第407話 サクラの配信事情
昨日のお茶を美味しく飲んだ事でなんか変な事になってるみたいだけど……うん、決めた! ずっと続けてかはまだ決めないけど、今回のはやっちゃおう! あのお煎餅のお店のなら、1回やっちゃってるし!
「ありゃ? 美咲ちゃん、なんか決意した?」
「うん! 聡さん、とりあえず今回だけ宣伝を改めてやるのはありですか?」
「今回だけかい? まぁ1つずつは個別の案件にはなるから、それは問題ないけど……いいのかい? 一度引き受けると、後々で断りにくくはなるよ?」
「……もう既に遅い気もするので、そうなったらそうなった時です!」
というか、そんなに次々来るとも思えないし、多分大丈夫だよねー! 色々と説明はしてくれたけど、正直そこまで私に宣伝効果があるとも思ってないもん! お気軽に小遣い稼ぎくらいのつもりでやっちゃおー! 美味しいと分かっているお茶を飲むだけの簡単なお仕事です!
「それなら、報酬の話をしようか。……本来なら、先にこっちの話をしておくべきだったんだけどね」
「あはは、確かにそんな気もします?」
なんだかなし崩し的に引き受けるみたいな形になってるけど、順番は確かにおかしいもんね! そういえば、これっておいくらになるんだろ?
うーん、時給換算にはならないだろうし……やってもほんの数分もないよね? あ、でも宣伝ならお煎餅の時みたいに、ホームページを見れるようにはしておかないと駄目なのかも!
「正直、宣伝としては相当安めにはなるんだけど……こんなところだね。視界共有をしてくれるかい?」
「あ、はい!」
聡さんが何か操作してから、携帯端末のAR表示を共有化して何か見せてきたけど……これは何かの一覧みたい? なんか見えない部分の方が多いけど、見やすいように拡大されている部分が報酬って事かな? えーと、一、十、百、千、万……って、5万円!?
えぇ!? こんな額なの!? ただお茶を飲むだけなのに、こんなに貰っていいの!? 投げ銭よりも遥かに多いし、お小遣いよりも多いよ!?
「……あの、1桁ほど間違ってません?」
「まぁもっと有名所なら1桁どころか2桁、場合によっては3桁は増えるけど……」
「あ、そうじゃなくて1桁多くないです!?」
なんか私が少ないって言ってるように判断されちゃった!? というか、2桁や3桁増えるって……とんでもない事を言ってるよ!?
「いやいや、いくらなんでもそれは足元を見過ぎだよ。流石にその額を提示してくるのなら、友人であったとしても僕の方で初めから断っているからね。それに……まぁこれは葵のせいではあるんだけど、美咲ちゃんの配信の視聴者層は一部がとんでもない事になっているからね?」
「あ、確かにそれはそうでした!?」
コメントこそされてないけど、姉さんの同業者の方々が結構見に来てるんだった! 私が名前を知ってるくらいに有名な人達だし、そういう意味では宣伝効果ってかなりありそうな気がしてきたよ!?
「……でも、それって姉さんが直接宣伝したらよくないですか? 私を経由する意味ってあります……?」
「あぁ、そういう風にも受け取れたかい。まぁそういう側面も無いとは言えないけども……」
「聡さん、そこで区切ってこっちをじっと見るのは止めてー!? そこは本当にごめんなさーい!」
「……葵が絡んでいるせいで、評価基準が少し狂っているのは間違いないよ。だけど、それだけで留まってくれるわけがないのは……昨日の出来事で実感したんじゃないかい?」
「あっ……結月ちゃん!」
そっか、きっかけが姉さん経由だとしても……結月ちゃんは、私の『サクラ』を好きだと言ってくれたんだもんね。
それに姉さんの妹だからって、それだけの理由ではいくらでも他に娯楽はあるのに、わざわざ見に来てくれたりはしないよね。うん、ここはもっと自信を持っていいところなんだ!
「地味に気になったんだけど……美咲ちゃん、今の配信の登録者数は把握してるのかなー?」
「……え? あ、そういえば全然気にしてなかった気がする!?」
全然気にしてなかったから、ちょっと確認してみよー! えーと……どこから見ればいいの!? うがー! 管理用のページの見方がよく分かんないから、普通に見てただけの時の方から見てみよう!
えーと、『サクラ』で検索……って出てくるのが多いよ!? あ、でも意外とすぐに私のやつが見つけられた! ……あれ? 見つけられるのが早くなーい? まぁいいや、とりあえず登録者数の確認だー!
「……え? 登録者数、1500人近くいるんですけど!?」
待って、待って、待って!? 予想の遥か上の人数がいたんだけど、これってなんで!? 上の方は何桁も違うから比較すれば少ない方なんだろうけど、私的にはとんでもない人数だよ!?
「まだまだ上はいるけど、美咲ちゃんの配信は充分誇っていい数字にはなってるからね!」
「そういう事になるけど……まさか、そこを把握していなかったとはね。個人でもフルダイブでの配信が可能になって間もないから、申請の為の最低ラインは設置されてない段階だけど……旧来のサイトで考えれば、広告収入を得られるようになる最低ラインは超えているし、広告収入も高くはなくとも利益自体は出ているんじゃないかい?」
「え、そうなんです!?」
そういえば、投げ銭の事しか気にしてなくて、広告収入があったのは完全に忘れてたよ! えっと、どこで見ればいいの、それー!? うがー! さっぱり分かりません! あ、そういえば兄さんが前に作ってくれた謹製マニュアルがあったはずだし、それを見ながらやってみよう!
マニュアルは……うん、これだー! えっと、それで広告収入を確認する場所は……おぉ、ここだね! それで金額は4000円くらい……うん、まぁそんなもんだよね。
「……思ったほどの金額ではなかったですねー。投げ銭の方が多いです!」
「リアルタイムの配信がメインだし、リアルタイムでは広告が付かないのも影響してるだろうね。それと投げ銭は結構ハードルが高いんだけど、まぁ美咲ちゃんが熱心なファンを掴んだという証拠でもあるよ」
「あ、そうなんですか!」
という事は、この広告収入は保存してるアーカイブと実況外の配信プレイでの物! というか、よく考えたらまだ2週間も経ってないんだった!
あれ? 下手にアルバイトするよりもお金が稼げてなーい? そういう目的はあったけど、なんかこんな形で順調な感じだと怖くなってきたよ!?
「うんうん、初めは怖気付いちゃう気持ちはお姉ちゃん、良ーくわかる!」
「あぁ、そういえば葵も一番最初に評価が急激に伸びた時には右往左往していたね。初めは自慢気にみんなに話していたけど、途中から我に返ったのか一気に弱気になって――」
「わー!? 聡さん、それは言っちゃ駄目ー!?」
え、姉さんでもそんな時ってあったの? ……あ、そっか。姉さんは今でこそプロだけど、プロじゃない時期だってあるのは当たり前だよね。プロになったばかりの頃に自信を無くしかけてたとか、昨日言ってたし……。
「とにかく、美咲ちゃん! 何かをやろうとして、その先に進んでいくなら必ず通る道だから!」
「ここを通らない場合は、そもそも先に進めていないからね。僕から忠告しておくとすれば……この段階で調子に乗らない事だよ。自惚れは、成長を阻害する事があるからね」
「……はい!」
聡さんからのこの忠告は、本当に大事な事のような気がする! ただの思い付きで始めたモンエボの配信だけど、なんだか遠いところに来ちゃった気がするなー。
でも、これからも続けていくなら自惚れは駄目って事だよね! うん、そこは本当に胸の奥に刻み込んでおこう!
「さーて、美咲ちゃん! なんか長話になっちゃったけど、早く朝ご飯を食べちゃおう! それから時間のある限り、教えられる事を教えていくからねー!」
「はーい!」
これから先がどうなっていくかは分からないけど、私は私なりに頑張っていくまでだよね! 無自覚だったとはいえ、自分が作った物をまた見せられるようになったんだもん。
モンエボの配信もやっていくけど、『サクラ』を筆頭に色々とデザインの方も頑張ってみようっと! それで姉さんが用意してくれた最新の……あ、そっか!
「あの、聡さん、お茶の分の報酬なんですけど……」
「ん? まだ何か分からない点でもあったかい? あぁ、支払いなら――」
「それなんですけど、姉さんが買って……ううん、貸しになってるアプリの……えっと、アカデミック版でしたっけ? そっちに代金に回してもらって良いですか? それでも金額は足りてないですけど……」
「それはいいけど……いいのかい?」
「はい! 姉さんは出世払いに期待って言ってましたけど、私なりの頑張る決意表明って事で!」
「葵、そういう事みたいだけど……それでいいかい?」
「私は美咲ちゃんが前向きに頑張るなら、それを応援するのみだよ! 必要とあらば、力も貸すよー! いつでも衣装が必要なら言ってくれていいからねー!」
「真面目な話をしてるのに、なんでそっちに持っていくの!?」
「なにおう!? これだって私にとっては大真面目な話だから!」
むぅ、姉さんは自慢の姉だけど、どうにもこういう所だけは微妙なんだよね……。姉さん的には『サクラ』の着せ替えが大真面目な内容という事自体が、私にとっては何とも言えない悩みの種だよ!
色々と私の自覚が足りてなかったのは分かったけど……なんでそんなに『サクラ』の着せ替えに拘っているのかが分かりません! しかも、同業者の方達まで一緒になって狙っているのが、尚更分かんないよ!
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