第121話 揺れる心


「……むぅ、どうしましょう」


 姉さん……サツキさんが盛大にネタバレをしてくれたせいで、迷いがー!? 看破ってそんなに便利なの!?

 うぅ、気になる! 思いっきり気になる! でも、ここで進化ポイントの大幅消費は折角溜めてきたのが台無しにー!


「看破……看破ですか……」


 あぁ、つい知恵のスキルツリーを見ちゃう。もし取ったとしたら、進化ポイントはどれだけ残るんだろ?


ミツルギ : あー、スキルツリーを見始めちゃったか。

金金金 : 思いっきり葛藤してるのが、狐っ娘アバターの表情に出てる……。

イガイガ : 気にするなって方が無茶だよな。

ミナト : ……あれ? 進化ポイント、そもそも足りてる?


 ん? ミナトえっと、ちなみに今は知恵のスキルツリーは第2段階の識別まで解放で、第3段階で5、第4段階で7、第5段階で10、第6段階で15だから……進化ポイントが37ほど必要だね。そして、今ある進化ポイントは36……。


「って、地味に足りないじゃないですかー!?」


 これ、惑わされ損だー!? 絶妙に1足りないとか、あと1体でも敵を倒せば達成できるっていうのが実に嫌なライン! うぅ、姉さんめ、変に選択肢を増やしてくれちゃって、どうればいいのー!?


サツキ : あれ、ちょっと足りてなかった!? よーし、それじゃサクラちゃん、無かった事にして続きをやっていこー!

いなり寿司 : 無茶振りー!?

チャガ : いや、無理があるだろう、それは。


「サツキさん、無茶を言わないでもらえませんかねー!?」


 ぐぬぬ、我が姉ながらなんともマイペースな! うぅ、ここはどうやって乗り切ろう? あぁ、私の中の天使と悪魔が囁いてるー!

 『ほーら、サクラちゃん! 看破は便利だぞー!』『いやいや、ここは忘れて予定通りにいこ? ね?』って、どっちも姉さんのイメージなのはなんで!? ……両方姉さんが言ったからかー。


「……とりあえず1戦は関係なしに動けるので、もう考えないことにします!」


 どうするかはその後の私に託す! 今考えても結論は出ないし、未来の私に丸投げだー!


「って、もう放電が最大まで溜めになってるじゃないですか!?」


 うがー! 変に惑わされてたら、いつの間にか放電を使わなきゃ無駄撃ちになる状態になってるよ!? えっと、えっと、近くに敵は!?


「あ、蛾が集まってきてますね! でも、一般生物と敵の区別がつかないです……」


 今回はカブトムシやクワガタが見当たらないけど、なんか妙に蛾が沢山だー! こう見ると本当に誘蛾灯になった気分!


ミナト : えっと、成長体の敵は2体かな。

サツキ : 『屈強』が1体と、『俊敏』が1体だねー!

ミナト : あら、先に言われちゃった。

咲夜 : え、サツキさん分かるの!?


 あれ? 姉さん、分かるの? いやいや、そっちに注意を向けてる場合じゃなーい! えっと、とりあえず2体ほど成長体はいるんだね!


「いるのが分かっても、どれか分からなかったら意味がないですよねー!? まぁいいです、今回は一般生物も含めて全部に当てるまで! いっけー!」


 結局見分けが出来ないし、識別じゃ群がってる全ての蛾を識別は出来ないから無差別にやるしかない! という事で、全部に当たる様に狙いを付けて放電開始!


 よし! 2体だけ残って、一般生物の蛾は全部倒せた! 残ってるのが成長体の蛾だね!


サツキ : 蝶は羽の表に白い模様があれば『俊敏』、裏にあれば『屈強』だよねー! 裏の場合は『器用』と見分けがつきにくいけど、『器用』は近付いてこないから、これは『屈強』! 蝶と蛾は基本的に一緒だから、判別方法も一緒!

富岳 : ほう? この状況でそこを見極めたのか。

金金金 : そういう見分け方があるのか。

ミナト : なんだか私、サツキさんとは仲良くなれそうな気がする!


「なんか私が置いてけぼりになってません!? というか、蝶や蛾の裏表って、どっちがどっちですかねー!? わっ!?」


 とりあえずなんか妙に突っ込んできた蛾の回避ー! ……つい反射的に後ろに飛び退いちゃったけど、今回は木に当たらなかったからセーフ! うぅ、まだ慣れないね、森での回避。

 放電でどっちの蛾もHPが1割くらい削れたけど……うぅ、折角最大まで溜まってたのに結構な数の一般生物にも分散しちゃったらこんな威力……。


「とにかく、今は1体ずつ仕留めます! 『咆哮』!」


 まずは突っ込んできた方の蛾を咆哮で怯ませる! うん、成功! よーし、それじゃこっちから倒すぞー!


「『噛みつき』!」


 ふっふっふ、『知恵』がいないなら多分噛みついても毒は大丈夫! ……大丈夫だよね? 多分、大丈夫なはず!

 ……噛みついてからなんか不安になってきた。ううん、咆哮で怯んでいる間は大丈夫さー! それにしても、もう1体の方が私の周りを飛び回ってるよー!?


ミナト : えっと、広げてる方が表で、閉じてる方が裏だね。サクラちゃんが今噛みついたのが、屈強だよー!

ミツルギ : 周囲を飛んでるのが俊敏だな。連撃があるから、気を付けろー!


「あ、こっちが『屈強』なんですね! というか、どういう攻撃をしてくるんです!?」


 今咥えてる蛾は体当たりしてきた感じだけど、体当たりってライオンだと堅牢だったはず。蛾の屈強や俊敏での攻撃は何!?


「わっ!? わわっ!? あ、切れました!?」


 俊敏の蛾が一気に距離を詰めてきたと思ったら、羽で切られたよ!? あの羽、切れるの!?


咲夜 : 答える前に答えが出た。

ミツルギ : まぁ見ての通り、羽での斬撃だな。器用や知恵は特殊な効果のある鱗粉を飛ばしてくる。

いなり寿司 : 知恵で毒持ちの蛾は割と面倒だな。遠距離攻撃が多くなってくるし。


「あ、そういう感じなんですね!? わっ、わっ!?」


 ぐぬぬ、一か所に大人しく留まっていたら俊敏の蛾の攻撃の餌食になるね。全身で体当たりかと思ったけど、そうじゃなくてすれ違い様に羽で切っていく感じの攻撃みたい。

 しかも連撃なら、外してもすぐに向きを変えて再突撃……避けるのが地味に面倒だよ、これ! 体格の差もあるし、躱しても背後に回られてるから、私自身がすぐに向きを変えなきゃ対応が出来ない!


「うぅ、この蛾、地味に戦いにくいですよ!」


 いつまでも咥えてる蛾を噛み続けられる訳じゃないし、これはかなりやりにくい! うがー! 今こそ放電が使いたいけど、まだ再使用時間ー! しかも最大まで溜めてたから長めー!


「わっ!? 噛みついてた方も暴れ出しましたよ!? 痛!?」


 いや、実際に痛い訳じゃないけど、ライオンの口の周りを羽で切られた! うぅ、この蛾は噛みついておくのも危険そうだから、即座に離さないと!


 羽で切ってくるとは思わなかったから、羽ごと噛みついちゃったのは失敗だったね。うーん、ここからどうしよ? さっき斬られたのは結構HPが削られたし、威力が高いよね。流石は屈強での進化……。


富岳 : 苦戦気味だな。

チャガ : まぁ相性が悪いとこではあるしな。同時に2体相手なのも良くない。

いなり寿司 : さて、どうなるか。

咲夜 : 小型な種族相手には、大型種族の攻撃は当てにくいもんなー。


「うぅ、雷纏いの再使用時間はまだですかー!?」


 あれがあれば麻痺させて動きを止められるのに、まだ数分は使えないのが痛い! 便利過ぎるからこその制限だろうけど、もっと使わせてー!

 蛾の動きが早いから、爪での攻撃は上手く当てられる気がしないし、体当たりとか投擲も同じ理由で多分無駄撃ち。


 攻撃してくる瞬間、ダメージ覚悟でカウンターを狙ってみる……? あ、カウンターで良い事を思いついた! これで狙うなら……噛みつきでHPがもう半分は切っている屈強の蛾の方!


金金金 : お、サクラちゃんの狐っ娘アバターがしたり顔になった!

ミツルギ : なんか思いついたか。

神奈月 : さて、どうなるか。

サツキ : サクラちゃん、ファイトー!


「はい! まずは片方、仕留めます!」


 カウンター狙いだから、集中していかないと。タイミングが重要だし、狙ってる事は更にすぐに見極めなきゃだしね。……思いついたものの、上手くいくかな? まぁいいや、ともかく素早い俊敏の蛾は多少のダメージ覚悟で無視!


 さぁ、標的の屈強な蛾、その羽で私を切り裂きに突っ込んでこーい! そこにカウンターを入れてやるのさー!


「よし、来ましたね!」


 ふっふっふ、私が待ち構えてるとも知らずに、私の真正面へと突っ込んできた! まだちょっと距離があるから引き付けて……うがー! 俊敏の蛾は、集中してる時に背中を切りつけてくるなー!


「今です! 『識別』!」


咲夜 : え、なんで識別?

いなり寿司 : ……はい?


 今回は識別が目的じゃないのさー! 追撃の衝撃波生成をありで識別を発動!


『屈強な蛾』

 進化階位:成長体

 Lv:13


 今は識別情報はどうでもいいの! もうそこは姉さんが教えてくれてた部分だから無視! さて、これでどの方向に吹っ飛ばされる?

 えっと、蛾は上方向に叩き飛ばされる感じで衝撃波が発生したね! ふっふっふ、それなら、その上から叩き潰すのですよ! 右前脚でこれだー!


「ここです! 『振り回し』!」


 攻撃の際に羽に触れて少しライオンの前脚が切れてダメージを負ったけど、そこは気にしない!

 そんな事より、ちゃんと攻撃を当てられた事と、そのまま地面に押し潰せたのが遥かに重要! でも、まだ死んでないね!


「これでトドメです! 『爪撃』!」


 直前までは右前脚で蛾を押し潰したまま、左前脚の爪を振り下ろす! 当たる瞬間に右前脚を退けて……いっけー!


<成長体を撃破しました>

<進化ポイントを1獲得しました>


「ふっふっふ、1体撃破です!」


咲夜 : え、何が起きた?

神奈月 : 衝撃波で、敵の攻撃のタイミングをずらしたのか。

ミツルギ : そうっぽいな。……方向が読めないから難しいはずだけど。

サツキ : サクラちゃん、お見事!

富岳 : 今のはタイミングの見極めが難しいが、上手いやり方だったな。

ミナト : サクラちゃん、もう1体いるからまだ気は抜かないように!


「はい、それは分かってます!」


 ここで折角1体倒せたのに、もう1体に負ける訳には行かないよね! もう1体の蛾も倒すのさー!

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