第3話紅桜

 ザッ!


 身体が戦闘態勢に入り、兄様の両手にも破邪の札が握られる。


「薄紅。まだ抜くな」


 胸の前で両手の平を合わせる私の前に立ち、小さな声で伝えて来る。

「あの一体だけではない」


 背後に二体。


 兄様と背中を合わせ、暗く生茂る林を見据える。


 私が気付いた事で、林の闇の中で殺気が膨れ上がった!


 避ければ兄様の背中を穿うがつ。


 パンッ!


 胸の前で合わせた手の平。

 その中心に刀のつか感じ取る・・・・

 開いた手の平の間に小さな紅い稲妻が散り、次の瞬間には右手に握る刀の鞘が、私の左手の平から刀身を引きずり出すっ。


 ギイイィィィンッッ!


 速さは居合い。

 普通に鞘から抜き放つのと大して変わらないだろう。


 抜ききる刃がしなる暗器を弾き飛ばす。


「神刀〈紅桜〉参る」



 抜刀を合図に、緑陰の手刀が四縦五横に九字を切る。

「破邪っ」

 印を切り、念を込めた破邪の札は緑陰の手元を離れると、チリチリと蒼い火花を散らしながら、和紙とは思えぬ勢いで大岩の上の妖魔を追う。


「破っ!」

 なおも枚数を増やす札に、妖魔は大岩から身を投げ出すと鋭い爪を岩に立て滑り落ちて来るっ。


 チリッ!


 その爪先が大岩の封印の札にかすった瞬間!


「グアアァァァッ!」

 妖魔の叫び声と共に、弾け飛んだ腕が降って来た。


「目的は札を切り、封印を解くことか?

 鬼封じは特に強力。妖魔の類の触れられるものでは無い」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る