第11話 駒込
駒込に迷い混むと、道にスイッチが落ちていた。
拾い上げ、手のひらに乗せる。
立方体にはめ込まれた青いスイッチは、押すと少しだけ沈み、カチッと軽い音を立てて元の高さへと戻った。
空を飛ぶカラスが「かあ」と鳴いた。
もう一度スイッチを押す。カラスは鳴かない。カラスを鳴かせるスイッチではないようだ。
路地をしばらくうろうろとしていたら、カラスの「かあ」という鳴き声が聞こえた。ふと手のひらを見ると、元の場所に置いてきたはずのスイッチがあった。
カチッとスイッチを押す。
民家の塀を越して伸びる百日紅の枝から、赤い花弁が落ちた。
もう一度スイッチを押す。赤い花は揺れもしない。花を落とすスイッチではないようだ。
塀の上にスイッチを置いて、また歩き出した。
10匹目のノラ猫とすれ違い、そろそろ家路に着こうかと考えたとき、ふとまだ日が高いことに気がついた。
手のひらにはまたスイッチが収まっている。
カチッと一度押す。何も起きない。もう一度押す。変化はない。
何度も押し続けると、やがて電信柱から伸びる影が角度を変え始めた。
橋の上まで行き、スイッチを川へ投げ、家路につく。
駒込から抜けて手のひらを見ると、そこにスイッチはなかった。
家に帰り夕飯の支度をしていると、やがて夜はやってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます