第370話 お昼を食べに
なんだか色々と重要な話を聞いて、気持ちの整理はし切れてない。し切れてないけど、ちょっとずつでも自分の中で整理していこう! うん、そこは頑張る!
それにしても……高速道路を降りて少ししたら私が通ってる高校の近くに来たんだけど、なんで? 確かに駅から近いし、色んな会社もあるとこだけど……その付近の定食屋って、普通に見覚えがありそうな予感!
「あのー、姉さん?」
「ん? どうかしたの、美咲ちゃん? なんだか不思議そうな顔をして……って、そういえば美咲ちゃんが通ってる高校ってこの近くじゃなかった!?」
「そう、それ! そこがびっくりなんだけど!」
「え、そうなのかい?」
「よーし、高校を見に行こー! 聡さん、進路変更!」
「いやいや、辿り着く時間は大体伝えてあるからね? 帰りならともかく今は――」
「大丈夫! 今、場所を調べたら目の前を通るみたい!」
「え、そうなの!?」
「なんというか……凄い偶然だね」
「……みたいですねー」
本当にびっくり! まぁ通ってる高校を見られたところで問題はないし、別に姉さんの母校って訳でもないから入るのは無理なはず! 姉さんが車の中から通りすがりに見ていく分には問題ないのですよ!
でも、休日に学校の近くまで来るとは思わなかったなー。思いっきり見覚えのある制服を着てる人がチラホラ見えるし、部活帰りとか、これから部活とかかな? まぁそれはどっちでもいっか! 別にそういうのやってる友達もいないし!
「……そういえば、高校の制服姿の美咲ちゃん、地味に見た事ないなー?」
「え? あ、そういえばそんな気も?」
「お姉ちゃん、美咲ちゃんの制服姿、ちょっと見てみたいなー?」
「それはお断りで!」
「えー!? 即答なの!?」
「わざわざ着替えるのが面倒だもん!」
入学当初ならまだしも、今は高校2年の夏だから新鮮味もないもん! まぁ確か私の入学式辺りでは、姉さんは盛大に忙しくしてた時期だった気はするけども!
「よーし、それじゃ『サクラちゃん』の方の制服データを作って――」
「それって断ったよねー!?」
「ふっふっふ、少し断られたくらいでは私は負けないよ! 同志だって沢山いるしね!」
「……誰が同志なのか、聞くのが怖いんだけど!?」
姉さんの同志って、つまりはいつもコメントこそないけども試聴しているプロの方達の誰かのはず! 名前を知ってる人が何人もいるけど……その中の誰かに狙われてるんだよね、私!?
むぅ……喜ぶべきか、警戒すべきなのか、この件はよく分からないよ! 姉さんみたいに女性ばっかでもないはずだし……かと言って、女性で同性だから安心して良いってものでもないよね!?
「葵、そこまでだよ。美咲ちゃんが受け入れない限り、その件は許可しないと言ったよね?」
「……はーい」
「それでよろしい。すまないね、美咲ちゃん」
「助かります……」
興味本意で姉さんの同志が誰なのかは……知らない方がいい気がする! 聡さんがストッパーになってくれているんだし、ここはもう何も知らなかった事にしておこう! うん、そうしよう!
「さて、そろそろのはずだけど……駐車場はないんだったよね? 確か裏にある家の方に停めさせてくれるって話だったと思うけど……」
「えーと、多分この辺だと思うんだけど……。うーん、家の方は分かりにくいって言ってたし……この辺の土地勘ないんだよねー。一応、ナビのAR表示はしてるけど……」
んー? この辺で駐車場の無い定食屋って思いっきり心当たりがあるよ? もしそうなら、その裏の家に繋がる道って……私の通学路にしてる道のような?
でも、携帯端末でナビ機能を使ってるなら特に言わなくてもいいのかな? 工事や事故でも発生してない限り、ナビ機能は優秀だもんね!
「あ、今のが美咲ちゃんの通ってる高校だね! ふむふむ、あれがここの制服かー。『サクラちゃん』への衣装が駄目なら、美咲ちゃんのプライベート用の衣装データとして使うのはどう? ほら、私の作った和室の方で!」
「いらないよ!? なんで家のVR空間の中で制服を着なきゃいけないの!?」
「むぅ……美咲ちゃん! 高校の制服を堂々と着れるのは、高校生の間だけなんだよ? そこは大事にしよう?」
「姉さんが何を言ってるのか、よく分かんないよ!?」
なんか姉さん、盛大に暴走してない!? 私の高校の制服姿がそんなに大事なの!? そりゃ高校を卒業したら高校の制服は着なくなるだろうけど……それって当たり前な事じゃない?
「葵、もう到着するから変なスイッチは切っておきなさい。ここを左折して、次を右折で……」
「はーい! あ、そこだね!」
「あ、やっぱりここなんだ?」
うん、思いっきり見覚えのある道! このまま真っ直ぐ北に進むと駅に着くんだよねー! さっきまで聡さんが運転してた西にある道は広めの道路で店も多めに並んでて、こっちは狭い裏道! こっちの方が影が出来やすいから、夏の暑さを凌ぐのにはいいのですよ!
「あれ? この辺、美咲ちゃんは知ってる感じなの?」
「この先を少し行けば駅があるし、さっきの高校に通っているなら……ここは通学路かい?」
「はい、そうなりますね!」
「おぉ、そうなんだ! という事は、美咲ちゃんはこのお店を知ってた!?」
「うん、知ってた! 食べた事はないけど……」
お昼はいつもお母さんがお弁当を用意してくれているから、食べに行く機会ってないんだよね。昼休み中に戻ってくれば別に外で食べてきても問題ない事になってるけど、私はそういう事はしないしねー。
というか、ここに来るのなら電車で来る方が早かった気がする。家も、ここも、駅から徒歩圏内だし。あ、でも電車のタイミング次第では待ち時間でもっと時間はかかる可能性はあったかも? 車の中みたいに、色々と話す事も出来なかっただろうし……。
「あ、手を振ってる人がいるよー? あれが姉さんの友達?」
「うん、高校の頃の同級生! 少し前に子供が産まれたって聞いてたのもあってねー! 昨日のプチ同窓会には来れなかったから、こっちから行く事になったの!」
「おぉ、そうなんだ!」
そっか、手を振ってる女の人の後ろで、旦那さんらしき人が赤ちゃんを抱えてるのはそういう事なんだね! ……そのうち、姉さんにも子供が出来たりするのかな? もしそうなったら、私は叔母さん!?
未成年で叔母さんってなんか複雑な気はするけど、結婚してるんだからそういう事になる可能性もあるよね。……まぁその辺をわざわざ聞こうとは思わないけども!
聡さんが車を停めてるけど……そんな機会に私がお邪魔しちゃっても良かったのかな? 色々と聞いておきたい事があったとはいえ、遠慮しておいた方が良かったのかも? 兄さんとか、その辺の配慮をしてそう。
「花苗、元気にしてたー!?」
「元気も元気よ、出世頭かつイチャイチャカップルで真っ先に入籍した葵さん? 聡君も久しぶりだね。それと、そっちの子が例の葵の妹さん?」
「あ、はい! 美咲って言います!」
「うん、美咲ちゃんねー! 葵から何度も聞かされてたけど、可愛らしい子じゃない! よーし、お姉さんが美味しいものをいっぱい食べさせてあげましょう! 葵も聡君も、思う存分食べていってね!」
「もちろんそのつもり! あ、ちゃんとお金は払うよ?」
「え、別に葵からお金を取る気はないんだけど?」
「そういうところはしっかりとしないと駄目なんだよ!」
「え、高校の頃とは大違いな反応!? これが聡君と結婚した影響か!」
「……あはは、これでも苦労してるんだけどね」
姉さんは私の事をどんな風に言ってるんだろ? 思いっきり歓迎してくれてるみたいだけど、なんか私だけ蚊帳の外な感じが凄いなー。……やっぱり、家にいればよかったかも。
ん? お店の方に移動してると、誰かが車を停めさせてもらった家の方から出てきた? 何か持ってるけど……って、どこかで見た事があるような……?
「あ、あの! 『立花サナ』さんですよね! 大ファンなんです! サ、サインを貰えませんか!?」
「……ありゃ? 別に顔は隠してないけど、こんなに直球に来るって……ねぇ花苗、この子は?」
「あはは、私の妹なんだけど……熱狂的過ぎて、その本人と友達だってつい言っちゃった? どうせ顔を見たら気付くと思ってたけど……まずかった?」
「んー、それくらいなら別にいいかな。いいよね、聡さん?」
「……まぁ別に顔を隠して活動してる訳でもないし、大々的に広めたりしないのであれば問題はないね。ただし、本名までは公表しない事を条件にするけど、それでいいかい?」
「あ、はい! ……って、あれ? 櫻井……さん?」
「「「ん?」」」
あれ? なんで私の方に視線が集まるの? 櫻井って姉さんも……あ、今は結婚してもう苗字は違うから、ここにいる櫻井は私だけだー!? えっと、見覚えはある気はするし、同年代くらいだけど、この子って誰だっけ……?
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