第5話 新大久保

 窓ガラスにあたる雨粒を目で追っていた。新大久保の暮れどきにいた。


 窓から外の道を見下ろすと、鮮やかな色をした傘が敷き詰められ、ゆっくりと波のように揺れていた。


 いつの間にか、窓ガラスに反射して見える後ろの席の客が変わっていた。

 新たな客はホットコーヒーを飲みながら、ワッフルをかじっている。

 昔とある有名な作家は、夜汽車の窓に映る女性の顔が最も美しいと言ったという。雨降りの日、窓ガラスに映ったワッフルは、ひどく胃袋に訴えかけてくる。


 カウンターから席へと戻る。ワッフルは売り切れていた。小振りなモンブランが乗せられた皿を、テーブルに置く。

 銀のスプーンを口に運ぶ。モンブランも悪くない。上手くガラスに映るよう、皿の位置を調整してみる。


 待ち合わせをしていない待ち人をいくら待っても現れるはずがないと、理解はしても腑には落ちない。

 雨は止まず、眼下に広がる色鮮やかな波が大きなうねりをあげた。

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