協力者

 情報を集めに太古の時代に跳んだエイミはラトルで聞き込みをしていた。


「うーん・・・」


 しかし成果は芳しくなく、困り果てていた。


 ヘレナから聞いた話だと情熱の証は炎にまつわる物というのは何となく察しがついたのでラトルにやってきたのだが、当てが外れてしまったのだろうか。


「・・・そこのお嬢さん」


「ん?私?」


 何かヒントになるものは無いかと町を歩き回ってると町の一角で机の上に水晶を置いてローブをまとった占い師らしき人物から声を掛けられる。


「何かお探しですかな?何度かお見かけしましたが」


「えっと・・・えぇ、そうなの」


 一瞬どうしようか躊躇ったがほぼ手詰まりだったので藁をもすがる気持ちで占い師に事情を話す事にした。


「・・・また懐かしい物を集めますね」


 話を聞いた占い師はフフッと口元に笑みを浮かべた。


「知ってるのですか?」


「えぇ、まぁ。風の噂に聞いた程度ですけれども、聞いたのが結構前なのでつい懐かしくなってしまいました。もしよろしければ占いましょうか?」


「えぇ、是非お願いします」


「かしこまりました。それでは場所を占わせていただきます。水晶に意識を集中させてください」


 エイミは言われた通り水晶をじっと見つめる。


「お嬢さんの捜し求めている物のヒントになるようなものを水晶に伝えるよう意識してみてください」


 占い師の言うとおりにヘレナが言っていた文献の内容を思い浮かべ、水晶に伝えるよう心で意識をする。


 すると水晶には黒い岩だらけの山の中腹辺りにある溶岩の沼がぼんやり映し出された。


「・・・判りました。ヴァシュー山岳の溶岩沼付近の鉱石が情熱の証だと思われます」


「鉱石?」


「溶岩石の隙間に赤い宝石が見える石があの辺りで採取できます。それを探してみてください」


「わかりました。ありがとう。じゃあお代を・・・」


 立ち上がり財布を出そうとしたところを占い師は手を出して止める。


「お代は全て集まった時で結構です。もし間違っていた場合の事もありますので。もし占いの通り鉱石が見つかったらまたこちらにいらして下さい。次の場所を占わさせていただきます」


「いいの?」


「えぇ勿論。懐かしさを感じさせ下さったお礼に手伝わせてください」


「そう言うことならお言葉に甘えさせて頂きます。それじゃあ行って来ます」


「お気をつけて」


 エイミは占い師に礼を言い、ヴァシュー山岳へ向かった。


 占い師が示した溶岩の沼の周囲に転がっている溶岩石を手に取りながら探していると一瞬赤く輝くものが目に入る。


「これかしら」


 手に取り太陽の光に当てると光を反射した赤い光が目に差し込んでくる。


 ひとまずこれを候補に収め、他にも無いか探したが、同じような宝石入りの溶岩石しか見つからなかった。


(とりあえず一回見せてみよう)


 エイミは一番光の反射が良かった物を選び、再びラトルへ戻ることにした。




「間違いありません」


 占い師に鉱石を見せるとこの宝石入りの溶岩石が情熱の証と言われる鉱石であることを教えてくれた。


「状態も良いですね。以前話に聞いていた物と違いありません」


 そう言って占い師は少し懐かしそうに鉱石をエイミに返してきた。


「では次の証の場所を占わせていただきます。水晶に意識を集中させてください」


「うん」


 言われた通り再び水晶に意識を集中させる。


(・・・?)


 エイミは水晶を見ていると自分が水晶の中に引き込まれそうな感覚を感じた。


 その直後水晶に映像が映り、広い平野を風に乗って飛ぶ綿毛種わたげだねの様子が映っていた。


(ここの風はきっと心地よいんだろうなぁ)


 ぼんやりと映像に意識を乗せてたところでフッと映像が消え、占い師が口を開く。


「ふむ。次の場所はゾル平原のようですね」


 水晶を集中して見ていたせいか、まだ視線の焦点がおぼつかない状態のエイミにそのまま続ける。


「私の聞いた話では植物が対象だったはずです。綿毛種を飛ばす植物はまばらに生息しているのでそこまで苦労せずに見つけられると思います」


「わかった。探してみる」


「ラトルの民であれば直ぐに分かると思うので、もし現地で誰かと会ったら聞いてみた方が早いかもしれません」


「うん。じゃあ行ってきます」


「お気をつけて」


 占い師に見送られエイミはゾル平原へ移動する。


 ゾル平原ではラトルの人達が日常的に狩猟や採取を行っているので誰かと会う度に綿毛種の植物について聞き、何人か聞いたところで群生地を教えて貰えた。


「ここね」


 平原奥地の白い花が咲き乱れる場所へ足を踏み入れると花から綿毛種へ丁度変化する途中の草を見つける。


 エイミは丁寧に根ごと引き抜き、同じ草を何本か同じように根ごと集める。


「これなら間違いないはず」


 以前アルドが薬用のある植物は根の方に効能がある場合があると言ってたのがこんなところで役に立ったと心で感謝しながらエイミは採取作業を続けた。




「では水晶に意識を集中させてください」


 自由の証である植物を見せると占い師は手早く確認し、しっかりと頷き次の場所を占う。


 水晶に映ったのは豊富な水の上をたゆたう様子で、意識を水晶に向けていたエイミはまるで眠りに誘われるような感覚でそれを眺めていた。


 そして映る水が次第に増えていき、最後にはトプンと水の中に沈むとエイミの意識も水の底に引き込まれるようにカクンと落ちてしまった。


「・・・さん、お嬢さん」


 占い師の声にハッと意識が浮上する。


「あれ・・・私・・・」


「大丈夫ですか?」


「え、えぇ。ごめんなさい、ちょっとボーっとしてたみたい。大丈夫よ」


「そうですか。次の目的物はアクトゥールにあります。水といえばアクトゥールですから間違いないでしょう。今回は難しく無く、アクトゥール内の水でしたら大丈夫なよう


 ですが、出来れば綺麗な水の方が良いでしょう」


「うん。わかった」


「それと、水を手に入れたらアクトゥールの宿屋にお越し下さい。次はそちらで占わせていただきます」


「宿屋に?」


「はい。所用がありまして。こちらを片付けて向かいますので丁度お嬢さんが水を手に入れた頃に着くと思います」


「わかった。じゃあ先に行ってる」


「では現地でお会いしましょう」


 エイミは机の上の物を片付け始める占い師を背に先にアクトゥールへ向かった。




「お疲れ様です」


 アクトゥールの宿屋の一室にエイミが向かうと既に占いの準備を整えた占い師が出迎える。


 部屋は窓からの光を完全に遮断し、壁一面に濃い紫色の布を巡らせ、明かりは手元の蝋燭だけという物々しい雰囲気になっていた。


「汲んで来たわ」


 エイミはアクトゥールで手ごろな瓶を買い、小船で水が綺麗な場所を探して汲んできた水を見せる。


「・・・確かに。良い品質です。では最後の証の場所を占わせていただきます」


「うん」


 もう言われるまでもなく対面に座り、水晶をじっと眺める。


 しばらくすると水晶には薄暗い瘴気が漂う洞窟のような場所が映る。


「ここは、人喰い沼ですか・・・。これはまた厄介な場所ですね」


「・・・」


 占い師が場所を特定するがエイミはそれに反応出来ず、まるで水晶内の沼の瘴気を吸い込み当てられたかのように意識が朦朧とする。


「目的の物は最深部に生えるキノコです。採って来れそうですか?」


「・・・うん、やれる」


 占い師から聞こえる声は遠く、水晶を見る目は虚ろなままエイミは答える。


 その返事を聞くと占い師はじっとその様子をしばらく観察してから水晶の映像を消し、明かりの数を増やしてからエイミに話しかける。


「お嬢さん、お嬢さん」


「・・・あ・・・え?」


「いけますね?」


「あ、うん、人喰い沼のキノコね。行ってくる」


「はい。お気をつけて」


 一瞬夢か現実か区別がつかず、占い師に確認を取ってから立ち上がった。


 歩き出すと視界の端々が若干歪み、若干足取りもまっすぐではなかったが、エイミはそれに気付かなかった。




「採って・・・来たわ・・・」


 宿屋から出るより更に弱った状態で帰ってきたエイミは占い師にキノコを見せる。


「確かに。ご苦労様でした。お疲れでしょう。疲れの取れるお香を焚いておきました」


「・・・」


 瘴気を吸ったせいなのかそれとも疲れからなのか意識が混濁気味のままエイミは水晶の前に座り、水晶を見る。


「良い姿勢です。もっと水晶に意識を集中させてください。・・・そうです。そうすれば最後に向かう場所が出てくるでしょう」


 占い師が何か言葉を発する度にエイミの意識はどんどん水晶の中に吸い込まれていく。


 そして水晶にある場所がぼんやりと映り始め、次第に鮮明になっていく。


「コリンダの原。ここが証を持っていく場所です。いけますか?」


「・・・」


 最早完全に意識が呑まれてしまったエイミは反応が無い。


 しかし占い師はそのまま話を続ける。


「よろしい。では指定した場所に次の手順で証を昇華させてください」


 占い師はエイミに証の加工を教える。


「以上でお嬢さんの目的は達せられるでしょう。"お待ちしております"」


「・・・」


 水晶から映像が消えるとエイミはフラっと立ち上がり、目の焦点が合わないまま急ぎ足で部屋を出て行った。


 その様子を占い師は見送り、フード奥の口元が少し釣り上がっていた。

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