の配信で宣伝してたお茶、試飲データを飲んでみたけど美味しかったよー!」

「あ、飲んだんだ! 美味しかったならよかった!」

「うん、あれは普通に個人的に買いたいくらいかも。その時にお煎餅も一緒に買ってみようかな? あっちのお煎餅も、気にはなってたんだよねー」


 おぉ、こんなところにも宣伝の効果が出ていたとは!? 私の影響って事は聡さんに言われて分かったつもりではいるけど、こうして直接目の当たりにすると、実感が湧いてくるね。

 あ、でも、結月ちゃんがあのお煎餅が気になってなら丁度いいや! ふふーん、渡そうと思って持ってきてて正解だね!


「結月ちゃん、はい、これ」

「……え? あ、あのお煎餅!?」

「うん! 姉さんが送ってくれてたやつ、お裾分けに持ってきてた!」

「おー、そうなんだ! よーし、それじゃこれはデザートにしちゃおうっと! うん、今日は和風のお弁当にしてきてよかったのかも!」

「あ、もしかしてお弁当は自作?」

「うん、そうだよー! 料理の腕前を磨きたいのに、作れる機会を逃してなるものかー!」

「あはは、確かにそうかも!」


 そっか、そっか。結月ちゃんは、料理へのこだわりがあるんだね! 私にとっての、今のイラスト絡みのものと同じようなものなのかな?


「おぉ、綺麗なお弁当! 炊き込みご飯とアジの塩焼きがメインで、煮物付きなんだね」

「ふふーん、自信作! まぁまだまだお姉ちゃんには届かないから、精進あるのみだよ!」

「あはは、お姉ちゃんのことが目標なんだ?」

「うん、まぁね! 美咲ちゃんは、そうじゃないの?」

「え、私は……」


 あんまりそういう風に意識した事はなかったけど、そう聞かれたら確かにそうなのかもしれない。そっか、姉さんは自慢の姉さんだけど、それとは別にいつの間にか目標でもあったんだ。……自覚が無かっただけで、もしかしたらその辺も比較されるのが嫌だった理由なのかも?


「うん、私もそうかも!」

「そっか。なら、お互いに頑張ろっか! 応援してるからね、『サクラ』ちゃん?」

「あはは、そだね! うん、お互いに頑張ろー! 打倒、お互いの姉!」

「倒しちゃ駄目だよ!? 超えるだけ!」

「そこは気持ちの問題で!」

「……それは、まぁそうかもね!」


 うん、今までは気持ちで負けてたというか……色んな自覚が無さ過ぎたんだろうし、これからは意識的に色々と頑張っていかないと!

 でもまぁ、今はお昼ご飯を食べちゃおう! そろそろお湯も沸いて、結月ちゃんがお茶を入れてくれてるしねー。夏だから冷たいお茶は持ってきてるけど、冷房が効いてきてるし、暖かいお茶もあり!


「あ、美咲ちゃんのお弁当も美味しそう! 唐揚げかー! そういえば、美咲ちゃんは料理はするの?」

「んー、そんなにはしないけど、必要な時にたまに作るくらい? これはお母さん作のお弁当!」

「あ、そうなんだ。まぁ自分で作ってる人の方が少ないよねー」

「それは……どうなんだろ?」


 誰が自分でお弁当を用意してるかとか、今まで確認してみた事ないしねー。まぁそもそも、いつも1人で食べてたんだから、確認も何もないけども!


「少ないと思うよー? 少なくとも、私は料理部の人以外に自分のお弁当を作ってきてる人に会った事はないし、なんなら料理部の中でも少ない!」

「そうなんだ?」

「うん、そうだよー。お昼休みにここを使わせてくれるなら、お弁当じゃなくて普通に作るって人はいるけどさー」

「それって、良いの!?」

「ううん、流石に駄目ー。先生に却下されちゃったし……あ、このお茶は他の人には内緒ね?」

「え、もしかして無許可なの!?」


 まさかの無許可!? 自然な流れでお湯を沸かしてたから、鍵と一緒に許可を貰ってるものかと思ってた!? 


「んー、まぁ顧問の先生はからお昼を作る以外には自由に使っていいとは言われたし、お茶はセーフの範囲かな。本当にアウトなら、ロックがかかって使えないはずだし……どっちかというと、ここでお昼を作ろうと目論んでる後輩に言わないようにかなー?」

「あ、お茶はセーフなんだ? というか、そんなのを目論んでる後輩がいるんだね!?」

「うん、中々癖が強い後輩でねー。あ、はい。緑茶をどうぞ」

「あ、ありがと!」

「まぁその辺はお弁当を食べながらにしよっか。私も、美咲ちゃんの事、色々聞きたいしねー?」

「あはは……お手柔らかにお願いします!」

「それじゃ、いただきます!」

「いただきまーす!」


 という事で、いつもとは違うお昼ご飯だー! 高校でこうやって誰かと食べる日が来るとは思ってなかったけど……なんか楽しいもんだよね!

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