第2話封印の大岩
風が強くなったか。
朱色の
あぜ道を行きながら、畑仕事をする村の人たちに挨拶を交わし、土手の桜並木に開き始めた蕾が春を感じさせる。
林が近くなるにつれ、人の気配も田畑も無くなってきた。
「兄様……」
なんだろう。
空気が、おかしい。
林に足を踏み入れた瞬間、明らかな雰囲気の変化に体が反応する。
何というか、神経に触れるイヤな感じを、どんよりと薄く引き伸ばした様な……。
ともかく生き物のいて良い空気ではない。
「うん。
白い袴の
「参るぞ、薄紅」
兄様は、あの縁側からこれを感じていたのか?
握った左の手を、右の手の平で覆う様に握りしめる。
前を行く背中を追い、村の鬼門へと歩み出した。
「見えた」
獣道を行き、急に開けた大地のその先に見える大岩に目を向ける 。
高さにして五メートルはあろうか、いびつな楕円の大岩は、いつ見ても圧倒される何かがある。
一年前、初めて彼の地を訪れた際にも一度見上げた大岩。
剥がれ落ちそうになっていた封印の札も、その時に兄様が貼り替えている。
「うん。
やはりここからか」
疑惑が確信に変わったと言うか、林の入り口とは比べ物にならないくらいの
「兄様これは一体……」
その問いには答える事なく、一度合わせた視線が同時に大岩の上を振り仰ぐ。
「法師に巫女か……。
ここで、我が糧となれ」
爬虫類を思わせる鱗に覆われた異形の者が、紅く裂けた口から長い舌を伸ばし、こちらを見下ろしていた。
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