第446話 実況外の探検録 Part.22


【1】


 サツキが登場した前回とは違い、今回はいつも通りの狐をモチーフにした銀髪の九尾の狐っ娘アバターのサクラのみである。立派な机の前で正座をして座り、和やかに湯飲みでお茶を飲んでいる。


「……ふぅ、お茶請けにお煎餅でも欲しいですね。それにしても、やっぱりホッとする味です」


 開始早々に、何故か配信中に宣伝をしていたお茶を飲んで寛いでいるサクラであった。おい、開始早々に何をやっている!?

 こっちでも宣伝を入れる気なら、せめてその事を告げるか、宣伝用の表示を出そうか! 配信が終わった後に一旦配信用の和室を消しているからその辺の表示は消えているんだが、その事に気付いていないのか!?


「今は夏ですから季節じゃないですけど、お茶請けは蜜柑もいいですよねー? あ、そうなるとコタツも欲しいですし……」


 それ、真夏の今考える必要はある!? というか、実況外のプレイの開始前に悩む事じゃないから! せめて、夏らしいものの用意を考えようか!?


「このお茶、冷やしたらどうなるんですかねー? あ、でも実物がないからどうしようもないかも……」


 ツッコミ役不在の実況外のプレイ。毎回、開始時のこのサクラの録画という事への意識の薄さはどうにかならないのだろうか? ……やはり、視聴者の存在は必須なのかもしれない。


「あ、飲み切っちゃいました。もうこれで試飲データは最後ですし、今度はリアルで買いたいとこですねー! という事で、実況外のプレイ、開始早々ですが配信中でも紹介した『皐月堂』さんのご提供の美味しいお茶でした! 気になる方はこちらを……って、あれ!? 表示がない!? え、なんで!?」


 どうやら、普通に宣伝のつもりでやっていたようだけども、表示が消えている事には気付いていなかったというのが真相のようである。そして、今のが宣伝用に渡されていた試飲データの最後の1つだったようだ。


「あ、出しっぱなしにしてたサイコロも消えてるし……これって、配信の後に1回和室を消したからですかねー!? えーと、えーと、それじゃ……改めて、用意します!」


 慌てふためきながら、サクラは新たに宣伝用に浮かべる為の巻き物を用意していく。1度はやった作業だからなのか、迷う気配もなく手早く作業はしているけども……慌ててそれを用意している時点で、既に色々と台無しである。

 いや、これでこそサクラといった状況でもあるので、いつもの視聴者の方々にとっては決して悪くはない内容か。この状況を意図して作るのは、それはそれで困難だと考えると個性としてはありなのかもしれない。


「出来ました! 本当に美味しいので、米菓専門店の『皐月堂』さんで8月から発売のお茶、よろしければどうぞ!」


 慌てつつも、なんとか『皐月堂』の公式サイトへのリンクを貼り付けたサクラは、姿勢を正してお辞儀をしていた。……直接の店員ではないんだから、お辞儀までは必要ないのでは? まぁサクラが自発的にやる分については、特に問題はないか。


「さて、それでは実況外プレイを始めていきましょう! 晩御飯を食べ終わってからSNSを眺めながら考えてたんですけど、よく考えたら昨日の木の育成は中途半端なところで終わってたんですよね。という事で、桜の木の育成の続きをやっていきます!」


 今回は特に迷う事なく、桜の木の育成に決まっていった。まぁ前回はサツキがいた影響でプレイ時間が短かったし、新たなスキルを解放したばかりのタイミングで時間切れであったから、妥当な判断ではあるだろう。

 桜の木を育てるようになったから仕方ない側面もあるが、この実況外のプレイでライオンのLv上げと進化ポイント稼ぎをする事は減ったものだ。まぁそれが悪い訳でもないのだが……。


「それじゃ、実況外のプレイでの木の育成を開始です!」


 そうサクラが宣言し、モンエボの起動と種族の選択を終え、舞台はゲームの中へと移り変わっていく。



【2】


 配信用の和室から場所は変わり、渓流沿いの川辺の景色が広がっていく。サクラは特に意識はしていないが、根での視点の位置はゲームを終了しても自動で保持されている。まぁ分体のミニ桜は消えた状態にはなるが、そこは毎度生成すればいい事だ。


「さーて、渓流エリアを下流に進んでいるところでしたね! えーと、新しく解放したスキルは『多根突き』と『多根槍』ですね! この2つの性能確認からやっていきましょう!」


 根で歩く事には忌避感を示すサクラであるが、根で突き刺す攻撃を自分で使う事には全く忌避感はないようだ。この辺の感覚、どうなっているのかが少し気になるところである。


「まずは敵を探すとこからですね! これも解放出来ているので、かなり楽にはなりますよー! 『看破』!」


 ライオンでよく使うスキルの筆頭となっている『看破』は、もちろん桜の木でも有用なスキルである。むしろ、『看破』が有用でない種族は存在せず……同時に複数の敵に有効なため、『識別』は立場をほぼ無くしている。

 とはいえ、強力なスキルであることに文句を付けるプレイヤーもおらず、特に開発側からアップデートで調整を入れられている訳でもないスキルでもある。上方修正をされなかった『識別』は悲しい状態ではあるが、単体の性能としては決して悪い性能をしている訳ではないのが厳しいところ。


「あ、川から少し離れた所にLv10の『俊敏なトカゲ』を発見です! それじゃまずはこっちから! 『多根突き』! わっ!? あ、これ、1本ずつ刺していく場所を指定するんですね! 本数、3本ですか! とりあえず、1本目です!」


 連撃系のスキルになるから、そういう仕様となっております。屈強の『根刺し』は1本ずつ刺していくけども、それが複数本になっていくのが俊敏にある連撃系スキルの基本仕様。


「あ、掠っただけですか。……なんだか、1本の根刺しよりも根が細くないです? それに、狙うのが難しいです! 2本目! わっ!? 外しました! 3本目! わわっ!? また外しましたよ!?」


 連撃故に、単発よりも根が細く、攻撃範囲は少し狭くなっていてるのも仕様です。ライオンで使っている『連爪』や『連爪撃』も1撃ごとの威力は低めではあるけども、根まで細くなっているのは木の特有の部分ではある。

 まぁ俊敏系統の進化なのと、単純にトカゲのサイズが小さいという影響もあるけども……こういう時に大事なのは、外したとしても慌てない事である。慌てると、その分だけ集中出来ずに、命中精度は下がっていく。……ゲームの仕様としてではなく、プレイヤーの操作技術の問題である。


「……ふぅ、まぁ一方的に攻撃出来ているんで……って、待ってください!? 根を連続で引っ掻かないでください!? わー!? 根が引っ込めないんですけど!?」


 根での攻撃の共通仕様、攻撃に使った根はしばらく地上部分に残る。特に動かない木の場合は、少しのその時間が伸びる仕様。故に、木は根が弱点でもある。

 まぁそうでなければ、敵側が一方的に攻撃を受けるだけになるので、多少のデメリットがあるのは仕方ない。本数が多ければ根が細くなり、根が細い分だけ割とあっさりと千切れて攻撃を受けにくくなるという仕様でもあるけども。


「そういえば、木って根が弱点でしたもんねー!? でも、なんか途中からそうじゃなくなってましたし、対抗手段があるんですかねー!? とりあえずこれで! 麻痺毒の『毒生成』! それから『根刺し』です!」


 新スキルのお試しはどこへやら、これまで通りのパターンで麻痺毒を乗せた根でトカゲをひと突きである。それなりに使い慣れてはきているようで、こちらは正確に命中していた。


「ふぅ、こっちはちゃんと当てられました! ちょっと慣れが必要な感じですかねー? まぁもう1つも試して、使い慣れていきましょう! 『多根槍』! あ、こっちは5本まで行けるんですね。あ、さっきよりも根が細くなってません!? でも、鋭くもなってますね! どんどん、いっけー!」


 上位のスキルになるのだから、その辺は当然である。麻痺毒で動けなくなっているトカゲに、サクラは次々と木の根を刺していく。その攻撃であっという間にトカゲの生命は底をつき、事切れていった。


「ふっふっふ、今のでLv11に上がりましたね! でも、撃破で進化ポイント1なのと、Lvアップで進化ポイント2なのは、なんかしょぼく感じます……」


 そう感じるのはライオンでの基礎入手量は増えてるからだけど、そこは比較してもどうしようもないからスルーして! 1種族目をクリアしてない状況で、別の種族も同時にやれば避けようのない部分だから!


「まぁ桜の木も育てば増えてきますし、頑張ってそこまで育てましょう! さーて、次のエリアはなんでしょうか!」


 ふぅ、とりあえずはそういう事で納得してくれたようである。正直、ライオンをクリアしてから、1から育て直す方が早いんだけども……サクラへのネタバレは基本的に厳禁だ。まぁこの場には、そのネタバレをする視聴者すら存在はしないけども!

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