第290話 実況外の探検録 Part.15


【4】


 夜の帳が間もなく降りるのを知らせる、赤く染まった空の下。電気を纏うライオンが森の中を駆け抜けていく。


「わー!? もう夜になりそうじゃないですか!? うぅ、こっちも引き離せない!? 『放電』『放電』『放電』!」


 駆け抜けていくは正しい表現ではなかったかもしれない。サクラのライオンの背後から迫る、Lv22の強烈なクマから必死で逃げているというのが正解だ。

 四足歩行になって駆けるクマと、それから逃げるライオン。夕焼けの中、そんな光景が繰り広げられている。


「攻撃の威力が高過ぎなんですよ! 『放電』『放電』『放電』!」


 チラチラと背後を振り返りながらも、サクラは逃げつつ放電で攻撃をしている。だが、その放電の命中精度はあまり良くはない。

 まぁお互いに木々を避けながら森の中を走っている為、大雑把な狙いになるのは仕方ない事か。その位置すらもズレる事が発生している。走りながらでは、よっぽどの命中精度が無ければこの事態は避けられない。


「なんでこんなに当たらないんですかねー!? 『放電』『放電』『放電』!」


 肝心のサクラは、当たらない理由は全然理解出来ていないようだが……。疾走で逃げてしまえば良いように思えるが、それは既に実行済み。サクラが疾走を使うと、クマも疾走を使い始めるので、なんの解決にもなってはいない状態である。

 そして、ひたすら逃げてながら攻撃をしている理由は……既にサクラの残り生命が1割を切っているから。……まぁ単純に、止まって攻撃を受ければ高確率で死ぬ。そういう状態。


「あ、再使用時間が過ぎましたね! 今度はちゃんと狙って……『咆哮』! よし、やりました!」


 1回前に発動した時は焦ってタイミングを外してしまい、不発に終わっていた咆哮。それが今回はちゃんと止まって発動した事で、しっかりと命中してクマを萎縮させている。

 逃げまくっていたサクラだが、それでも放電を外しつつも半分くらいは当たっていた。だから、その分だけクマも弱っている。


「ふっふっふ、散々追いかけ回してくれましたね! これで終わりです! 『爪撃』『連爪』!」


 そうして始まる、サクラの大反撃。心の中でいつものように『うりゃりゃりゃりゃー!』と叫びながらの爪での連続ひっかきが、クマの生命を次々と削っていく。だが、中々頑丈なクマの生命は削り切れていない。


「地味に硬いですね、このクマ! だったらこれです! 『強牙』『体当たり』!」


 次に繰り出すのは、最近の定番のコンボになっている『強牙』で噛みついてからの『体当たり』での吹き飛ばし。だが、当たり前の話ではあるけども、吹き飛ばせるのは体格差があっての事。

 クマとライオンでは極端な差はなく、このクマに至っては堅牢が高めな事もあり、吹き飛ばし効果を軽減するスキルも持っている。まぁこの辺りはサクラは把握していない事だが。


「吹っ飛ばないですね、このクマ!? でも、これでトドメです! 『噛みつき』!」


 それでも萎縮の効果が大きく、無防備なクマへと連続で攻撃を叩き込む事には成功したサクラ。これでなんとかクマは撃破である。

 いやー、危ない、危ない。疾走からの体当たりでもされていれば死んでいたけども、そういう行動パターンは無い相手で良かったね。出血効果も受けていなかったのも幸いなところだ。


「ふぅ、今のでLv23に上がりましたね! えーと、進化ポイントは……おぉ、40になってます!」


 クマとの戦闘が始まる前に、Lvこそ上がらなかったものの何体か敵を倒していた成果である。まだ進化の為に必要な量には足りないが、それでもかなり溜まってきているものだ。

 Lvが上がるのが遅かったのは、単純に自分よりも格下の敵との戦いが多かったからである。まぁ格下との戦闘であれば経験値が減るので、この辺は仕方ない事だが。


「……とりあえずHPを回復させなきゃですねー。レンコンを齧りましょうかー」


 思った以上に移動に時間がかかっている状況に少し落ち込みながら、サクラはレンコンを齧って生命を回復させていく。狐っ娘アバターの表情は、しょんぼりと落ち込んでいる様子。相変わらず表情豊かなアバターなものだ。

 逃げ回ってたのが真っ直ぐ東のみにだったらよかったのだが、流石にそういう訳にもいかなかったのが現状だ。……この調子だと、木の育成時間はあまり残ってなさそうである。



【5】


 完全に日が暮れて、夜の森へと変わっていった。そんな中をサクラのライオンは駆けていく。目的地まではあと僅か。


「やっと到着です! わわっ!? もうあんまり木の育成をする時間が残ってないじゃないですか!?」


 Lv22の強烈なクマを倒した事でLv23になったサクラは、威嚇と疾走を活用して移動のみに専念して、目的地までようやく辿り着いた。Lv22までの敵しか出てこないのだから、威嚇で全ての敵が追い払える状態で移動はスムーズだった。だが、それまでの時間ロスは消えてしまう訳ではない。

 まぁ始まりの森林の東端に来る事と、進化ポイントを稼ぐという目的自体は達成しているのだから問題はないだろう。


「えっと、とりあえずこれでライオンの方は目的達成です! ちょっとですけど、木の方の育成もやってきますねー!」


 もうサクラが寝る時間は近く、木の育成は殆ど出来ないだろう。だが、少しくらいは木の様子を見ておきたいようである。やり過ぎて寝るのが遅くならないようにね。



【6】


 操作する種族がライオンから桜の木へと変わり、ゲーム内の時間は昼間である。まぁセーブデータが別物なのだから、当然ではあるが。


「さて、少しですけど木の方もやっていきましょう! まぁあんまり育成は出来そうにないんですけど、ちょっとやってみたい事があるんですよねー!」


 サクラなりにやりたい事があるようだが、何をやりたいのだろうか。まぁその辺りは少し様子を見てみよう。


「ふふーん、それじゃ視点移動モードでやっていきましょう! 今回は時間が無いので、戦うのは無しで!」


 そう宣言して、サクラは根に沿って視点を移動させていく。その迷いのない動きは、明確に何か目的を持っている様子だ。

 目的があるのはいいけど、ツッコミを入れてくれる視聴者さんはいなんだから、その辺ははっきりと言っておこうね?


「うーん、視点の高さが違うと、ライオンでいる始まりの森林との違いって分かりませんねー?」


 まぁそこは当然の話。今の木での視点は、地面を這うように動いている視点だから、ライオンの視点とは根本的に違ってくる。種族の違いで大きさが変われば視点が大きく変わってくるのがモンエボの大きな特徴でもあるのだから。

 というか、そういう発言をするという事は、サクラの確認したい内容は同じエリアであるという事か?


「まぁ同じでも別でも、それはどっちでもいいですね! それは明日の配信でエリア名を決めた後に分かる事ですし!」


 って、同じエリアかどうかの確認が目的ではないのか!? そうだとすれば、サクラは一体何を確認したいというのだろうか?


「それにしても、中々水場が見つかりませんねー? 森には大体水場があるって言ってたと思うんですけど……まぁマップの完全踏破をしてる間に見つかるはずです!」


 そう言いながら、サクラは視界をどんどんと迷いなく動かしていく。なるほど、マップの完全踏破を狙いつつ、水場を探していくのが目的か。動かない木で、初期エリアでやるのなら進化ポイント稼ぎとしては良い狙いではある。

 良い狙いではあるんだけど、その辺の説明はちゃんとしなさい! あぁ、ここはまた明日の配信で視聴者さんにツッコミを入れられる部分かもしれない。いや、逆に変な行動はいつもの事過ぎてスルーされる可能性もあるのか。


「おぉ、湖を発見です! 見た目は似てますけど、なんかマップの湖の位置が微妙に違う気がするので、やっぱり違う場所ですかねー?」


 そうこうしている間に、サクラはここの森の水場へと辿り着いていた。自信がなさそうに言うのなら、今無理に確定しようとしないでいいからね?

 それはそうとして、湖の畔には色々な種類の敵が集まっていた。イノシシ、シカ、クマ、オオカミ、タヌキ等など。その他にも湖の中にも魚の敵が悠々と泳いでいる様子。ライオンで辿り着いた湖ではエリアボスのタカに仕留められていて見れなかった光景である。


「あ、もう時間切れですね。この辺は何か色々いますけど、倒していくのは次の機会にやりましょう! ……色々やりたかったですけど、時間が有限なのが厳しいですねー」


 ライオンの方の移動に時間がかかってしまった為、今回はここで時間切れのようである。まぁどうしても時間の限りは存在するのだから、この辺は仕方ない。


「それでは今回はこの辺で! また明日の配信でお会いしましょう!」


 狐っ娘アバターが少し残念そうな表情を浮かべながら、今回の実況外のプレイは終了となった。桜の木の育成は全然進まなかったけども、まぁそういう時もある。次の実況外でのプレイでは、がっつりと育成出来る事に期待しよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る