想形の証
日は沈み、空には星が点々と輝き始めたが待ち合わせ場所にはまだアルドの姿は現れていなかった。
(・・・まだかな)
ゴブリンと戦ったおかげで変な思考は無くなったが、今度は不安が次第に強くなってきた。
そもそもエイミはアルドが請ける依頼の内容を知らない。
もしかすると今日中に終わらないかもしれない。それとも・・・。
そんな考えが頭をよぎる度に考えないように頭を振る。
手元にある短剣を少し抜いて中を確認し、直ぐに収めて強く抱える。
(どうか、アルドが無事でありますように)
目を閉じてエイミは祈る。
すると不思議と鞘から暖かさを感じ、心が落ち着いてくる。
「エイミ!」
突然の声に一瞬驚いたがその声は今エイミが一番求めていた声だった。
目を開け、声のある方へ振り返るとそこには息を切らせながらカンテラを持ったアルドがいた。
「ごめん、遅くなった」
「うん。待ってた」
「それで、オレに用ってなんだ?」
いきなり用件に入るアルドの朴念仁っぷりに若干眉をひそめるが、ちゃんと来てくれた事の方が嬉しく持っていた短剣を差し出した。
「これ。アルドに」
「短剣?オレに?」
「うん。今まで色々助けてくれたお礼と、あとこの前助けてくれたお礼」
「そんなの別にいいのに。オレ達仲間だろう」
「そうだけど、だからこそアルドにはそれが必要かなって思って」
「これが?」
エイミの話を聞いてアルドは短剣を抜いて夜空に掲げる。
「・・・不思議な短剣だな。持ってると暖かい気持ちになる」
「それは守りの短剣。本当に必要な時にだけ使って」
「・・・ん?。よくわからないがお守りみたいに常に持ち歩いておけばいいのか?」
「うん」
「わかった。じゃあ腰の辺りにでも付けておくよ」
そう言ってアルドは後ろの腰の服の下に装備した。
「用事ってこの短剣だったのか?」
「え?うん、そうだけど」
「それなら昨日でもよかったんじゃないか?」
「ううん。昨日じゃダメなの。今日でなければ」
不思議に思うアルドに強い意志を持ってエイミは返す。
「そ、そうか。・・・ありがとう、エイミ。大切にする」
「・・・うん!」
こうしてエイミのプレゼント計画は無事完了した。
違う時、違う場所、もはやエルジオンのイベントでも何でも無いが、エイミにとってかけがえのない一日になった。
そして、守りの短剣が使われない事を改めて星に願った。
余談。
「ただいまー」
「あ、お兄ちゃんお帰りなさい。エイミさんも」
「あ、うん、ただいま?」
既に日も暮れていたということでエイミはアルドに誘われ再びアルド達の家にお邪魔する事になった。
(なんだか凄く居心地悪い!)
日中お邪魔して人と会うと言って出て行き、戻ってきた時はアルドと一緒では会った人物がアルドというのが丸わかりな状況になってしまいエイミは激しく動揺していた。
アルドはそんなエイミの事などつゆ知らず、台所に立つフィーネに今日請けたミグランス王からの依頼についての話を楽しそうにしていた。
フィーネもエイミがアルドと会った事を何とも思っていないようで、アルドの話に嬉しそうに相槌を打っている。
(しかもこの状況、なんかとても家族っぽい)
先ほどフィーネと話していて一瞬だけ想像した風景にとても似ていて気恥ずかしくなる。
「夕飯できましたよー」
「あ、並べるの手伝う」
座っているより手伝った方が気持ちが紛れると咄嗟に判断し、エイミは席を立ちフィーネの手伝う。
「お、オレも手伝う」
「お兄ちゃんは大人しく座ってて!」
「えぇ・・・」
「あはは」
そんな様子を空気と化していた村長は微笑ましく見守っていた。
(・・・チッ。余計な事を・・・)
普段アルドの腰に下げられている一振りの大剣、オーガベインは新たに自分の隣にやってきた短剣を見て不快感を示す。
まさかこの短剣の存在が既にお守りの効果を発揮していたとは誰も知らない。
オーガベインは時が来たとき、自らが表に出る事も密かに考えていた。
しかしこの短剣の存在がアルドに出来てしまったおかげで考えていた計画が潰えてしまった。
(また一から考え直さねば・・・)
まずはこの短剣がどういうものかという分析から始めなくてはならない。
あの女が言うには抜かれる事は限りなく少ない。
恐らく分析にはかなりの時間を要するだろう。
その間、大剣としてアルドと共に過ごさねばならなくなってしまった。
(まったく・・・忌々しい・・・。・・・フッ・・・)
そう心で悪態をつきながらも最近アルドと旅をするのも少し楽しいと感じているオーガベインだった。
エイミのプレゼント 源 玄輝 @minamotogenki
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