第4話刀隠れ

 我が一族は〈刀隠れ〉と言われ、代々直系の巫女にのみ力が継承されてきた。

 力は具現化して刀身をなし、本人のみが振るうことを許される。


 神刀は一振りのみ。巫女が死ぬことで力はついえ、刀はまた次の巫女に宿る。


 それは成長した娘巫女の時もあれば、私のように生まれた時には継承していることもある。

 


 刀を送り出した左手には、出血はおろか傷の一つも痛みもない。


 神刀〈紅桜〉。


 暗器を追って林から影が飛び出して来た。


 一体のみっ!


 振りかぶる、異様に長い指先を刀に受ける。


 キイィンッ。


 鋼の音っ?

 私の太刀たちを受けるのは同じような爬虫類の妖魔。

 どこで拾ってきたのか古めかしい甲冑を身に付けている。


「巫女。

 喰う」

 片言の漏れる口元からは、やはり長い舌が踊っていた。


 ザッッ!

 背後に地面を蹴る草履が半円を描いて動きを止める。

 刀を受けた長い鉤爪がチャキリチャキリと音を鳴らし、頭の悪そうなまなこが私の動きを見据えてきた。


 林の中のもう一体は全く動く気配がない。

 ならば気にしていても仕方がないか。


 最小限の警戒を残し、斬り結ぶ甲冑トカゲに集中する。

 

 ヒュッ。

 

 空気を斬り裂き、間合いを詰める鉤爪の一撃が、身体を反らせた私の髪を数本宙に散らせた。


 ガッ!


 返した手首の握る柄尻を、甲冑トカゲの首元に下から叩き込む。

 

「グゲェッ」


 反り返り大きく開いた首にすれ違うように踏み込んだ刃の一撃が、全く抵抗なく甲冑トカゲの頭を跳ね飛ばした。


 兄様はっ?


 振り返る背後で、甲冑を着けた身体の崩れ落ちる音を聞く。


 足元にトカゲの腕を残し、破魔札で焼かれた灰が風に散っていった。

「こちらは大丈夫だ。

 もう一体は姿を消した様だな」

 兄様の見つめる先には先程の気配は感じられなかった。

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