第447話 実況外の探検録 Part.23


【3】


 渓流エリアを、下流へ、下流へとどんどん進んでいくサクラである。既に渓流エリアのエリアボスは討伐済みなので、先のエリアと進むのがいい頃合いだ。近くにはLv10の敵も増えてはいるけども、決してもう効率が良い状態ではない。


「えーと、そろそろエリア切り替えだと思うんですけど……この先、何になってるでしょうか? マップの解放からやらなきゃですよねー」


 マップを見ながら、そんな独り言を呟いていく。その言葉に答える者は誰もいないのだから、さっさと先に進みなさい! もうこのエリアでの上限Lvの、ライオンの頃ので言えば成長体Lv10のザリガニ相当になるヤマメは撃破済みだからね。


「まぁ行けば分かりますし、次のエリアへ進出です!」


 そう宣言し、サクラは次なるエリアへと進んでいく。果たして、その先には何が待っているのか……。『始まりの森林』……改め、新エリア名である『サクラの森』から西に抜けたこの渓流エリア。それを更に西へと直進していくのであった。



【4】


 エリアが切り替わり、目の前にはそれほど広くはないものの、川が繋がって流れている。まぁ川沿いに来たのだから、そこはある意味当然な景色だ。問題は……その先に広がっている光景だ。


「わぁ! ここも湿原エリアなんですか! わっ!? すぐにマップが解放されました!? え、なんで!?」


 おいこら、木のプレイ頻度はライオンよりも低いからって、こっちの仕様を忘れないでもらおうか! 踏破距離に応じてマップが解放されるのが基本的な仕様だけども、移動しない木に限っては『範囲拡大』のLvに応じてマップが解放される距離が決まるから!

 今の『範囲拡大Lv2』の範囲では、初期エリアを中心に1つの方向に対して約2~3エリア分はマップが解放されている状況だ。3エリアになるのは、北西だったり、南東だったり、初期エリアから直接は繋がっていないけど、距離的には離れていないエリアを含める場合である。


「あー、そういえばマップの解放は仕様が違ってた気もします? まぁ別にマップが解放されてるならそれでいいですね! とりあえず、ミニ桜を使って見渡してみましょう!」


 仕様が違うのを思い出したのはいいけども、そのままそんな感じであっさり流すの!? 有効範囲がどのくらいまでとか、その辺は少しは気にしよう!? 視聴者! ツッコミを入れられる視聴者を求む! ……無理か。


「ここ、随分と雰囲気が違いますねー? 一面、水だらけなんですけど……あ、『名も無き湿原』じゃなくて、『名も無き湿地』ですよ!?」


 微妙なエリア名の違いに気付きながら、サクラは周囲をグルっと見渡していく。ライオンで行った湿原エリアとの違いは、割と一目瞭然である。

 サクラの言ったように、ここは一面、水で覆われている。一部にそうではない部分もあるけども、まぁ大半が水で覆われているのは間違いない。


「……これ、進んでいく足場がないんじゃないです? あ、サギとかの鳥がいるので、浅いっぽいんですかねー?」


 浅いか、深いかは、まぁ正直、歩かない木では関係ない部分ではあるけども……。端的に言えばエリア全体が水に覆われている代わりに、どこも大体浅いのが湿地エリアとしての特徴だ。

 川の一部があふれ出たように、湿地帯を形成している場所である。水の透明度は高く、結構水中の様子は見て取れる。


「チラホラ見える草むらって、なんか見覚えがある気がします! 山麓エリアで、硬いカメが出てきたところと似たような感じですかねー?」


 似てはいるけど少し違うし、順番としては逆だから! この湿地エリアの一部が、山麓エリアという色んな要素と詰め込んだエリアに反映されているだけだから!

 あと、あれは沼エリアという別の水源をもつエリアの物だから、この場所ほどの水の透明度はない!


「……これ、桜の木で進めるんですかねー?」


 その心配は当然の事だし、木で進出に向いているエリアかと言えば……正直、向いてはいないエリアだ。まぁ進んで進めない訳ではないし、動かない木であれば、根で歩くよりはよっぽど向いているけども。


「まぁ何にしても、試していくだけですね! それじゃ改めて出発です!」


 気にしているようで、その実、大して気にしていない感じに移動を決定していくサクラであった。……進む方向を変えて、進みやすそうなエリアに行ってみるという選択肢はないんだね。



【5】


 エリアの大半が水で覆われた湿地エリアを、サクラはどんどんと進んでいく。進んでいくのはもちろん広げていく根の視点ではあるし、その移動は当然ながら湿地エリアの水の下となっていく。


「この移動、水中しか見えないじゃないですか!?」


 水中どころか、その更に下から見ているのだから当然な事に文句を言うんじゃない! 水上を見たいというのなら、それ相応の移動手段を使いなさい!


「新鮮と言えば新鮮な光景ですけど、これなら魚で見たかった光景です……」


 確かに魚が泳いでいく視点には近いけども、決して同じものとは言えないのも事実。というか、動かない木が特殊過ぎるだけの問題だからね、これ。普通の動物系の種族なら、まずこういう視点にはならないから!


「あ、景色ばっかり気にしてて、完全に使うのを忘れてました! 『看破』!」


 この景色を気にしてたのなら、もう少しライオンとは違った様子の楽しみ方をしてくれてもいいんじゃない? 水中の景色を見ながら進んでいくのも、決して悪いものではないよ?


「さーて、思ったほど広くもなさそうなので、サクサクと敵を倒しつつ、エリアボスを探していきましょう! んー、この広さなら完全踏破を狙うのもありですかねー?」


 水中の景色ばかりに文句を言うのは止めたどころか、今度は完全踏破を目指す事を考え始めたようである。……初期エリアの森林でも完全踏破をしようと言ってたはずだけども、今回は果たしてどうなるものか。



【6】


 水中の景色を進んでいくのがしばらく続き、今のサクラは絶賛戦闘中。戦っている相手は、Lv11の『堅牢なカメ』である。……地味に苦戦中だけども、まぁ当然と言えば当然か。


「『多根突き』! あー!? またですか!? 何度も甲羅に籠らないでくれませんかねー!?」


 根で刺す攻撃をスキルを変えて何度も繰り返してはいるけども、防御に徹しているカメにはまともな有効打を与えられていない状況であった。


「……うぅ、ライオンの『咆哮』が使いたいです! あれ、本当に便利だったんですね!?」


 使えない状況になって強く実感する、他の種族のスキルの有用性であった。……いきなり、硬いのが分かっているカメ狙いで戦闘をするのもどうかと思うけど。


「あ、やっと顔を出しましたね! 麻痺毒で『毒生成』! それで、今度は連撃は使いませんよ! 『根刺し』!」


 先ほどまでは無意味に連撃になる『多根突き』や『多根槍』で麻痺毒を使ったせいで、毒の成功率を下げてしまっていた。その結果、カメに防御を固められるという状況になってしまったサクラ。

 今度はちゃんと単発で麻痺毒を使い、カメは麻痺毒を受けて身動きが取れなくなっていく。これでまともに攻撃が通る手足と頭が剥き出しになった。


「無駄に時間がかかりましたけど、これで終わらせます! 『多根槍』! ……ふぅ、やっと倒せました」


 何度も攻撃は試みていたけども、変に焦って狙いを外したり、無駄に連撃で毒の成功率を下げたりして、妙に時間のかかった1戦であった。

 連撃では毒の成功率が下がるのは聞いていたはずなのに、完全に忘れ去っていた故の結果である。うん、その辺りは本当に気を付けようね?


「あー!? 無駄にカメを倒すのに時間がかかって、もう時間切れじゃないですか!? うぅ……全然育ってないですけど、今日はここまでです!」


 残念そうな表情の狐っ娘アバターではあるけども、倒す為に必要な手順を間違えたのだからそうもなる。次回の配信で、ここは視聴者さん達にツッコミを入れられるところだろう。というか、ツッコんでおいてもらわないと困る部分だ。

 という事で、今回の実況外のプレイは時間切れでここで終了である。サクラの桜の木の育成は、まだまだ先が長そうだ。

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